「さあ、お葬式も無事に済んだけど、おばあさんはあのたくさんのお金をいったいどこにしまったんだろうね?」
と、ある人が言いました。
「まったくその通りだ。おばあさんは大金持ちだったんだから。
きっとどこかに隠してあるに違いありませんよ」
と、別の人が言いました。
集まった人たちは、家の中をくまなく探し始めたのです。
けれど、財布の中にわずかに残っていた小銭のほかには、まとまったお金というものはどこにも見当たりませんでした。
「こんなにお金がないはずがない。
きっと天井板の上のほうに隠してあるんだ……。
それがなければ、畳の下に違いありませんよ」
と、またある人が言いました。
天井板の上も、そして畳の下も、隅々まで探しましたけれど、やっぱりお金は見つかりませんでした。
「おばあさんは、もうお金なんて持っていなかったんじゃないだろうか。
そして、お金がなくなってしまったからこそ、ちょうど自分の命も尽きてしまったのだろう……」
と、そう言う人もいました。
みんながこうして家の中で大騒ぎしているのを、黒ねこは情けなそうに、ただ黙って見つめていました。
「そうだ! この黒ねこなら、お金がどこにあるか知っているはずだ。
おい、どこにお金がしまってあるんだ、言え! 言わないなら、もうだれもご飯をやらないからな!」
と、人々は黒ねこに向かって怒鳴りつけました。
こうして黒ねこは、ついにその日から、最愛の主人を失ってしまったのです。
それからというもの、黒ねこはひとりでさびしく、暗い空き家に住み続けました。けれど、だれもご飯をくれる人はいないので、夜になると外へ出て、あたりのゴミ捨て場をあさって飢えをしのぐしかなかったのです。
そうしているうちに、寒くて恐ろしい冬がやって来ました。
ゴミ捨て場の上まで、雪が深く積もってしまいました。
哀れな黒ねこは、ひもじいお腹を満たすこともできず、悲しく、うらめしい声を上げながら、深夜の雪の上をさまよい歩いたのでした。
家の中では、人々が目を覚まし、悲しそうに鳴くねこの声にじっと耳を傾けていました。
「かわいそうになあ、おばあさんが亡くなってから、だれも食べ物をやる人がいないから、ああして鳴きながら探し回っているんだ……」
村の人たちはそんなふうに話していました。
それは、猛吹雪の吹き荒れる、それはそれは寒い寒い夜のことでした。
黒ねこは野原の中で、凍えながら息絶えていました。
村の人はそれを見つけたものの、どこか気味悪がって、その亡骸に手を触れる者はだれひとりいませんでした。
「もう一度激しい吹雪がくれば、黒ねこは雪に隠れて見えなくなるだろう……」
そう思いながら、人々は雪の上にある黒ねこの亡骸を眺めていました。
しかし、一度はその真っ黒な動物の体が吹雪で隠れたものの、天気になると、また黒々とした姿が雪の上にぽっかりと現れるのでした。
そのとき、どこからかたくさんのカラスが集まってきて、野原に降り立ち、黒ねこの亡骸をつつきました。
村の人たちは雪玉を投げつけるなどしてカラスを追い払おうとしましたが、二、三日のあいだは、そのあたりを離れず、ガアガアと鳴き声を響かせて飛び回っていました。
雪が深く積もり、山にも里にも食べ物がまったくなくなってしまっていたからでしょう。
カラスたちは、黒ねこの亡骸をすっかり食いつくしてしまうと、またどこへともなく飛び去っていったのでした。
村人たちがその出来事をすっかり忘れてしまったころ、ちょうど雪がすっかり消え去った春先のことでした――。ふたたびどこからともなくからすが集まってきて、おばあさんの家の裏手の、いつか黒ねこが犬に追われて、逃げてきて上がった、高いすぎの木の枝に巣を造りはじめたのでした。
山の方から、また丘を越えて、海の方から枯れ枝や、海草や、毛のようなものをくわえてきて、からすは巣を造りました。
「おばあさんの家の裏へ、からすが巣を造りましたね」
「あの家は、黒ねことか、からすとか、いろいろなものがくる、みょうな家ですこと」
村の人たちは、こんな話もしたのでした。
ある日のこと、みんなが、わいわいいって空をながめていました。
晩方の空にからすがてんでに、ぴかぴか光るものをくわえて、すぎの木の頂を飛びまわっていたのであります。
「あれは、なんでしょうか?」
村の人たちは、木の下にやってきました。
そして、中には、わざわざ木の上へ登ってゆくものもありました。
からすは、巣の中へ、光るものをくわえてはいるのもあれば、また、これをくわえて山の方へ、丘を越して海の方へ、思い思いに飛び去ってしまうものもありました。
木の上へ登っていったものは、ようやくのことで、からすに頭をつつかれたり、目をねらわれたりするのを防いで、巣の中から光るものを一枚取り出してみたのでした。
「金の小判だ!」と、木の上から叫びました。
木の下に立っている人たちは、まさか金の小判をからすがくわえてくるはずがないといって信じませんでした。
そのうちに、木から降りてきたものが、それをみんなに見せると、ほんとうに、金の小判でありました。
村の人たちは、大急ぎをして、からすの持っている金の小判を奪おうとしました。
しかし、からすは、それをくわえて、いずこへとなく、みんな散ってしまって、村人の手にはいった小判は、やっと二枚しかありませんでした。
「おばあさんは、金を持っていなされたはずだが、なくなられても金がどこにも見つからなかったのはおかしいと思っていた。
からすが、どこからか見つけ出して、くわえていったのだろう……」
「まだ、どこかに、隠してあるかもしれない」
彼らは、宝探しでもするように、おばあさんの家の周囲を掘りはじめたのです。
けれど、なにも見いだすことができなかった。
この話が、まったく、不思議な話として伝わりました。
その翌年のこと、村に悪い病気が流行しました。
ちょうど、そのとき、旅の薬売りが村へはいってきたので、村の人は、その薬売りから薬を買いました。
その薬は、たいへんに病気によくきいたのであります。
薬売りは、あちらへ呼ばれ、こちらへ呼ばれしました。
「なにか、この村にたたっているのではありませんか?」と、薬売りはいった。
村の人は、べつに、たたるものもないが、おばあさんが死んだけれど、だれも、墓を建ててやるものがないということを告げました。
薬売りは、頭を振りながら、
「それは、よくありません。
村の人のお世話になった、おばあさんの墓を建ててあげないという法はありません」といいました。
「薬屋さん、あなたのいわれるのは、もっともなことです。
けれど、この村は、いつだって貧乏です。
そんなにお金がないのです」と、村の人は答えました。
薬屋は、考えていましたが、
「私の持っている薬は、どれも家伝の名薬です。
この薬の造り方を、この村の人たちに教えてあげましょう。
そのかわりに、からすのくわえていたという二枚の金の小判を私にください。
私はそれを土産にして故郷へ帰り、この不思議な話をいたします……」といいました。
村の人たちは、集まって相談をしました。
そして、二枚の小判を薬売りにやりました。
初級翻訳・おばあさんと黒ねこ 第2話
おばあさんと黒ねこ
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