初級翻訳・ガリバー旅行記 第2話

ガリバー旅行記

私の体は彼らから見れば、山ほども大きいはずなのです。
それを平気な顔でトコトコと歩き回っているのです。

しばらくすると、皇帝陛下からの使い(勅使)が、十二人ほどのお供を連れてやって来ました。
私の右足の足首からよじのぼり、トントンと顔のあたりまでやって来ます。
そして、一枚の巻物のような書状を広げたかと思うと、私の目の前にピッと突きつけて、何やら大きな声で読み上げました。
それから、しきりに前の方を指さします。
あとで分かったことですが、その指さしている方向に、この小人国の都があったのです。
皇帝陛下が、私をそこへ連れてくるよう命令なさったのだそうです。

私は、「どうかこの紐をほどいてください」と、しばられていない片方の手で、いろいろと手まねをして見せました。
すると勅使は、「それはダメだ」というふうに、首を左右にブンブンと振りました。
その代わり、食べ物や飲み物には不自由させないから安心するようにと、彼は手まねで答えてくれました。

勅使が帰っていくと、大勢の小人たちが私のそばにやって来て、顔と両手に、なんだかものすごく良い香りのする、油のようなものを塗ってくれました。
するとどうでしょう、間もなくあの矢の痛みがケロリとなおってしまったのです。
すっかり気分も良くなったし、おまけにお腹もいっぱいだったので、今度は猛烈に眠気が襲ってきました。
そして、私はなんと八時間もの間、ぐっすりと眠り続けたのです。
これもあとから聞いて分かったことなのですが、私が飲んだあの美味しいお酒には、眠り薬が混ぜられていたのでした。

最初に私が上陸して、草のうえで何も知らずに眠っていたとき、小人たちは私を発見するやいなや、大急ぎで皇帝にお知らせしたのだそうです。
そこでさっそく会議が開かれ、「とにかく私をしっかりしばりつけておくこと」「食べ物と飲み物を送ってやること」「私を運ぶための大きな機械を一台用意すること」、そんなことが話し合われて決まったらしいのです。
そしてすぐに、五百人の大工と技師に命令が下され、この国で一番大きな機械を持ち出すことになりました。
それは長さ七フィート、幅四フィートの木の台で、二十二個もの車輪がついています。
私が眠り薬のおかげで何も知らずにぐっすり眠っている間に、この大きな車が私の体にピッタリと横づけされていたのです。

だが、眠っている私をよいしょと持ち上げて、この車に乗せるのはものすごく大変な作業だったようです。
まず第一に、高さ一フィートの柱を八十本立て、それから、私の体をぐるぐる巻きにしている紐のうえに、さらに頑丈な綱をかけました。
そして、この綱を柱にかけてある滑車を使い、「えんやらや、えんやらや」と引き上げるのです。
九百人の男たちが力を合わせて、やっとの思いで私を車台の上に吊り上げ、しっかりと結びつけてしまいました。
こうして、千五百頭もの馬がその車を引っ張り、私を都の方へと連れていってくれたのです。
もっとも、これらはすべて、あとから人づてに聞いて知った話なのですが。
車が動き出してからはや四時間ほどが過ぎた頃のことでした。何かの故障で車はしばらく停まっていましたが、そのとき、二、三人の物好きな男たちが、私の寝顔はどんなものか見てやろうと、わざわざ車によじのぼって来ました。はじめはそっと顔のあたりまで近づいて来たのですが、一人の男が、手に持っていた槍の先を私の鼻の穴にグイと突っ込んだのです。まるで紙ごよりでつつかれたようなもので、くすぐったくてたまりません。思わず知らず、大きくなしゃみと一緒に私は目が覚めました。

 日が暮れてから車はそこで一晩休むことになりましたが、私の両側にはそれぞれ五百人の番兵が弓矢や松明をかかげて取り囲み、私がちょっとでも身動きしようものならすぐに取り押さえようと待ち構えていました。翌朝、日が上ると車はまた進みだし、そして正午ごろ、車は都の近くにやって来ました。皇帝も大臣たちも、みんな出迎えに出てきてくれました。皇帝が私の身体の上にのぼってみたがるのを、「それは危険でございます」と言って、大臣たちは必死にとめていました。

 ちょうど車が停まったところに、この国で一番大きい神社がありました。ここは昔、何か不吉なことがあった場所で、今では祭壇も取り除かれて中はすっかり空っぽになっていました。この建物の中に、この私を入れることになったのです。北に向いた門の高さは約四フィート、幅は二フィートぐらいで、ここからなら私は這い入り込むことができます。私の左足は錠前でとめられ、左側の窓のところに長い鎖でつながれました。この神社の向こう側に見える塔の上から、皇帝は臣下と一緒にこの私を御見物になりました。

 なんでもその日、私を見物するために十万人以上の人出があったということです。おまけに番人がいるにもかかわらず、梯子をつたってこの私の身体にのぼってきた連中が、一万人ぐらいはいました。が、これはいけないということですぐに禁止され、犯した者には死刑が言い渡されることになりました。もう私が逃げ出せないことがはっきりとわかったので、職人たちは私の身体に巻きついていた紐を切ってくれました。それで、はじめて私は立ち上がってみたのですが、いやあ、なんともいえない変な気分でした。

 ところで、私が立ち上がって歩きだしたのをはじめて目撃した人々の驚きといったら、これまた大変なものでした。足をつないでいる鎖は約二ヤードばかりあったので、それを中心にして半円を描くように往復することができました。立ち上がってあたりを見まわしてみると、それは実に面白い景色でした。近くの土地はきれいに手入れされた庭園がつづいているようで、垣根をめぐらし小さく区切られた畑は、まるで色とりどりの花壇を並べたように見えます。その畑のところどころに森がまざっていますが、一番高い木でもせいぜい七フィートぐらいです。街は左手に見えていましたが、それはちょうど、おもちゃのミニチュアで作られたお芝居の町そっくりでした。

 さきほどまで塔の上から私を見物していた皇帝が、今度は塔をおりてこちらに馬を進めてこられました。が、これはもう少しで大ごとになるところでした。というのは、この皇帝の馬はよくしつけられていたのですが、山のように巨大な私を見てびっくりしてしまったのです。あまりの恐怖に、馬はたちまち後足で立ち上がってしまいました。しかし、皇帝は馬の扱いにかけては超一流の達人だったので、鞍の上にぐっと見事に落ち着いていられました。そこへ家来たちがわらわらと駆けつけて手綱を押さえ、どうにかこうにか、皇帝は無事に馬からおりることができました。

 皇帝は私をうっとりと眺めまわし、しきりに感心していらっしゃいます。が、用心のためか、私の鎖のとどくところへは近づきません。それから、料理人たちに食物を運べと命令をくだされました。すると、みんなが一斉に、ごちそうを山ほど盛った車のような大きな入れものを押してきては、私のそばにおいてくれます。私はその入れものごと両手でつかんで、ペロリと平らげてしまいます。肉の入った車が二十台、飲み物の入った車が十台、どれもこれもすっかり残さず平らげてしまいました。

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