初級翻訳・火星兵団 第64話

海野 十三

だが、その中には、火星人の方が逆に人間の知恵に一杯食わされたというケースもないわけではありませんでした。

ある小学校の六年生たちが、ラジオで人間狩りのニュースを知り、ぜひとも火星人と戦おうと決心したのです。
小学生たちは十人ずつチームを組んで、あちこちにわなを仕掛けました。
火星人が通りそうな誰もいない寂しい町の交差点を選び、そこに丈夫な綱を結んで見事なわなを作り、夜が更けるのも忘れて待ち構えていたのです。

みごとに大てがらを立てたチームは、本当に絶好の場所にわなを仕掛けていました。
そのチームの五人は陸橋の上で待ち、残りの五人は陸橋の下にわなを隠していました。
そうしてじっと待っていると、やがて例の黒い長マントを着た火星人が三人連れでやって来ました。

「ほら、来たぞ、来たぞ! あれはきっと火星人にちがいない」
「うん、間違いない。あの黒い長マントを着ているぞ。上の橋の仲間にも教えてやれ!」
「シーッ! そんなに大声を出したらダメじゃないか。火星人に気づかれたら作戦が台無しになっちゃうよ!」

下のチームは橋の上に向けて小石を投げ上げ、火星人が近づいてきたことを知らせました。
上のチームも、怪しい影が近づいてきているのに、さっきからちゃんと気づいていたのです。

そんなこととは露知らず、火星人はあたりに人間がいないかとキョロキョロと注意しながら、のんびりと歩いてきます。
そこを狙って、待ち構えていた小学生たちが、上下から一斉にわなの綱を引っ張りました。

いよいよ小学生と火星人の対決です!
火星人はさすがにあわてた様子を見せました。
なんといっても、足のあたりを太い綱で作ったわなで締め付けられて走れなくて困っているのに、陸橋の上からも別のわなが落っこんできて、火星人のお腹のあたりをギュッと締め付けているのですから……。

「ほら、もっと引け!」
「もっと強く引っ張るんだ! 火星人をいけどったぞ!」
「やったあ、火星人の宙づりだ!」

上と下で待ち構えた十人のチームがお互いに引っ張り合うものだから、かわいそうに、火星人は陸橋の下に宙ぶらりんにされてしまい、まるでクモの巣にヒラヒラとした蝶々が引っかかったような状態になってしまいました。

「ヒュー、ヒュー、ヒュー……」
「プク、プク、プク、プク……」

火星人の連れが二人いました。
この二人は仲間を助けようと何とか手を貸そうとするのですが、上の火星人が大暴れするので、どうすることもできません。
そうしているうちに、宙づりになっていた火星人の足が、付け根のところからポロリと取れてしまいました。

「あっ、足が抜けたぞ!」

陸橋の上の小学生たちは一生懸命に力を入れて引っ張っていたので、宙づりの火星人の足が抜けたのと同時に、勢いがあまってドンと後ろにお尻をついてしまいました。
しかし、子どもたちは一番大事な綱だけは手から離しませんでした。
綱はピンと張り詰めたままです。

綱の先にあるわなは、足のなくなった火星人の胴体から上にずり上がり、首に引っかかりました。
ところが、あいにくそこに橋の桁(けた)があったものだから、火星人の首はその下に見事にはさまってしまいました。
小学生たちはそんなこととは知らずに飛び起きると、みんなで力を合わせて再び綱を「ううんと」引っ張ったのです。

すると次の瞬間、火星人の首がポロリともげ、胴体だけが下に落ちてゴロゴロと転がり始めました!
火星人の足はもげ、首ももげ、もちろん帽子もマントもどこかへすっ飛んでしまい、まるで大きなドラム缶のような形をした火星人の「胴体だけ」が、ころころと転がり出したのです。

陸橋の下は、すべりのいいアスファルトの坂道になっていました。
だから、火星人の胴体はその上をころころと坂の下へ向かって転がり、だんだんとスピードを増していきました。

「うわあ、火星人を待て!」
「いや、火星人じゃないよ、火星人の『胴体』を待て!」
「わあ、胴体が勝手にすごい勢いで転がっていくぞ! おい、もっとスピードを出して追いかけなくちゃ……!」

子どもたちはわなの綱をその場に放り出すと、火星人の胴体を一所懸命に追いかけていきました。
胴体はゴムボールのようにポンポンとはねながら、坂を一気に駆け下りていきました。
その時の勢いはもう凄まじく、まるで大きな大砲の弾が飛んでいくかのようでした。

坂の下の十字路!
そこを火星人の胴体が、坂を下ってきた猛烈な勢いのまま通り過ぎようとした時、交差する別の道路から重戦車がちょうど行進してきました。
そして、あっと言う間に、火星人の胴体は重戦車にはね飛ばされてしまいました。
ぐわあん!
と、ものすごい音が響き渡りました。重戦車もすごいスピードでその場所を通り抜けていたので、火星人の胴体はひとたまりもなくこわれ、戦車の下敷きになってしまいました。
近くにいた人たちは、あまりのびっくりする出来事に息をのんで、戦車の下を見つめました。
戦車はそのまま通り過ぎていきました。
そのあとには、瓦(かわら)のように厚くて、瓦のかけらのように青黒い破片が、あたりにバラバラと飛び散っていました。
そして、その場所にもう一つの不思議なものが転がっていました。
戦車が火星人の胴体をこなごなにこわして、その上を通り過ぎたあとに、瓦のような厚みがあって、瓦のように青黒い破片があたりに飛び散り、そして、そのほかにもう一つの不思議なものが転がっていたと言うのですが、その不思議なものとは、いったい何だったのでしょうか。
それはまったく正体のわからない、ゴムでできたタコのようなものでした。
しかし、決して本物のタコではありませんでした。
その色は変な青色をしていて、大きさは、大きなゆでだこくらい――つまり、大きな猫か、中くらいの犬くらいの大きさしかなかったのです。
(あぁ、何だろう、あそこに転がっているものは?)
と、近くにいた人たちは不思議に思って、こわごわとそのほうを見つめていると、そこへ一匹の白っぽい大きな犬が飛び出してきて、あっと言う間にその不思議なゴムだこ――としか言いようのないものに、ぐわっと噛みつくと、口にくわえたまま向こうへ走っていってしまいました。
「あっ、あの犬を追いかけろ!」
やっと駆けつけた小学生の一団も、犬が不思議なものをくわえていくのを見ました。
「何かくわえていったぞ!」
「変なものが火星人の胴体から出たんだって。あれはみんなぼくたちのものだから、あの犬から奪い返せ!」
そこで、小学生の一団は大きな犬――それはおそらくグレート・デーンという種類の犬だと思われました――のあとを追いかけました。
だけど、犬はどこへ逃げ込んでしまったのか、なかなか行方がわかりません。
犬がくわえていったあの不思議なゴムだこの正体も、結局何がなんだか分からなくなってしまいました。
ただ、人々の記憶に残ったのは、火星人の胴体がこわれたこと、そして胴体の中から変なゴムだこみたいなものが飛び出したこと――この二つだけでした。
大きな犬がくわえていったゴムだこみたいなものは、その後どうなったのか、誰も知りません。

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