初級翻訳・ガリバー旅行記 第3話

ガリバー旅行記

皇后と若い皇子、そして皇女たちはたくさんの女官に付き添われて少し離れた椅子のところにいましたが、さきほど皇帝の馬が暴れた騒ぎのときには、みんな心配して席を立ち、皇帝のまわりに集まってきました。

 ここで、皇帝の様子をちょっと言葉で説明してみましょう。皇帝の身長は、宮廷の誰よりもほんの少しだけ高かったのです。ちょうど私の爪の幅ほど高かったようです。が、それだけでもなかなか堂々としていて立派に見えます。男らしい顔つきで、きりっと引き締まった口元、弓のように美しい形の鼻、頬はきれいなオリーブ色をしており、動作はとてももの静かで、その態度には圧倒的な威厳があります。年は二十八歳と九ヶ月だということです。頭には宝石をちりばめた軽そうな黄金の冠をいただき、そのてっぺんには素敵な羽根飾りがついていますが、着ている服はいたって質素でした。手には長さ三インチぐらいの小さな剣を握っていらっしゃいます。その柄と鞘は純金で作られており、ダイヤモンドがキラキラとちりばめられていました。皇帝の声は少しキイキイと高い声ですが、はっきりとよく聞き取れます。周りに控える女官たちはみんな綺麗なドレスを着ているので、みんながずらりと並んで立っているところは、まるで金糸銀糸のきらびやかな刺繍の衣を地面にパーッとひろげたように美しく輝いていました。皇帝は何度も私に話しかけられましたが、残念ながら、どうもお互いに言葉が通じません。
二時間ばかりして、皇帝をはじめ一同は帰って行きました。
あとに残された私には、ちゃんと番人がついて、見張りしてくれます。
つまり、これは私を見に押しかけて来るやじ馬のいたずらを防ぐためです。
やじ馬どもは、勝手に私の近くまで押しよせ、中には、私に矢を射ようとするものまでいました。
一度など、その矢が、私の左の眼にあたるところでした。
が、番人はさっそく、そのやじ馬の中の、頭らしい六人の男をつかまえて、私に引き渡してくれました。
番人の槍先で、私の近くまで、その六人が追い立てられて来ると、私は一度に六人を手でつかんでやりました。
五人は上衣のポケットにねじこみ、あとの一人には、そら、これから食ってやるぞ、というような顔つきをして見せました。
すると、その男は私の指の中で、ワー/\泣きわめきます。
私が指を口にもってゆくと、ほんとに食われるのではないかと、番人も見物人も、みんな、ハラ/\していたようです。
が、間もなく、私はやさしい顔つきに返り、その男をそっと地面に置いて、放してやりました。
他の五人も、一人ずつ、ポケットから引っ張り出して、許してやりました。
すると番人も見物人も、ほっとして、私のしたことに感謝している様子でした。
夜になると、見物人も帰るので、ようやく私は家の中にもぐりこみ、地べたで寝るのでした。
二週間ばかりは、毎晩地べたで寝たものです。
が、そのうちに皇帝が、私のためにベッドをこしらえてやれ、と言われました。
普通の大きさのベッドが六百、車に積んで運ばれ、私の家の中で、それを組み立てました。
2 人間山

 私の噂は国中にひろまってしまいました。
お金持で、暇のある、物好きな連中が、毎日、雲のように押しかけて来ます。
そのために、村々はほとんど空っぽになり、畑の仕事も家の仕事も、すっかりお留守になりそうでした。
で、皇帝から命令が出ました。
見物がすんだ人はさっさと帰れ、無断で私の家の五十ヤード以内に近よってはいけない、と、こんなことが決められました。
ところで、皇帝は何度も会議を開いて、いったい、これはどうしたらいいのかと、相談されたそうです。
聞くところによると、朝廷でも、私の取り扱いには、だいぶ困っていたようです。
あんな男を自由の身にしてやるのも心配でしたが、なにしろ、私の食事がとても大変なものでしたから、これでは国中が飢饉になるかもしれない、というのです。
いっそのこと、何も食べさせないで、餓死させるか、それとも、毒矢で殺してしまう方がよかろう、と言うものもありました。
だが、あの男に死なれると、山のような死体から発する臭気がたまらない、その悪い臭いは、国中に伝染病をひろげることになるだろう、と説くものもありました。
ちょうど、この会議の最中に、私があの六人のやじ馬を許してやったことが伝えられました。
すると、皇帝も大臣も、私の行いに、すっかり感心してしまいました。
さっそく、皇帝は、勅命で、私のために、村々から毎朝牛六頭、羊四十頭、そのほかパン、葡萄酒などを供出するよう、命令されました。
それから、六百人のものが、私の御用係にされ、私の家の両側にテントを張って寝とまりすることになりました。
それから私の服を作ってくれるために、三百人の仕立屋が、やとわれました。
それから、宮廷で一番えらい学者が六人、この国の言葉を私に教えてくれることになりました。
私は三週間ぐらいで、小人国の言葉がしゃべれるようになりました。
皇帝もときどき私のところへ訪ねて来られました。
私は皇帝にひざまずいて、
「どうか、私を自由な身にしてください。」
 と何度もお願いしました。
すると皇帝は、
「もうしばらく待て。」
 と言われるのでした。
「自由な身にしてもらうには、お前はまず、この国と皇帝に誓いをしなければいけない。
それから、お前はいずれ身体検査をされるが、それも悪く思わないでくれ。
たぶん、お前は何か武器など持っていることだろうが、お前のその大きな身体で使う武器なら、よほど危険なものにちがいない。」
 私は皇帝に申し上げました。
「どうか、いくらでも調べてください。
なんなら、すぐお目の前で裸にして御覧にもいれましょうし、ポケットを裏返してお目にかけますから。」
 これは半分は言葉、半分は手まねでやって見せました。
すると皇帝は、
「では、二人の士官に命じて身体検査をやらせるが、これは臣下の生命をお前の手にゆだねるのだから、なにぶん、よろしく頼む。
それから、たとえどんな品物を取り上げても、お前がこの国を去るときには、必ず返してやる。
でなかったら、いい値段で買い取ってやってもいい。」
 と言われました。さて、二人の士官が身体検査にやって来ると、私は二人をつまみあげて、まず上衣のポケットに入れてやり、それから、順次にほかのポケットに案内してやりました。
が、どうしても、見せたくないものを入れていたポケットだけは、見せなかったのです。
二人の男は、ペンとインクと紙を持って、見たものを、一つひとつくわしく書きとめ、皇帝の御覧にいれるために、目録を作りました。
私もあとになって、その目録を見せてもらいましたが、それは、ざっと次の通りでした。

「まず、この大きな人間山の上衣の右ポケットをよく検査したところ、ただ一枚の大きな布を発見しました。
大きさは、宮中の大広間の敷物くらいあります。
次に左ポケットからは銀の蓋のついた大きな箱のようなものが出てきましたが、二人には持ち上げることができませんでした。
私どもはそれを開けさせ、一人が中に入ってみますと、塵のようなものが一ぱいつまっていました。
その塵が私どもの顔のところまで舞い上ったときには、二人とも同時に何度もくしゃみが出ました。

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