初級翻訳・イワンの馬鹿 第9話

イワンの馬鹿

兵隊たちはがっかりしてしまいました。
そして、タラカン王のところへ行って言いました。
「この国では戦が出来ません。どこか他の国へつれて行って下さい。戦はしますがこりゃ一たい何ごとです。まるで豆のスープを切るようなものです。私たちはもうこの国で戦をするのはまっぴらです」
 タラカン王は、かんかんに怒りました。
そして兵隊たちに、国中を荒しまわって、村をこわし、穀物や家を焼き、牛馬をみんな殺してしまえと命令しました。
そして、
「もしもこの命令に従わない者は残らず死刑にしてしまうぞ」
と言いました。
兵隊たちはふるえ上って、王の命令通りにしはじめました。
かれらは、家や穀物などを焼き、牛馬などを殺しはじめました。
しかし、それでも馬鹿たちは抵抗わないで、ただ泣くだけでした。
おじいさんが泣き、おばあさんが泣き、若い者たちも泣くのでした。
「何だってお前さん方あ、わしらを痛めなさるだあ、何だって役に立つものを駄目にしなさるだあ。欲しけりゃなぜそれを持って行きなさらねえ」
と人民たちは言うのでした。
兵隊たちはとうとうがまんが出来なくなりました。
この上進むことが出来なくなりました。
それで、もういうことをきかず、思い思いに逃げ出して行ってしまいました。
一二

 年よった悪魔はこの手段を止す外ありませんでした。
兵隊を使ったんじゃ、とてもイワンを取っちめることは出来ませんでした。
そこで今度は姿をかえて、立派な紳士に化けて、イワンの国に住みこみました。
かれは肥満のタラスをやっつけたように、金の力でイワンをやっつけてやろうと考えたのです。
「一つ私はあなた様にいいことをしたいと思います。よい智慧をおかししたいと存じます。で、まずお国に家を一軒たてて、商売をはじめましょう」
と年よった悪魔は言いました。
「いいとも、いいとも。気に入ったらこの国へ来て暮してくれ」
とイワンは言いました。
翌くる朝この立派な紳士は、金貨の入った大きな袋と一枚の紙片を持って広小路へ出て、こう演説しました。
「お前たちはまるで豚のような生活をしている。私はお前たちにもっといい暮し方を教えてやる。お前たちはこの図面を見て一つ家をこさえてくれ。お前たちはただ働けばよろしい。そのやり方は私が教え、おれいは金貨で払ってやる」
 そう言ってかれは金貨をみんなに見せました。
馬鹿な人民たちはびっくりしました。
かれらの間には、これまで金と言うものがありませんでした。
かれらは品物と品物を取かえ合ったり、仕事は仕事でかんじょうし合っていたのでした。
そこでみんなは、金貨を見て驚きました。
「まあ、何て重宝なもんだろう」
と言いました。それで、みんなは品物をあげたり仕事をしたりして、その紳士の金貨と取りかえはじめました。
お年寄りの悪魔は、タラスの国でしたのと同じように、金貨をばらまき、村の人たちは何でもかんでも、どんな仕事でも、金貨をもらうために喜んで引き受けました。
お年寄りの悪魔は、大喜びですっかりいい気分でした。
そして、
「今度はなかなか順調にいっているぞ。
これじゃあのおバカさんも、そのうちにタラスのときと同じように、体から魂までぜんぶおれのものにしてしまえるぞ」
と、ひとりでほくそ笑みました。
しかし、おバカさんたちは金貨を手に入れると、すぐそれを女の人たちにやって、首飾りにしてしまいました。
女の子たちは、それを三つ編みのおさげにつけておしゃれをしたのです。
そしてしまいには、子どもたちが道のまん中で、金貨をただのおもちゃにして遊びはじめました。
だれもかれもが金貨をたくさんもらって持っていました。
だから、もうこれ以上金貨をもらおうとする人はいなくなりました。
けれども、立派な紳士の家は半分もできていませんし、その年を生きるためのパンや、牛などの用意もできていませんでした。
そこで紳士は、働きに来てくれるようにお願いしたり、穀物や牛を売ってくれるように頼んだりして、これまでよりももっとたくさんの金貨を出すことにしました。
しかし、働く人も、品物を持って来る人も、だれ一人いませんでした。
時どき、男の子や女の子たちが走ってきて、卵と金貨をとりかえてもらうくらいでした。
他にはだれも来なかったので、紳士には食べるものが何一つありませんでした。
そこでその紳士は、おなかをペコペコに減らしながら、何か食べるものを買おうと村へ行き、あるお家に入りました。
そして、鳥をひと羽売ってもらおうと金貨を一枚出しましたが、そこのおかみさんは、どうしてもそれを受け取りませんでした。
「私なら、もうたくさん持っていますよ」
と言いました。
今度はニシンを買おうと思って、未亡人のおばあさんのところへ行って金貨を出すと、
「もうおなかいっぱいだよ」
と言われました。
「うちにはそれで遊ぶような子どもはいないし、それにいいものだと思って、もう三枚もしまってありますからねえ」
と言って、ことわられてしまいました。
今度は農家へ行って、パンと取りかえようとしました。
けれども、やっぱり受け取ろうとしません。
「そんなものはいらないねえ。
だけど、お前さんが『神さまのお名前にかけて』とおっしゃるなら、ちょっと待ちなされ、女房に話してひと切れ分けてもらいましょうから」
と言いました。
(『神さまのお名前にかけて』という言葉は、ロシアの物乞いや巡礼たちが、ものを恵んでほしいと言う前に必ず言う言葉で、「どうかお慈悲を」とか、「お願いですから」といった意味の言葉です。)
それを聞くと、悪魔はつばを吐きかけて逃げ出しました。
神さまの名前を唱えたり聞いたりすることは、ナイフで突き倒されるよりもずきんずきんと痛くこたえたからです。
こうして、とうとうパンも手に入れることができませんでした。
だれもかれもが金貨を持っていたので、お年寄りの悪魔はどこへ行っても、お金で何かを買うことはまったくできなかったのです。
みんな口々に、
「何かほかの品物を持ってくるか、でなけりゃここへ来て働くか、あるいは『神さまのお名前にかけて』ものを恵んでもらうがいいさ」
と言うのでした。
しかし、お年寄りの悪魔は、お金のほかに持っているものは何一つありませんでした。
働くことは大きらいだし、「神さまのお名前にかけて」ものを恵んでもらうことなんて、どうしたってプライドが許しませんでした。
お年寄りの悪魔は、すっかり腹を立ててしまいました。
「おれが金をやるって言っているのに、それよりほかに一体何がほしいと言うんだ!
金さえありゃ何だって買えるし、どんな働き手だって雇えるんだぞ!」
と悪魔は怒鳴りました。
しかし、おバカさんたちはそれに耳を貸そうともしませんでした。
「いいや、わしらには金なんかいらないよ。
わしらは借金なんてないし、税金も払わなくたっていいんだから、もらったところで使い道がないからねえ」
と言うのでした。
お年寄りの悪魔は、おなかのすいたおなかを抱えて、ゴロリと横になってしまいました。
すると、このことがイワンの耳に入りました。
村の人たちはイワンのところへやって来て、こう尋ねました。
「どうしたもんでしょう、あの立派な紳士が行きだおれて倒れているんです。

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