かぼちゃを受け取ると、妖精はその中身をのこらずきれいにくり抜き、外側の皮だけを残しました。
それから妖精は、手に持っていた魔法の杖で「コツ、コツ、コツ」と三回軽く叩きました。すると、かぼちゃはみるみるうちに、金色に輝く立派な馬車へと変身したのです。
妖精は次に、台所のねずみ捕り器をのぞきに行きました。
するとそこには、まだ六匹のはつかねずみが元気いっぱいに生きていました。
妖精がサンドリヨンに言いつけて、ねずみ捕りの扉を少しだけ持ち上げさせますと、ねずみたちは大喜びでちょろちょろと飛び出してきました。そこへ妖精が杖をそっと当てると、ねずみたちは一瞬で立派な馬へと変わり、美しいねずみ色の馬車馬が六頭、そこにできあがりました。
けれども、馬車をあやつる御者(ぎょしゃ)がまだいませんでした。
「わたしが行って、見てきましょう。
もしかしたら、大きなねずみが一匹、まだねずみ捕りにかかっているかもしれません。
それを御者にしてあげましょうよ」
「それがいいわね。行ってごらん」と妖精は言いました。
サンドリヨンは行って、別のねずみ捕り器を持ってきました。その中には、大きなねずみが三匹入っていました。
妖精はその三匹の中から、いちばん立派なひげを生やした大ねずみを選び出して、杖でチョンと触ると、ふっくらとした元気のいい御者に変えました。
その御者は、世にもめったに見られないほど、ぴんとした立派な口ひげを生やしていました。
それがすむと、妖精はサンドリヨンに向かって、こう言いました。
「もう一度、裏のお庭へ行ってごらん。ジョーロの後ろにかくれんぼしているとかげを、六ぴき見つけていらっしゃい」
サンドリヨン言われたとおりにとかげをとって戻ってくると、妖精はすぐにそれを六人の従者(べっとう)に変えてしまいました。
彼らは金や銀の美しいぬい飾りがついたピカピカの制服を着て、馬車の後ろのステップに飛び乗りました。
そして、そこにぴたっと張り付いたまま、わいわいと楽しそうに体を寄せ合っていました。
そのとき、妖精はサンドリヨンに言いました。
「ほら見て、これでダンスパーティーに行くお供のメンバーがぜんぶ揃ったでしょう?
どう、気に入った?」
「はいっ、はいっ! 気に入りましたとも!」
サンドリヨンは嬉しさのあまり大声をあげました。
「だけどわたし、こんなきたないボロを着たまま、出かけなければならないのでしょうか……?」
すると妖精は、ほんのわずか、杖の先でサンドリヨンの体をチョンと触りました。
そう思った瞬間、サンドリヨンのツギハギだらけの普段着は、みるみるうちに宝石がちりばめられた金と銀の美しいドレスへと変わっていきました。
それがすむと、妖精はサンドリヨンに、それはそれは上品で美しいリスの毛皮の上靴(※ガラスの上靴だったとも言われています)を、一足プレゼントしてくれたのでした。こうして、すっかりしたくが終わって、いよいよサンドリヨンが馬車に乗ろうとしたとき、魔法の妖精は改めて、サンドリヨンに向けて、なにがあっても絶対に夜の十二時をすぎてから舞踏会にいてはならないと、厳しく言い聞かせました。
もし十二時から一分でも遅れてしまったら、馬車はまたただのかぼちゃに戻り、馬は小さなねずみに、御者は大きなねずみに、従者たちはとかげになり、いま身につけている立派な着物も、もとのボロに戻ってしまうのだと言い聞かせたのです。
サンドリヨンは、妖精に対して、決して夜十二時すぎまで舞踏会にはいませんという、固い約束をしました。
そうして、もうはち切れそうなほどの嬉しさをどうにかおさえながら、馬車に乗り込みました。
三
さて、王子は、その晩、だれも名前を知らないどこかの立派な王女さまが、いましがた馬車に乗って舞踏会に到着したという知らせを聞いて、わざわざ自らお迎えに出て来ました。
王子は、王女さまが馬車からおりるとその手をとって、広間のたくさんの人たちがいる中へと案内して行きました。
すると、広間の中はたちまちしんと静まりかえり、みんなダンスをピタリとやめてしまいました。
バイオリンの音楽さえも止まってしまいました。
それは、このめずらしいお客さまのあまりの美しさに、だれもかれもがすっかり気をとられて、ぼんやりしてしまったからでした。
その静けさの中で、ただかすかに、こそこそとささやく声だけが聞こえ、
「ほう、きれいだなあ」
「ほう、きれいだなあ」
と、みんなそればかり口にしていました。
王様も、もうお年は召していましたが、そのときばかりは思わずサンドリヨンの顔をじっと見つめずにはいられませんでした。
そして、そっとお妃さまの耳もとにささやいて、
「こんなにきれいな、かわいらしい娘を見るのは、本当に久しぶりだ」
と、おっしゃっていました。
貴婦人たちは貴婦人たちで、みんなじろじろとサンドリヨンの着物から頭の飾りものまで念入りに調べてみて、「まあ、まあ、あんなに立派な布地と、それを仕立てる腕の良い職人さえいれば、明日にもさっそくこの型で自分用のドレスを作らせてみよう」と考えていました。
王子はサンドリヨンを、その場の中でいちばん名誉ある上席へ案内し、それからまた手を取って連れ出し、いっしょにダンスを始めました。
サンドリヨンがあまりにもしとやかに優雅に踊ったので、周りの人たちはいよいよびっくりしてしまいました。
さて、まもなく豪華なごちそうが運ばれてきましたが、若い王子はサンドリヨンの顔ばかりを見つめていて、ごちそうはひとつものどを通りませんでした。
サンドリヨンはやがて、自分の意地悪なきょうだいたちのいる場所へと歩いて行き、そのそばに優しく腰をかけて、王子からもらったオレンジやレモンを分けてやったりして、それはそれはいろいろと優しい振る舞いを見せました。
けれど、ふたりはそのお姫さまがまさかサンドリヨンだとは夢にも思わなかったものですから、ただただ驚いて目ばかりをくるくるさせていました。
サンドリヨンは、こうしてきょうだいたちのご機嫌をとっているうちに、時計が十二時の十五分前を打つのを聞きました。
するといきなり、サンドリヨンはまわりのほかの客たちにていねいなあいさつをして、ふいとその場から立ち去ってしまいました。
四
さて、家に帰ると、サンドリヨンはそこに待っていた妖精に出会ってたくさんのお礼を言ったあと、明日もまたぜひ舞踏会に行かせてくださいとお願いしました。
それは、王子がぜひにと熱心にお望みになっていたからでした。
こうして、サンドリヨンが舞踏会でどんな素晴らしい体験をしたかを妖精に夢中で話していると、やがてふたりのきょうだいが遊びから帰って来て、玄関の戸をコンコンと叩きました。
サンドリヨンは駆けつけて、戸を開けてやりました。
「まあ、ずいぶん長く出かけていらしゃったのね」
サンドリヨンは大声であくびをし、目をこすりながら、うーんと伸びをしました。
それはまるで、ずっとうたたねをしていて、たった今目を覚ましたばかりだというような様子でした。
けれど本当は、ふたりが出かけてからというもの、サンドリヨンは嬉しさのあまり一睡もしていなかったのです。
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