今度からは、太陽の光がしっかりと輝いているうちに出してくださいよ」
「まだそんなことを言うのか。わしは恐竜動物園の園長でもないし、恐竜の親でもないんだからね」
「ロケーションとしては、このあたりが申し分ありません。あの切り立った崖、倒れた大榕樹(ガジュマルの木)、そして背後の入道雲の群れ。そうだ、あの丘の上へ恐竜を登場させてほしいんです。つまり崖の上ですよ、団長さん」
「ああ、なんとでも勝手に言いたまえ。君は昨日の事件で頭が変になったに違いない。あーあ、哀れな人よ」
「冗談でしょう。気が変になっていたら、こんなに見事に仕事の注文をつけられませんよ。僕たちは、この恐竜撮影に成功して、本年の世界映画賞を獲得する確信を持ってやっているんですから。だから団長さんもその気になって、僕たちに協力してくださいよ」
「ああ、いよいよのぼせ上がっているな。かわいそうに」
「もっと注文をつけるなら、崖の上のあの丘を舞台にして、右手の方から恐竜を追い出してもらいたいですね。そして出てきたら、恐竜は首をうんと高く伸ばして、入道雲のてっぺんをペロペロとなめるんです。もちろんそれは格好だけで、本当に雲をなめなくてもいいんですよ」
「わしはもう、君の相手はごめんだ。これ以上付き合っていたら、わしの方が頭がおかしくなってしまう」
「それから今度は、大恐竜が『おやっ』という顔をして長い首を曲げ、崖の下を見る。そこで崖下にいる僕たちの存在に気づいて、長い首を伸ばして、あれよあれよという間に崖の下にいる僕らの誰かの頭にガブリと噛みつき、むしゃむしゃと食べてしまうんです。大恐竜の口にくわえられた探検隊員は、それでも助かろうとして手足をバタバタさせる……どうです、すごいでしょう? 団長さん。あなた、恐竜の口にくわえられて、手足をバタバタと動かせますか?」
「とんでもないことを言う人だ。わしゃ、かなわんよ」
「まあ、そのときは全身の力を振り絞って、手足を大いにバタバタと派手に動かしてくださいよ。それについて団長と契約しましょう。十分映画としての効果が出るように派手に動いてくれれば、その演技に対して僕が二百五十ドルをお支払いします。どうです、すばらしい金儲けでしょう?」
「とんでもない。瀕死の人間が、そんなに派手に手足を動かせるものか。たとえそれができるにしても、わしは恐竜に食べられるのは嫌でござるよ」
「ちぇっ。こんなにいい金儲けを逃すなんて、団長さんも欲がなさすぎるなあ」
映画監督のケンは、残念そうに舌打ちをしながら、目を丘の上へやった。
そのときだった。突然、わんわんと崖の上で犬が吠え出した。
玉太郎はおどろいた。ポチであろうか。ポチのようでもあるし、ポチの声とは違っているようでもある。玉太郎は固唾をのんで、崖の上に目を凝らした。
「ほっ、恐竜が鳴いているぞ。ふん、恐竜は犬みたいな声で鳴くんだな。……おい、カメラ用意!」
ケンは手を上げて、撮影技師のダビットに命令した。
すると、崖の上を右から小さい犬が走り出た。紛れもなく、それはポチであった。
「あっ、ポチ! ポチだ!」
玉太郎は一生懸命、下から呼んだ。しかしポチには玉太郎の声が聞こえないらしく、崖の上で後ろを振り返って吠え立てている。
「あれっ、あんなチンピラ犬か」
ケンはがっかりした。が、彼は続いて、爆発するような声で叫んだ。
「あっ、出た! 後ろから恐竜が現れたぞ! カメラ、はじめ! ううっ、すげえ、すげえ! そのチンピラ犬、早く恐竜に飛びつけ! そうしたら懸賞五百ドルを提示するぞ!」
