こうなったら、相手が怪人丸木であろうが誰であろうが、思い切ってぶつかってみるほか道はないんだ。
我々地球人類の幸福のために!)
新田先生は、自分の胸の中でそう叫ぶと、今度は一層固い決意を胸に、静かではあるけれど確かな一歩一歩を踏みしめながら、地下深くへと降りていきました。
階段が右の方へ曲がっていることも、前回来た時とまったく同じでした。
下のほうへ降りていくにつれて、プーんと鼻をつく妙なにおいが先生の鼻を打ちました。
それは、あのときにかいだのと同じ独特のにおいでした。
先生はさらに下へ下へと降りていきましたが、突然、あかりの届かない真っ暗な廊下に出てしまいました。
(これじゃあ足もとがあぶないぞ!)
そう思ったものですから、先生はポケットに入れてきた懐中電灯を取り出そうとして、その場で立ち止まりました。
そのときでした。先生の足もとが、ぐらりと大きく揺れ動いたのは。
「あっ!」
と叫んだときは、もうすでに手遅れでした。
先生の体はぐっと傾き、がらがらと土が崩れ落ちる音とともに、そのまま下のほうへ滑り落ちていきました。
やがて、先生の体はドスンと下で止まりました。
それと同時に、上から大量の土や石ころがパラパラと落ちてきて、先生の目や口の中に激しく飛び込んできました。
「ああっ――」
先生は息苦しくなって、土や石ころを手で必死にかき分けながら立ち上がりました。
だが、頭を激しく打ちつけてしまったので、先生はしばらくの間、ぼんやりとしてしまいました。
ヒュー、ヒュー、ヒュー。
プク、プク、プク、プク。
先生がようやく意識を取り戻したとき、そんな気味の悪い奇怪な叫び声が、すぐ目の前からはっきりと聞こえてきたのです。
はっと気がついた先生の目の前には、頑丈な鉄の檻(おり)がありました。
そして、その檻の中には、なんと不思議な生き物が閉じ込められていたのです――。それは犬くらいの大きさでしたが、犬ではなく、形はタコによく似ていました。
――大きな頭に、ぎろぎろと動く大きな目玉、それから、胴体がほんの少ししかついていなくて、すぐ手足みたいなものが生えているのです。
「あっ、まだ生きていたな。
この前、穴からのぞいた時に、下にうごめいていた怪物は、こいつらだ!」
先生は、急には言うことをきかない体をむりやりに動かして、檻から少しあとへ下がりました。
ひゅう、ひゅう、ひゅう。
ぷく、ぷく、ぷく、ぷく。
怪物は二匹でした。
その二匹の怪物が、檻の中からしきりに新田先生の顔を眺めつつ、口をとがらせて何か叫んでいるのです。
先生ははじめびっくりしました。
それは、あまりに気味の悪い怪物のそばへ近よっていたからである。
ところが、怪物は檻の中で吠えたてているものの、べつに先生に飛びかかろうという様子ではなく、どうやら何かを訴えているようでした。
そこで、新田先生は変話機があったことを思い出して、ためしにそれを耳にかけてみました。
すると、はたして、
「もしもし、私たちを助けて下さい」
と、はっきりした日本語が、変話機を通じて聞こえてきたのでした。
「おお、こいつらも火星語を話すぞ。
すると、やっぱり火星人なのかな」
先生はもう怖さも何も忘れて、変話機のすさまじい力と、目の前に変わった姿をさらしている地底の怪物とに、たいへん心をひかれました。
「どうか、我々のために力を貸して下さい。
蟻田博士を見ませんでしたか」
と、かの怪物は先生になれなれしく話しかけるのであった。
41 謎! 謎!
「不思議な生物だ!」
と、新田先生はつぶやいた。
博士邸跡の地底にひそんでいるその檻の中の動物は、大きなタこのような形をしていて、火星語を話す。
(火星語を話すからには、火星にいるもののようであるが、しかし火星人とは形がちがうようだ)
新田先生は、怪人丸木を始め、山梨県の山中で見たたくさんの火星人の、あのいかめしい姿を思い浮かべました。
丸木たちはもっとずっと形が大きい。
背も人間とほとんど同じくらいだ。
ところが、檻の中の怪物はそれよりずっと小さい。
大体、半分ぐらいの大きさしかない。
それから、まだ違うところがある。
丸木たちはまるでドラム缶のような硬い胴体をもっているのに引きかえ、この地底の怪物は、胴体などはあるのかないのかわからないくらい小さい。
こう考えてくると、先生には、この地底の怪物と丸木たちの火星人とは、全く別の生物のように思われてくるのだった。
不思議な動物だ。
蟻田博士は前からこの怪物を飼っていたらしいが、どうしてこんなものを生け捕ったのだろう。
そうしてまた、なぜこんなものを飼っているのだろうか。
新田先生の頭の中にはいろいろな疑問が泉のように湧いてきて、とめようもありませんでした。
が、先生はここで決心をかため、この怪物とよく話をしてみようと思いました。
「私でよかったら助けてあげようが、どうすればいいのかね」
新田先生は例の変話機を口にあてて、ものを言ってみた。
怪物は驚きました。
新田先生が思いがけなく火星語を使ったので……。
しかし、それは別に驚くことではありません。
先生は火星人から分捕った変話機を口にあてて使ってみただけなのだから。
「ほんとうに私たちを助けてくれますか」
怪物は新田先生の顔を見て、喜びの声をあげました。
が、急にがっかりした様子で、
「いやいや、だめだ。
蟻田博士でないと、私たちの取扱い方がわからない。
せっかくだが、あなたではだめですよ」
そう言って、怪物はしおれてしまった。
「何、わけがないじゃないか。
私はこの檻を破って君たちを出してあげよう」
そう言って先生は、そばに落ちていた鉄の棒をひろいあげると、檻の弱そうなところを打とうとしました。
「ま、待った、待った」
と、怪物は叫んだ。
「えっ」
「そんなもので打っては、減圧幕に穴があいてこわれてしまう。
減圧幕に穴があけば、私たちは一ぺんに死んでしまう」
と、怪物たちは声をそろえて、新田先生が鉄の棒をふりおろすのをとめた。
「ええっ、その減圧幕とはどんなもの?」
いきなり減圧幕というのが飛び出してきたので、先生は面くらいました。
「減圧幕というのは――つまり、私たちの体をまもってくれているすきとおった幕だ。
地球の空気はたいへん濃いのだ。
私たちは地球の空気の中にそのままはいることは出来ない。
強い空気の圧力のため押しつぶされて、小さくなって死んでしまうのだ」
怪物は自分の体の秘密について、不思議なことを語り出した。
先生はそれを聞いているうちに、重大なことに気がついた。「じゃあ、君たちの国では、もっと、うすい空気の中でくらしているんだね」
「そうだとも」
「君たちの国というのはどこだ。もしかして、君たちの国は火星じゃないのかね?」
新田先生は、地底の怪物にたずねました。
地球にくらべると、ずっとうすい空気の中に住んでいると言うからには、もしや火星なのではないかと思ったのです。
すると怪物は、
「そうだとも! 私たちは火星人なのだ。ぼくの名前はロロ、そばにいるのはルルだよ」
と、とんでもない秘密をあっさり白状してしまいました。
それを聞いた新田先生の驚きは、それはもう大変なものでした。
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