こうして、タラス王はしまい切れないほどのお金を集めることはできましたが、その暮らしといったら、見るも無残にみじめなものになってしまいました。
王はもういろいろな商売や計画をやめて、ただその日を生きて行けるだけでがまんするようになりましたが、やがてそれもできなくなってしまいました。
あらゆるものが足りなくて、不自由したのです。
料理人も、馬をあつかう馭者(ぎょしゃ)も、お城の召使も、家来たちも、一人また一人と王を置き去りにして、例の商人のところへ働きに行ってしまいました。
まもなく食べ物にも困るようになりました。
市場へ人をやってみても、買うものは何もありませんでした。
――つまり例の商人が何もかも買い占めてしまって、人民たちはただ税金だけを、王のところへ納めに来るだけだったのです。
タラス王は大そう腹を立てて、例の商人を国から追い出してしまいました。
ところが商人は、国ざかいのすぐ近くに住みついて、やっぱり前と同じやりかたを続けました。
人民たちは欲しかったお金欲しさに王をのけ者にしてしまい、何でもかんでもすべて商人のところへ持って行ってしまったのです。
タラス王はいよいよ困り果ててしまいました。
何日もの間、食べるものが何もありませんでした。
しかも耳に入るうわさによれば、例の商人は今度は「タラス王をまるごと買ってやる」と言って、威張っているということでした。
タラス王はすっかり肝を潰して、どうしていいか分からなくなってしまいました。
ちょうどこの時、兵隊のシモンがやって来て、
「助けてくれ、印度王にすっかりやられてしまったんだ」
と言いました。
しかし、タラス王自身も身動きが取れないほど苦しい立場になっていましたので、
「おれだって、もう二日間というもの、何一つ食べるものがないんだ」
と答えるのがやっとでした。
一一
二人の兄たちを取っちめてしまった年老いた悪魔は、今度はイワンの方へと向かいました。
かれは立派な将軍の姿に化けて、イワンのところへ行き、国のために軍隊を作らなければいけないとすすめました。
「軍隊がなくては、王様らしくありません。
一つ私に命令していただければ、私が人民たちから兵隊を集めて、立派な軍隊を作ってみせましょう」
と言いました。
イワンはかれのいうことをじっと聞いていましたが、
「いいとも、いいとも。
じゃあ一つ軍隊を作って、唄を上手に歌えるようにしこんでくれ。
私は兵隊が歌うのを聞くのが好きなんだ」
と言いました。
そこで年老いた悪魔は、イワンの国中をめぐって兵隊を集めにかかりました。
かれは人々に、軍隊に入ればお酒は飲めるし、赤いきれいな帽子を一つもらえるぞ、と話しました。
人々は笑って言いました。
「お酒なら自分たちで造るからどっさりあるよ。
それに帽子だって、すじの入った飾り付きのものを女たちがこさえてくれるさ」
そして、誰一人として兵隊になる者はいませんでした。
年老いた悪魔はイワンのところへ帰って来て、言いました。
「どうもこの馬鹿どもは、自分で進んでやろうとはしません。
あれじゃあ、いやでも無理やり入らせなくちゃいけませんでしょう」
「いいとも、いいとも。
やってみるがいいさ」
とイワンは言いました。
そこで年老いた悪魔は、人民たちはすべて兵隊に入らなければならない、これを拒む者はイワン王が死刑にしてしまわれるだろう、というおふれを出しました。
人民たちは将軍のところへやって来て、言いました。
「兵隊にならなければイワン王が死刑にするって言っているが、兵隊になったら一体どんなことをするのか、まだ話を聞かせてもらっていない。
兵隊になると殺されるって聞いているが、本当かい?」
「うん、そりゃ時には殺されることもある」
これを聞いて、人民たちはどうしても首を縦に振りませんでした。
「じゃあ、兵隊には行かないことにしよう。
それよりか家で死んだほうがましだ。
どうせ人間はいつかは死ぬもんだからな」
と人民たちは言いました。
「馬鹿どもめ!お前たちはまったく馬鹿だ!
兵隊に行けば必ず殺されると決まっているわけじゃない。
だが、行かなきゃイワン王に殺されてしまうんだぞ!」
人民たちはすっかり途方に暮れてしまいました。
そして、イワンの馬鹿のところへ相談に行きました。
「将軍さまが、わしらに兵隊になれとおっしゃる。
兵隊になりゃ殺されることがある。
しかし、ならなきゃイワン王がわしらをみんな殺すって話ですが、本当ですか?」
イワンは大笑いして言いました。
「さあ、わしにもわからん。
わし一人でお前さんたちをみんな殺すことなんてできないしな。
わしが馬鹿でなかったら、そのわけを話すこともできるんだろうけど、あいにく馬鹿なもんで、さっぱりわけがわからんのじゃ」
「それじゃあ、わしらは兵隊にはなりません」
と人民たちは言いました。
「いいとも、いいとも。
ならんでいいさ」
とイワンは答えました。
そこで人民たちは、将軍のところへ行って、兵隊になることをきっぱりと断りました。
年老いた悪魔は、この作戦もすっかりダメになったことを見とどけました。
そこでイワンの国を出て、タラカン王のところへと行って言いました。「イワン王と戦をしてあの国を取ってしまってはいかがでしょう。あの国には金はちっともありませんが、穀物でも牛馬でも、その他何でもどっさりあります」
そこでタラカン王は戦のしたくに取りかかり、大へんな軍隊を集めて、銃や大砲をよういすると、イワンの国へおしよせました。
人民たちは、イワンのところへかけつけてこう言いました。
「タラカン王が大軍をつれて攻めよせて来ました」
「あ、いいとも、いいとも。来さしてやれ」
とイワンは言いました。
タラカン王は、国ざかいを越えると、すぐ斥候を出して、イワンの軍隊のようすをさぐらせました。
ところが、驚いたことにさぐってもさぐっても軍隊の影さえも見えません。
今にどこからか現われて来るだろうと、待ちに待っていましたが、やはり軍隊らしいものは出て来ません。
また、だれ一人タラカン王の軍隊を相手にして戦するものもありませんでした。
そこでタラカン王は、村々を占領するために兵隊をつかわしました。
兵隊たちが村に入ると、村の者たちは男も女も、びっくりして家を飛び出し、ものめずらしそうに見ています。
兵隊たちが穀物や牛馬などを取りにかかると、要るだけ取らせて、ちっとも抵抗しませんでした。
次の村へ行くと、やはり同じことが起りました。
そうして兵隊たちは一日二日と進みましたが、どの村へ行っても同じ有様でした。
人民たちは何でもかでも兵隊たちの欲しいものはみんな持たせてやって、ちっとも抵抗しないばかりか、攻めに来た兵隊たちを引きとめて、一しょに暮そうとするのでした。
「かわいそうな人たちだな。お前さんたちの国で暮しが出来なけりゃ、どうしておれたちの国へ来なさらないんだ」
と村の者たちは言うのでした。
兵隊たちはどんどん進みました。
けれどもどこまで行っても軍隊にはあいませんでした。
ただ働いて食べ、また人をも食べさせてやって、面白く暮していて、抵抗どころか、かえって兵隊たちにこの村に来て一しょに暮せという者ばかりでした。
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