僕はカギのかかった部屋の中に、一人ぼっちで閉じ込められているのです。
このベッドは床から八ヤード(約七メートル)もの高さがあります。
僕は下におりたかったのですが、声を出して叫ぶ元気もなくなっていました。
それに、たとえ呼んでみたところで、僕の声ではこの部屋から家族のいる台所までは、とても届かなかったでしょう。
ところが、そのときです。
大きなネズミが二匹、ベッドのカーテンを登ってくると、ベッドの上をあちこち嗅ぎまわって、チョロチョロと走り出したのです!
一匹などは、あともう少しで僕の顔に這い上がってくるところでした。
僕はびっくりして飛び起きると、短剣を抜いて身構えました。
しかし、この恐ろしい獣どもは、左右からドタドタと襲いかかってきました。
そしてとうとう、一匹が僕の襟首に鋭い足をかけたのです!しかし、私は幸運にも、彼に噛みつかれる前に、彼の腹にプスリと短剣を突き刺していました。
たちまち、彼は私の足許に倒れてしまいました。
もう一匹の方は、仲間が殺されたのを見ると、あわてて逃げ出しました。
逃げようとするところを、私は肩に一刀浴せかけたので、タラタラ血を流しながら行ってしまいました。
この大格闘のあとで、私はベッドの上をあちこち歩きながら、息をしずめ、元気を取り戻しました。
ネズミといっても、大きさはマスティフ種の犬ぐらいあって、それにとてもすばしっこくて獰猛な奴でした。
もし私が裸で寝ていたら、きっと八つ裂きにされて食べられたでしょう。
死んだネズミの尻尾をはかってみると、二ヤードぐらいありました。
まだ血を流して横になっている死骸を、ベッドから引きずりおろすのは、実にいやなことでした。
それに、まだ少し息が残っているようでしたが、これは首のところへ深く剣を突き刺して、息の根をとめてしまいました。
それから間もなく、奥さんが部屋に入ってきました。
私が血まみれになっているのを見て、奥さんは駆け寄って、抱き上げてくれました。
私はネズミの死骸を指さし、そして笑いながら、ケガはなかったと手まねで教えました。
奥さんは大喜びでした。
女中を呼ぶと、死骸を火箸ではさんで、窓から捨てさせました。
それから、彼女は私をテーブルの上に乗せてくれました。
私は血だらけの短剣を見せ、上衣のすそで拭いて鞘に収めました。
2 見世物にされた私
この家には九つになる娘がいました。
年のわりにはとても器用な子で、針仕事も上手だし、赤ん坊に着物を着せたりすることも上手なものでした。
この娘と母親の二人が相談して、赤ん坊のゆりかごを私の寝床に作りなおしてくれました。
私を入れるゆりかごをタンスの小さな引き出しに入れ、ネズミに食われないように、その引き出しをつるし棚の上に置いてくれました。
私がこの家で暮らしている間は、いつもこれが私の寝床でした。
もっとも、私がこの国の言葉がわかるようになり、ものが言えるようになると、私はいろいろと頼んで、もっと便利な寝床に直してもらいました。
この家の娘は大変器用で、私が一二度その前で洋服を脱いでみせると、すぐに私に着せたり脱がせたりすることができるようになりました。
もっとも、娘に手伝ってもらわないときは、私は自分ひとりで、着たり脱いだりしていました。
彼女は私にシャツを七枚と、それから下着などをこしらえてくれました。
一番やわらかい布地でこしらえてくれたのですが、それでも、ズック(帆布)よりもっとゴツゴツしていました。
そして、その洗濯も彼女がしてくれるのでした。
彼女は私の先生になって、言葉を教えてくれました。
何でも、私が指さすものを、この国の言葉で言ってくれます。
そんなふうにして教えられたので、二、三日もすると、私はもう欲しいものを口で言えるようになりました。
彼女は大変気だてのおとなしい娘で、年のわりには小柄で、四十フィートしかなかったのです。
彼女は私に、「グリルドリッグ」という名前をつけてくれました。
やがて家の人々もこの名を使うようになるし、後には国中の人がみな、私のことをそう呼ぶようになりました。
このグリルドリッグという言葉は、イギリスでなら、マニキン(小人)という言葉と同じ意味でした。
私がこの国で無事に生きていられたのは、一つにはこの娘のおかげでした。
私たちはここにいる間じゅう、決して離れなかったものです。
私は彼女のことを、グラムダルクリッチ(可愛いお母さん、あるいは優しいお乳母さん)と呼びました。
彼女が私につくしてくれた親切の数々は、特にここに書いておきたいと思います。
私はぜひ、機会があったら彼女に恩返ししたいと、心から願っているのです。
さて、私の主人が畑で不思議な動物を見つけたという噂は、だんだんと広がっていきました。
その動物の大きさは、スプラクナク(この国のきれいな動物で、長さはおよそ六フィートほど)ぐらいで、形はまるで人間と同じ形だし、動作も人間そっくり、なんだか可愛い言葉をしゃべるし、それにこの国の言葉も今は少し覚えたようだし、二本足でまっすぐ立って歩くし、おとなしくて素直で、呼べば来るし、言いつけたことは何でもするし、とてもきゃしゃな手足を持っていて、顔色は三つになる貴族の娘よりもっときれいだ、などと、私の評判はだんだんと広まっていました。
ところで、主人の親友の農夫がこのことを聞くと、ほんとうかどうか見にやってきました。
私はさっそく連れ出されて、テーブルの上に乗せられました。
私は言いつけどおりに歩いて見せたり、短剣を抜いたり収めたりして見せました。
それから、お客に向かってうやうやしくおじぎをして、
「よくいらっしゃいました。
ごきげんいかがですか。」」
と、可愛い乳母さんから教えられたとおりの言葉で言ってやりました。
そのお客は年寄で目がよく見えないので、もっとよく見ようと眼鏡をかけました。
それを見ると、私は腹をかかえて笑わないではいられなくなりました。
というのは、彼の目が、二つの窓から射し込む満月のように見えたからです。
みんなは、私のおかしがるわけがわかると、一しょになって笑いだしました。
すると、老人はムッとして顔色を変えました。
この老人は、けちんぼうだとの評判でしたが、やはりそうでした。
そのため、私はとんだ目に会うことになりました。
ここから二十二マイルばかり、馬でなら、半時間かかる、隣りの町の市日に、私をつれて行って、ひとつ見世物にするがいい、と、彼は主人にすすめたのです。
主人とその男は、ときどき、私の方を指さして、長い間、ひそひそとささやき合っていました。
私はそれを見て、これは何か悪いことを相談し合ってるな、と思いました。
じっと気をつけていると、ときどき、もれて聞える二人の言葉は、なんだか私にもわかるような気がしました。
しかし、ほんとのことは、次の朝、グラムダルクリッチが私に話してくれたので、それで、すっかりわかったのでした。
私が見世物にされるということを、グラムダルクリッチは、母親から聞き出したのでした。
彼女は私と別れることを、大へん悲しがり、私を胸に抱きしめて泣きだしました。
「見物人たちは、どんな乱暴なことをするかわかりません。
コメント