初級翻訳・地底戦車の怪人 第10話

地底戦車の怪人

軍曹殿、だから逆らってはいけません。もしそうなったら自分は、幽霊と差し向かいで暮らすことになるわけで……こりゃあ、やりきれませんよ」

しかし、軍曹は何も答えませんでした。そのとき、パイ軍曹の目に怪しい光が宿りました。次の瞬間、彼は叫び声を上げました。

「ヤッ!」

そう叫ぶやいなや、自分の肩越しに突き出ている機関銃の銃身を、ぐっとつかみ取ったのです。

「さあ、つかんだぞ! 力くらべなら、幽霊なんかに負けるものか。こいつさえ幽霊の手からこちらへ奪い取ってしまえばいいんだ。おい、ピート一等兵! お前も下りてきて手伝え!」

   動かぬはず

黄いろい幽霊が手に持っていた機関銃で、操縦席の前に下がっている南極の地図を指した隙をついて、そばにいたパイ軍曹は、黄いろい幽霊の油断を見逃さず、機関銃を力いっぱい掴んだのでした。
腕力による力くらべには、軍曹はすこぶる自信がありました。

「おい、ピート一等兵! 早く力を貸せ。その幽霊の足を横から払うんだ!」

しかし、ピート一等兵は、蛇ににらまれたカエルのようにすくみ上がったままです。

「ぐ、軍曹どの……自分は、もうダメです……」

「こら、上官を見殺しにする気か! よおし、この機関銃をこちらへ奪い取ったら、一番にこの幽霊を倒し、その次には貴様の胸元に、銃弾で貴様の頭文字を書いてやるぞ! うーん!」

パイ軍曹は顔を真っ赤にして、うなり声を上げながら、必死の力で機関銃を奪い取ろうとしました。ところが、黄いろい幽霊はさっきから一言も発しません。それどころか、軍曹を叱りつけることもせず、好きなようにさせています。一挺の機関銃は、二人の手につかまれたまま、ピクリとも動きません。

「こら、幽霊! そこを離せ。離さないと、貴様を……」

「ほっほっほっほっ。パイ軍曹、君の腕の力は、たったそれだけか?」

「な、なにを……うーん!」

実はパイ軍曹は、さっきからまるで万力に挟まれたかのように動かない機関銃の頑固さに、少々困り果てていたところでした。

「さあ、パイ軍曹。君にこれが取れるというのなら、もっと倍くらいの力を出してみたまえ」

「な、なにを……うーん!」

パイ軍曹は死にものぐるいの力を出して機関銃を前に引っ張りましたが、機関銃は岩のようにびくともしません。軍曹の額からは、大粒の脂汗がぼたぼたと流れ落ちます。

「力自慢のわしが負けるなんて、そ、そんなはずはないのだが……」

幽霊はわざとらしく咳払いをすると、こう言いました。

「戦車の中には食料品が不足しているというのに、そんなところで無駄に力を使っていいのかね?」

「えっ」

この戦車の中に食料の備蓄がないことは、軍曹も最初から知っていました。だからこそ、黄いろい幽霊の言葉はパイ軍曹の腹に、まるで大砲のように響いたのです。彼はとたんに機関銃からパッと手を離しました。

「それで、もともとだ」

黄いろい幽霊はそう言いました。パイ軍曹は急に目の前が真っ暗になったような気がしました。空腹の状態で力を使いすぎたせいでしょう。

「君でなくとも、誰がやってみてもこの機関銃を人力で取り外すことはできないよ。このとおり、大きな金具でガッチリと挟まれているのだからな。ほっほっほっ」

黄いろい幽霊は面白くてたまらない様子で大笑いしました。軍曹が後ろを振り返ってみると、確かに機関銃のお尻の部分が、戦車を固定するための締め金具の間にうまく挟まれていたのです。つまり軍曹は、堅い鋼鉄を相手に、勝てる見込みのない相撲をとっていたことになります。

「ああッ……」

パイ軍曹は呆れ果てて、自分が情けなくなりました。とたんに、体が綿のようにふにゃふにゃと脱力していくのを感じました。

「ほっほっほっ。戦車隊員ともあろう者が、そんな不注意で任務が務まると思っているのか」

黄いろい幽霊は鋭く軍曹を突き放しました。しかしその時、どうしたわけか地底戦車は急に傾き始め、あっという間に大きくでんぐり返しを打ちました。同時に車内の電灯がスーッと消えてしまいました。三人はそれぞれ、カボチャのカゴをひっくり返したように、車内でゴロゴロと投げ出されました。

さあ、一体何が起きたのでしょうか。

三つの場合

海底は真っ暗でした。そのため、何が起きたのか皆目見当がつきませんでした。見えなかったからこそ良かったものの、もし海底に誰か住んでいる者がいて、地底戦車が断崖から真っ逆さまに墜落していくその恐ろしい光景を目撃していたとしたら、きっと腰を抜かしていたに違いありません。

地底戦車は石ころのように転がり落ちたのでした。あの高い断崖から落ちて戦車が壊れなかったことは、実に不思議というほかありません。しかし、それもそのはず。ドイツと並び世界一二を争う工業国アメリカが、その卓越した技術で作り上げた極秘の地底戦車。その頑丈さといったら、恐ろしいほどだったのです。それはそれとして、地底戦車の中の三人は、一体どうなってしまったのでしょうか。
戦車の中は電灯が消えてしまい、まさに真っ暗闇の状態でした。
何の音も聞こえません。
三人とも頭をどこか硬い壁や機械にぶつけて、脳みそが飛び出して死んでしまったのでしょうか。
いいえ、そうではありませんでした。
三人の心臓は、いずれも弱々しくはありますが、それぞれ動いていたのです。
とはいえ、三人とも死体のようにピクリとも動きません。
自分がいまどこにいるのか、それさえ分からない状態です。
三人とも意識を失ってしまったのでした。
ですが、このまま三人とも死んでしまうというわけではなさそうです。
そのうちに一人、また一人と意識を取り戻し、起き上がることでしょう。
しかし、そのあとどうやって生き延びればいいのか、それは誰にも分かりません。
誰が先に目を覚ますか――これは非常に重要な問題でした。

もし、「黄いろい幽霊」が先に息を吹き返して意識を取り戻せば――幽霊が息を吹き返すというのも変な話ですが――すべては戦車が墜落する前の状況に戻るでしょう。
つまり彼は、とにかくパイ軍曹とピート一等兵を助け起こし、その後はまた機関銃をいじくり回して、自分の好きな方角へ突き進むはずです。
ですが、これとは反対に、パイ軍曹が先に目を覚ませばどうでしょう。彼はピート一等兵を靴の先で蹴飛ばして叩き起こし、二人で力を合わせて黄いろい幽霊を縛り上げ、ひどい仕返しをするに違いありません。
幽霊を裸にして天井から吊り下げることくらいは、平気で命令しそうなパイ軍曹ですから。
これは、さっきまで勝者であった黄いろい幽霊にとって、まことに気の毒な展開となるでしょう。

もう一つ、別の可能性が残っています。
それは、ピート一等兵が真っ先に意識を取り戻す場合です。
大きな体のわりに、ひどく気の弱い彼は、一体どうするのでしょうか。
この場合ばかりは、全く予想がつきません。

幸か不幸か、事実は最後に述べた場合となりました。
ピート一等兵が「うーん」と唸って手足を伸ばし、意識を取り戻したのでした。
さあ、どんなことになるのでしょうか?

   脳みそだ!

ピート一等兵は、しばらくの間、ずっと呻き声を上げていました。
「うーん……。

コメント

タイトルとURLをコピーしました