初級翻訳・ばけものばなし 第6話

ばけものばなし

わたしは夢の中でありながら、まさにそんな鬼を見たのです。鬼とは、本当にまさにあんな姿をしたものなのだろうと思えるような鬼でした。

その夢というのは、こういう内容でした。
ちょうどその頃、知人の家庭で少しゴタゴタがあったのですが、夢の中でもそのいざこざが原因で、その知人の家へわたしと妻の二人で出向いていたのです。
八畳ほどの広さの部屋で、真ん中に電気が灯っています。
時間は夜でした。
みんな座敷に立ったまま何か話をしています。そこにいるのは、わたしの妻のほかに、そこの家の主人と奥さんの、合計四人でした。
部屋の左側はふすま、右側は障子になっていますが、どちらも開け放たれていて縁側があり、その外側は真っ暗な庭になっていました。
わたしがふと、右手の縁側の方を見るともなしに眺めたところ、そこに変な奴が立っているのが目に入りました。
それは鬼でしたが、顔の皮膚がちょうど殻をむいた桜エビのような色をしていて、妙に生々しい質感なのです。
絵にかいたようなトゲトゲしいものはありませんが、短い角は生えていました。
髪の毛はざんぎり頭にしています。
それが、ひどく汚れた印半天(しるしばんてん)のような服を着て、帯の代わりに汚れたひもを締めていました。
胸元が少しはだけていますが、その肌の色もやはり顔と同じ桜エビ色でした。
両手はだらりと下げていて、やはり顔と同じような色と生々しい質感を持っています。
そいつが、まったくの無言で縁側の外に立っているのです。わたしは、「これは大変だ、イヤなものがやって来たぞ」と、心底からゾッとしました。
こういう恐怖心こそが、おそらく本物の化け物に遭遇したときのリアルな感覚に近いのではないかと、わたしはいつも思っています。
妻やほかの人たちに知らせて大騒ぎでもしたら、あいつが座敷に上がってくるかもしれない、どうしよう――そう考えていると、突然、妻がものすごい金切り声で「どうしましょう、あんなものがいます!」と言いました。
その声を聞いたと同時に、わたしは一目散に部屋の隅の柱にしがみつき、ほかの人たちも飛んできて、わたしの上からギュッとすがりつきました。
すると、あの鬼が座敷に上がってきて、しがみついている人間を一人ずつ上からはがしていくのではないか――そのときの恐怖感は、あまりにもリアルなものでした。
そこでハッと目が覚めたのですが、この夢の中で聞いた妻の叫び声やその言葉も、かなり現実味を帯びたものだったようにわたしは思うのです。

「ばけもの談」として、ずいぶん長くつまらないことを書いてしまいました。このあたりで、このお話の化け物たちにも消えてもらおうと思います。
(大正十三年八月二日記)

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