花物語

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寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第1話

一 昼顔 私が何歳くらいの時のことだったか、はっきりとは覚えていませんが、まだ小さかった頃の話です。 家の前を流れる濁った堀川に沿って、半町(約五十五メートル)ほど上流へ行くと、川は左に折れて、昔の城のすその茂みへと続いていました。その城に...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第2話

落ちた花は朽ちて腐り、一種の甘いような強い香気が小庭に満ちました。このあたりに多い大きなハエが、ブンブンと勢いよく羽音を立ててこれに集まっています。力強い自然の旺盛な生命力が、脳を襲ってくるように思われました。この花の散る窓の内側には、内気...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第3話

蟻が二、三匹たかっています。俊坊が急に泣き出したのでのぞいてみると、蚊帳の中に座って手足を投げ出し、泣いていました。勝手から妻が飛んできます。坊は牛乳のびんを、投げ出した膝の上で抱え込み、乳首から息もつかずにゴクゴクと飲みます。涙でくしゃく...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第4話

強引に連れて行こうとすると、子供は道の真ん中にしゃがみ込んで、とうとう泣き出してしまいました。母親は途方に暮れながら、子供を叱りつけていました。自分はその時、虫かごのふたを開けてカブトムシを取り出し、道端に生えていた相撲取草(すもうとりぐさ...
寺田 寅彦

初級翻訳・花物語 第5話

門の屋根裏に巣を作っているツバメが、田んぼから帰ってきてはまた飛び立っていくのを、羅宇屋はキセルをくわえながら感心したように眺めていましたが、「鳥の中でも、ツバメほど感心な鳥はまずいないね」と前置きをして、こんな話を始めました。村のある旧家...
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