夏目 漱石

スポンサーリンク
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第21話

たまに、驚いたお婆さんが代筆をしてくれることがあります。その時は、とてもよく分かります。先生は便利な書記を抱えているものです。先生は「自分は字が下手で困る」とため息をついていました。そうして私に対して「君の方がよほど上手だ」と言ってくるので...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第20話

いつかベーカー街で先生に出会った時には、鞭を忘れた御者(馬車の運転手)かと思ったほどです。先生が白いシャツや白い襟を着けているのは、一度も見たことがありません。いつも縞模様のフランネルの服を着て、モコモコしたスリッパを履き、その足を暖炉の中...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第19話

二人とも月給を五円ずつもらって、日に二時間ほど教えていました。僕は英語で地理や幾何学を教えていました。幾何学の説明をする時、どうしても重なるはずの線が重ならなくて困ったことがありました。ところが、複雑な図を太い線で書いているうちに、その線が...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第18話

心二階の手すりに、お風呂上がりの手ぬぐいをかけて、日差しがいっぱいの春の町を見下ろしていると、頭巾をかぶって、白いひげをまばらに生やした「歯入れ屋」のおじいさんが、垣根の外を通っていきます。古い鼓を天秤棒にくくりつけて、竹のヘラで「カンカン...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第17話

その声はとても遠くから響いてくるのに、不思議とすぐそばで聞こえるようにハッキリとしています。――お母さんは、五年前にもう亡くなっています。豊三郎はハッとして、視線を動かしました。すると、さっきまで見ていたキリの木の先が、また目に入ってきまし...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第16話

開けっ放しになった戸が、空っぽの日差しを書斎の入り口に送り込み、縁側に幅四尺(約1.2メートル)の寂しさを感じた時、向こうの隅で急にヴァイオリンを擦る音がした。続いて、小さな喉が寄り合って、ドッと笑う声がした。うちの子供たちは毎日、母さんの...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第15話

すると、中国人が出てきて『よし』と言うので、もう取引は完了かと思いきや、蔵の前へ高さ一間(約1.8メートル)もあるような大きな樽を持ち出して、そこに水をどんどん汲み込ませるんです。――いや、何のためだか私にはさっぱり分かりませんでした。なに...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第14話

大刀老人は、とうとう先祖代々伝わる大切な掛け軸を売り払って、お金を工面しようと決めました。息子に「どうだろうか」と相談すると、息子は恨めしいほどあっさりと「それがいいでしょう」と賛成してくれました。息子は内務省の社寺局で働いていて、月給は四...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第13話

路地を出るやいなや、さっき地面を蹴って駆け上がっていった蒸気ポンプ車が、目の前でじっと止まっていました。ポンプ車はなんとかここまで馬を進めましたが、二、三メートル先の曲がり角に行く手を阻まれ、どうすることもできずに炎を見つめています。炎は鼻...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第12話

ただ、その色合いだけは、現代という時代を飛び越えて、ずっと昔の空気の中に黒々と埋もれているような、そんな古道具屋にぴったりな渋い調子でした。井深は、これはきっと安いに違いないと見抜きました。店主に値段を聞くと「一円だ」と言うので少し迷いまし...
スポンサーリンク