金 史良

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天馬

初級翻訳・天馬 第10話

今では貴様を監獄にぶち込むぞという脅し文句も、もう通用しなくなってしまった。彼に残されているのは、あちこちをゆすり歩いて一文無しでも酒にありつくための口先だけだ。それがけしからんというので、大村はこの僕にお寺へ行けと命じているではないか。も...
天馬

初級翻訳・天馬 第9話

だが、かれこれ二時間あまりも歩き回ったのに一向に手がかりは掴めず、激しい疲労が押し寄せ、お腹が空いてたまらなくなってくるばかりだった。とうとう優美館の裏あたりまでやって来ると、そこはかなり人通りも少なく寂しい場所だった。彼はもう一歩も足を運...
天馬

初級翻訳・天馬 第8話

そのため、木の枠は花束ですっかり埋まってしまい、うなだれている桃の花々はなんだかとてもかわいそうに見えた。「わしはな、かかあをもらった年に、二人でこの桃の木を植えたんでがす。そのかかあが、死きちまったんだ。そのかかあがよお!」と、農夫は叫ん...
天馬

初級翻訳・天馬 第7話

そして、わざわざ古本屋へと彼女を引っ張り込み、自分のプロフィールが載っている三流雑誌を探し出すと、グラビアのページを開いて、「これが誰だかわかるかい?」と、得意げに自分の写真を指さしてみせたのだ。「おーっ!」と、彼女は驚いたようなふりをした...
天馬

初級翻訳・天馬 第6話

まあ何にしても、田中くんも今じゃすっかり売れっ子になって、中堅の作家だからね。どうだい、彼を囲んでみんなで集まろうよ。その時は君も絶対に来てくれよな!」「もちろん、喜んで行くわよ!」「ところで実はね、田中くんは大村くんと大学の同窓生で、すご...
天馬

初級翻訳・天馬 第5話

本当のところ、玄竜はもっともらしい愛国主義という綺麗ごとの裏に隠れて、朝鮮語で作品を書くことどころか、その言葉が存在すること自体を政治への無言の反逆だとデタラメを言いふらして告発するような男の一人だった。だからこそ、たとえ純粋な文化活動であ...
天馬

初級翻訳・天馬 第4話

軽薄な女流詩人文素玉は玄竜をこの上もなく尊敬しているのだった。彼はいみじい詩の言葉、ラテン語やフランス語を知っているばかりか、彼女の好きなランボウやボードレールともただ国籍を異にしているだけに過ぎないと彼女は固く信じている。玄竜は又自分でも...
天馬

初級翻訳・天馬 第3話

「ぼく、玄竜という者です」髪をきれいにとかして分けたボーイは、「またこの野郎が来やがったな」といった冷ややかな目を向け、彼の上から下へとじろじろ眺めてから、こう言った。「あいにくお出かけですが……」「出かけた?」玄竜は、いかにも意外だという...
天馬

初級翻訳・天馬 第2話

「コーヒー!」女の子はびっくりして、慌ててどこかへ飛んでいってしまった。すると彼はすっかり満足したようにニヤッと笑いを浮かべ、お尻を持ち上げると、今度はどういうつもりか調理場の方へとまるで犬のように這うようにして入っていき、「おいや、すみま...
天馬

初級翻訳・天馬 第1話

一 重苦しい雲が低い空にどんよりと垂れ込めたある日の朝、京城(けいじょう)の有名な盛り場である新町(しんまち)の裏小路にある娼家(しょうか)から、みすぼらしい格好をした小説家の玄竜(げんりゅう)が、ごみごみとした細い路地へと、まるで放り出さ...
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