初級翻訳・火星兵団 第37話

海野 十三

「ふうむ、柱時計が一時・二時・三時とうって四時がぬけ、それから、五時・六時・七時とうっていったと言うんだね」
「そうなんですよ、先生」
「不思議だねえ」
と、新田先生は、四時をうたない時計の謎を、どう解いてよいか迷った。
「ねえ、先生。
その時計が四時をうたなかったのは、時計がこわれていて、四時のところでは鳴らないのではないでしょうか」
千二は、おもしろい答えを考えだした。
「なるほど、それも一つの考えだね」
と、新田先生はうなずいた。
「しかし千二君、柱時計というものは、たいへんがんじょうに出来ているものだ。
四時だけ鳴らないというようなことは、まず起らないと思う。
とにかく、それをしらべてみようじゃないか。
さあ、先生と一しょに、博士の秘密室へいこう」
新田先生は、千二をうながして、ふたたび博士の秘密室へはいっていった。
うすぐらい電灯がつくと、室内は、さっきと全くかわらないがらんとした部屋であった。
古びた柱時計が二つ壁にかかっているのも、さっきと同じことであった。
もちろん二つの時計は、どっちも動いていなかった。
千二は、この部屋の殺風景さに、ひどく驚いたようであった。
「先生、この部屋は、何だか、気味のわるい部屋ですね」
「そうだ、あまり気味のよい部屋だとは言えないね」
そう言って、新田先生は、つかつかと柱時計の下に歩み寄り、時計の中を見ようとしたが、背がとどかない。
そこで、先生は、梯子を探しにまた外へ出なければならなかった。
一体蟻田博士の秘密室と、そうして四時に鳴らない柱時計の謎とは、どのような関係があるのであろうか。
柱時計の中をしらべるため、新田先生と千二少年とは、部屋を出て、梯子をさがしにいったが、その梯子は、その隣の物置のような室内にあった。
「ははあ、博士は、いつもこの梯子をつかっているのだな」
脚立のような形をしたその西洋梯子を、新田先生は、秘密室へかつぎこんだ。
そうして柱時計の下においた。
ちょうど、ほどよい高さであった。
「先生、僕、梯子をおさえていますよ」
「そうかね、じゃあ、先生はのぼってみるよ」
新田先生は、梯子をのぼった。
先生は、時計の扉を開いてマッチをつけると、その光をたよりに中をのぞきこんだ。
「先生、何か、かわったものが、見つかりましたか」
「そうだね。
時計の中には、ラジオの受信機のように、電線が、ごたごたと引張りまわしてあるよ。
しかし、この電線は、何のためにあるんだか、どうもよくわからない」
「先生、四時が鳴らないわけは、わかりましたか」
「うん、今それをしらべているところだが、ええと、この歯車が、時計を鳴らす時にまわる歯車だ。
すると――」
先生は、また新しいマッチをつけて、時計の中をのぞきこんだ。
「――べつに、かわったことはないようだ。
三時も四時も、ちゃんと鳴るはずだがなあ」
「四時は鳴るように、なっていますか」
「そうだよ、千二君、今、鳴らしてみよう。聞いていたまえ」
新田先生は、時計の中に指を入れて、歯車のしかけを引っ張った。
ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん。
「あっ、四つ鳴った!」
「なんだ、ちゃんと四回鳴るじゃないか」
柱時計は、いきなり四時を鳴らしたのでした。
先生と千二少年は、すっかり拍子抜けして、お互いの顔を見合わせました。
続いてその次の時刻も鳴らせてみると、ちゃんと五時、六時、七時……と、順番通りに鳴り響くのでした。
「ふむ、別にこわれているわけではなさそうだな」
「先生、もう一つの時計も調べてみましょう。
四時を鳴らなかったのは、もう一つの時計かもしれませんから」
「よし。
もう一つの時計も調べてみよう。
今度は千二君、君が調べてみなさい」
「はい!
じゃあ、僕が調べます」
先生が梯子を下りて、隣の時計の横にかけかえました。
代わりに、千二少年がスルスルと登っていきました。
「それじゃあ先生、僕がこの時計を鳴らしてみますよ」
二つ目の時計は、千二の手によって、時を告げはじめました。
柱時計は九時、十時、十一時……と、正しく鳴っていきます。
そして三時を鳴らし、次はいよいよ四時の番です。
「いよいよ、四時のところだ……。
ああっ、なんだか気味が悪くなってきたぞ」
千二は、梯子の上で少し顔をこわばらせました。
「なんだい、千二君。
日本男児のくせに、いくじなしだなあ」
「先生、僕だって勇気はありますよ!
ただ、気味が悪いって言っただけです。
先生、さあ、聞いていてください!」
千二は指先で歯車のしかけを押しました。
すると、二つ目の時計はいよいよ鳴り出しました。
ぼうん、ぼうん、ぼうん、ぼうん。
音の数は四つです!
「なんだ、どっちの時計もちゃんと四時を鳴らすじゃないか」
「おかしいなあ……。
君はこの時計が四時を鳴らさなかったと言ったけれど、今やってみると、一つ目の時計も二つ目の時計も、ちゃんと四時のところで鳴ったぞ」
そう言って、新田先生は千二の顔を見つめました。
「おかしいなぁ……。
そんなはずはないんだけど……」
「たしかに君は、四時を鳴らさなかったと言ったんだね?」
「もちろんですとも!
僕は時計がまちがいなく、四時をとばして鳴ったのを覚えているんです。
絶対にまちがいありません!」
千二はきっぱりと言い切りました。
「そうかね。
それほど言うなら、まちがいないんだろうが……。
だが、この通り、柱時計はちゃんと四時を鳴らすからねえ。
まったくおかしな話だ」
先生は腕を組んで、あきれた顔で柱時計を見上げました。
「これには何か、深いわけがあるはずだ。
――千二君はこの柱時計が四時をとばして鳴ったと言うのに、今鳴らしてみると、どちらの柱時計もちゃんと四時を鳴らす。
なぜ、そんなことになるのだろうか?
この謎の答えが思いつかないうちは、博士の秘密なんて、この先何ひとつ解き明かせないぞ!」
新田先生はうなりながら、一生懸命に考え込みました。
「うむ、これくらいの謎が解けないようでは、地球の人類の命を救うような大仕事なんて、できるわけがない!
ちぇっ、新田、お前の頭も意外とぼんくらにできているなあ!」
もしこれを横から見ている人がいたら、新田先生はおかしくなってしまったのだと思ったことでしょう。
そばに立っている千二少年も、なんだか急に不安になって、気味が悪くなりました。
その時でした。
新田先生は急ににっこり笑顔になると、
「あっ、そうか!
謎は解けたぞ!」
と、パンと手を打ち合わせました。
「先生、わかりましたか!」
千二は胸をドキドキさせながら尋ねました。
あの柱時計がなぜ四時を鳴らなかったのかという謎を、ついに先生が解いたというのですから。
「わかったよ、千二君!
こう考えれば、柱時計が四時を鳴らさなかったように聞こえるじゃないか!」
新田先生は、思わずごくりとつばを飲み込んで言いました。
「いいかい?
はじめ、一つ目の時計も二つ目の時計も、両方とも止まっていたんだ。
そこで、針を指で動かしていく。
まず、どちらか一方の一番目の時計を、ぼうんと鳴らして『一時』にする。
それから、さらに針を回して『ぼうん、ぼうん』で『二時』だ。
それからまたさらに針を回して、『ぼうん、ぼうん、ぼうん』で『三時』だ。

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