ケンは怒鳴り、叫ぶ。大恐竜が本当に現れたのだ。崖の上の右手から、長い首だけをぬーっと出して、じろっと崖下の四人の人間を見た。
【くやしい失敗】
巨獣恐竜とテリアのポチとでは、勝負にならない。ぬっと恐竜が首を前へ突き出すと、ポチはあわてて尻込みし、そのまま崖から足を滑らせて「キャンキャン」と悲鳴を上げながら、下に滑り落ちてきた。
「ポチ! ポチ! ぼくだよ、静かにしておくれ!」
恐竜の出現よりも、愛犬ポチが無事に戻ってきたことが嬉しくて、玉太郎は夢中になっていた。ポチは玉太郎の胸に抱きつく。
「ちぇっ、惜しい。もう少し何か芝居をしてくれればよかったのに、もう引っ込んじまった」
映画監督のケンは、残念そうに崖の上を見上げる。恐竜の首はすでに引っ込んでしまって、倒れたヤシの木がその代わりを務めているように見えるだけだった。
「おい、ダビット……」「『恐竜が崖の上に現れた』という大光景、もちろんうまくカメラに収めたんだろうね」
「……失敗したよ。怒るなよ、ケン」
「えっ! 失敗した? どういうことなんだ」
ケン監督は顔色を変えて、撮影技師ダビットの肩を掴んで激しく揺さぶった。
「レンズのふたを、取り忘れていたんだ。……本当にすまない」
「なんだって? カメラのレンズのふたを取るのを忘れただと? それじゃあ、あの息が詰まるような恐竜出現の大光景が、たった一コマも撮れていないのかい。冗談じゃないぞ! 俺たちは命がけで、こんな熱帯の孤島までやってきて苦労しているんだぞ……!」
「今後は気をつけるよ、ケン。なにしろ、俺は恐竜があまりに巨大だったのでびっくりして、すっかりレンズのふたを取ることを忘れてしまったんだ。これからは、こんな失敗は二度と繰り返さない。しかし、ああ、本当に驚いたなあ」
「恐竜を恐れていては仕事にならないよ。あんなものは、針金と布切れと紙とペンキでこしらえた『作り物』だと思って向かえばいいんだ。しっかりしてくれよ」
「すまん。本当に、すまんよ」
「こうなったら、次はもっとすごい場面に出会いたいものだ。おい、隊長どの。次は恐竜がどこに現れると思いますか?」
監督のケンは、どこまでも人を食ったような質問をして、伯爵隊長の目を丸くさせた。
「わしが恐竜を飼っているわけでもあるまいし、そんなことを知るもんかね……。しかし、恐竜がこの島に住んでいることだけは、確かに証明された。それならば、今日のうちにもまた恐竜に再会することができるじゃろう」
そう言って伯爵隊長は、ため息をつきながら胸を押さえた。昨日から驚いてばかりの伯爵は、心臓の調子が少し悪くなっているようだった。
「あの崖を登って、恐竜がさっき首を出したところがどんな場所なのか、調べてみたらどうですか」
ポチを抱きしめている玉太郎が、このとき意見を言った。
「うむ。それは考えないでもなかったが、ちょっと……すぐにはできないね」
監督のケンは、今までの勢いとは打って変わって尻込みをした。
「わしは、一度後ろへ下がって、少し準備をしてから恐竜に向かうのがいいと思うね」
これは伯爵隊長が言った言葉だ。
「そうですか。それでは僕ひとりで、崖の上へ行ってみましょう。みなさん、ここで待っていてください」
玉太郎はポチの頭を撫でながらそう言った。
「そりゃ冒険すぎる。君ひとりで行かせるわけにはいかない」
ケンとダビットが顔を見合わせて何やら相談していたが、話がまとまったようで、「よろしい。玉太郎君に賛成だ。ぼくたち二人も君と一緒に崖を登るよ。
コメント