初級翻訳・火星兵団 第110話

海野 十三

火星兵たちは変な声をあげながら、博士たちに向かってせまってきたのです。
そこで博士は大声で怒鳴りつけました。
「来る気か!
来るならいつでも相手になってやるぞ。
おい、新田、千二、吹き矢を吹け!」
新田先生と千二は、さっきから吹き矢を手に持って、いつ命令がくだるかと待ちかまえていたので、すぐさま例の酸素かぶとの下にある口にあてて、ぴゅう、ぴゅう、ぴゅうと矢を吹き出しました。
そのとき、博士が言いました。
「丸木はわしが引き受ける。
丸木には矢をあてないほうがいいぞ。
ほかの火星兵はみんなやっつけてしまえ!」
博士はとっても元気いっぱいです。
こうして、蟻田隊と丸木隊の戦いがはじまりました。
火星兵たちは、いったいどこに隠し持っていたのか、先端の太いこんぼうのようなものを細長い手に握りしめ、蟻田博士たちめがけて押し寄せてきたのです。
「落ち着いて、吹き矢を放つんだ!」
博士は新田先生と千二少年をはげましました。
先生と千二はさっきから、押し寄せる火星兵の群れめがけて吹き矢を吹いていますが、やりなれないことなので、なかなか思うように矢があたりません。
「しまった、またはずした!」
「おい、千二君。
吹き矢の筒をあまり強くにぎりしめちゃいけないよ。
こうして、こんなふうに『ふうっ』と吹くといいんだよ」
さすがは先生、やっぱり上手です。
「なるほど!
そうやるとうまくいくんですねえ。
僕たちがいつも作って遊んでいた吹き矢とは、コツがちがうんだな」
千二は先生に教えてもらったとおりにやってみると、なるほど、吹き矢はぴゅーんと飛んでいって、森の端から顔を出したばかりの火星兵の胸元に、ぷすりと突き刺さりました。
すると、火星兵はまるでネズミがネズミ捕りのワナにかかったみたいに、ぴょんと跳ね上がって、どたんと地面に倒れました。
そして、手なのか足なのか分からないけれど、首の下についている細いものをにゅうっと四方八方に伸ばしたのです。
かと思った次の瞬間、今度は急にその手足をくるくるっと短い胴体の下に巻きつけてしまいました。
そして、まるで青いカボチャを二つ重ねたような格好になって、ぴたりと動かなくなりました。
千二はそれがまりにも不思議だったので、次に吹き矢を吹くこともすっかり忘れて、じっと見とれてしまいました。
「おい、千二君、火星兵がすごくたくさんやって来たよ。
早く吹き矢を飛ばすんだ!」
新田先生にそう注意されて、
「はいっ、吹き矢を飛ばします!」
千二は先生に急かされてハッと現実にもどると、今度は矢を続けざまに飛ばしはじめました。
しゅうっ、しゅうっ、しゅうっ。
今度はよくあたります。
コツさえわかってしまえば、なんと千二のほうが先生よりも上手でした。
なにしろ千二は、自分で吹き矢を作って森で小鳥をとるのが得意で、それが自慢だったのですから……。
火星兵たちは叫び声をあげながらこちらに向かってきます。
こんぼうみたいなものを振り上げて突進してくる姿は、ものすごくすさまじい迫力でした。
そこへ、千二の吹き矢がぴしり、ぴしりと飛んであたります。
おもしろいほどよくあたるのです。
あっちでもこっちでも、火星兵が体を縮こまらせて、ごろごろと転がっていきました。
吹き矢があまりにもよくあたるので、火星兵たちはすっかり怖気づいてしまったようです。
あんなにあんなに勢いよく突撃してきたのに、いつの間にか足元がめちゃめちゃになり、そのうち森の中から一歩も出てこなくなってしまいました。
そして、木の幹の間や岩の影から頭だけをひょっこり出して、こちらをじろじろと見つめるばかりです。
「先生、こっちたちの勝ちみたいですね!」
千二が先生に声をかけました。
ところが、先生からの返事がありません。
「先生……!」「おや、先生はどこへ行ったのかな」
千二はびっくりして、あたりをきょろきょろと見まわしました。
さあ、大変です。
先生の姿は、そこにはありませんでした。
先生の姿だけでなく、博士の姿すらないのです。
見えるのは、正面からこちらをにらみつけている十数人の火星兵の頭ばかり……。
「あれっ、先生も博士も、どこへ行ってしまったんだろうな」
千二は、急に心ぼそくなってしまいました。
いったいどういうことなのでしょうか。

69 まきつく触手

千二はまるで忘れ去られたようにひとりぼっちになってしまいましたが、博士と先生は、どうしていたのでしょうか。
新田先生は、吹き矢を持って火星兵と戦うことに一生懸命でした。
なにしろ火星兵たちは、新田先生を一番強い敵だと見なしていたので、まずはこの先生を倒せばいいと考え、先生めがけて激しく攻め立てていたのです。
そのため先生は、千二のことを気にかける余裕すらなくなっていました。
吹き矢を込めては放ち、込めては放ち、息の続く限り、次々と襲いかかってくる火星兵をなぎ倒していきました。
もし、たった一人でも近づかれでもしたら、大変なことになります。
というのも、火星兵の持っているこんぼうのような武器は、先生の酸素かぶとを上から一撃で打ち砕いてしまうかもしれないからです。
火星兵たちは体こそ小さいものの、人間よりもずっと力が強かったのです。
ひゅう、ひゅう、ぷく、ぷく、ぷく。
火星兵たちはますますいらだちながら、先生めがけて押し寄せてきます。
「まだ来るか。
来るなら何人でもかかって来い!」
先生はそう自分を鼓舞しながら、どんどん前へ出ていきました。
少しでもこちらがひるんだ様子を見せれば、火星兵たちはそこにつけ込んで、一斉にわあと攻めてきそうだったからです。
だから先生は、あくまで強気を見せ、むしろこちらから進んでいくほうがいいと考えたのです。
それは確かに効果がありました。
火星兵どもは遠くから奇声をあげて騒ぎながら、だんだんと森の奥へと後じさりし始めたのです。
「よし、ここだ。
火星兵どもが二度と出てこないように、こちらから押し込んでやるぞ」
新田先生は、なおもぐんぐんと前へ進んでいきました。
そうしているうちに、いつの間にか千二のいる場所からすっかり離れてしまっていたのでした。

では、蟻田博士はどうしていたのでしょうか。
博士は、丸木と向かい合っていました。
どちらも言葉を発せず、じっとにらみ合っています。
聞こえるのは博士の荒い息づかいと、そして丸木の体のどこからか、しゅうしゅうと響いてくる気味の悪い音だけでした。
丸木の目は、なんだか変に飛び出しています。
いったい丸木の顔というものは、ゴツゴツとでこぼこしていました。
松の木の根元を掘ると「松露(しょうろ)」という丸いきのこが出てくることがありますが、あのきのこをさらに何重にもでこぼこさせたような感じの顔だったのです。
目は三つありましたが、正面から見ると二つしか見えないため、そのあたりは人間の顔そっくりでした。
もう一つの目は、顔の後ろについていました。
だから、後ろを見ようと思えば見ることができたのです。
目のついている部分は、カバの目のようにふくれあがっていました。
そして目玉が大きく、ぐりぐりとよく動きます。
どちらの方角もよく見渡せるようになっていたのです。

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