初級翻訳・クチマネ 第1話

クチマネ

美代子さんは、とっても綺麗で可愛らしい女の子でしたが、人の言葉をすぐ真似っこする癖があったので、みんなからは少し嫌われていました。

ある日のこと、美代子さんが家の前でたった一人で羽子板遊びをしていると、一人の中国人の男の人が、布の反物をたくさん担いでやってきました。そして、美代子さんの家の門の前でこう言いました。
「奥さん、旦那さん、布はいりませんか」
美代子さんは、カチリ、カチリと羽子板を打ちながら、
「いりませんよ」
と真似をして言いました。
男の人はニヤニヤ笑いながら美代子さんを見ていましたが、また言いました。
「けんとんけんちゅう(中国の織物の名前)はいりませんか」
「てんどんけんちんはいりませんよ」
美代子さんは羽子板を打ちながら、また面白がって真似をしました。

男の人はその時、とっても怖い顔をしました。でも、何も知らない美代子さんは羽子板遊びを続けています。男の人は美代子さんのすぐ後ろに近づくと、ポケットから小さな金色の巾着袋を取り出し、その口を大きく広げながら言いました。
「オーチンパイパイ」
美代子さんはやっぱり何も気にせず、遊びながら真似をして言いました。
「オーチンパイパイ」
「ハッ!」
男の人が大きなかけ声をかけると、なんと美代子さんは、羽子板と一緒に、影も形もどこかへ消えてしまいました。

男の人はまたニヤリと笑って周りを見回すと、巾着の口を閉じて懐にしまい、また反物を担ぎました。そして今度は、何食わぬ顔で隣の家の門へ行き、こう呼びかけました。
「けんとんけんちゅうはいりませんか」

家の玄関で勉強をしていたお兄さんの春夫さんは、男の人の変なかけ声が聞こえたあと、急に羽子板の音が止んだことに気づきました。おかしいなと思って障子を開けてみると、さっきまでそこにいたはずの美代子さんの姿が、影も形もありません。
「これは大変だ」と春夫さんが慌てて外へ飛び出すと、天気の良い通りには人通りもなく、二、三軒先で男の人が「布はいりませんか」と叫んでいるだけでした。

春夫さんは、あの男の人が美代子さんをさらったに違いないと直感しました。どこへ隠したのだろうと見え隠れしながら後をつけていくと、男の人はいくつか家を回ったあと、すぐに通りを出て、だんだん賑やかな場所へ向かいました。
やがて、その町で一番混み合っている狭い通りへ来ると、暗い路地裏へズンズン曲がり込み、ゴミ溜めの横にある小さな入り口へ腰をかがめて入っていき、後ろの扉をピシャンと閉めてしまいました。

春夫さんは、男が美代子さんをさらったのではないかと思い、辺りを見回しました。そして念のため、横にあった黒い箱の上に登り、その上の小窓からガラス越しに中を覗いてみました。中は真っ暗で何も見えませんが、目の前に大きな階段があることだけは分かりました。
そして、その階段の上の方から、聞こえるか聞こえないかというくらい、かすかな女の子の泣き声が聞こえてきます。

春夫さんが窓を押してみると、都合よくスッと開きました。
「しめた!」と思った春夫さんは、そこから体操の要領で体をひょいと持ち上げ、階段の上へ滑り込みました。そして、窓をそっと閉めました。
すると、さっきよりずっとはっきりと、女の子の泣き声が聞こえてきます。春夫さんはドキドキする胸を抑えながら、足音を忍ばせて真っ暗な階段を、声のする方へ近づいていきました。

突き当たりの真っ暗な廊下に、一つの扉がありました。泣き声はその中から聞こえてきます。春夫さんが鍵穴からそっと覗いてみると、思わず声を上げそうになりました。
部屋の中は、青いランプが真昼のように明るく照らしていて、そこには大きな大理石の机がありました。その前には、さっきの中国人の男が、汚いシャツ一枚になって腕まくりをしています。男は巾着袋の口を開いて中を覗きながら言いました。
「メーチュンライライ」
すると、一人の女の子が、綺麗な洋服を着たままヒョイと机の上に飛び出してきました。
女の子は机の上に立つと、眩しそうにキョロキョロと周りを見回していましたが、男の人の顔を見ると、自分がさらわれたことに気づいたのか、わっと泣き出してしまいました。

男はニヤニヤ笑いながら巾着の口を閉じ、こう言いました。
「お嬢さん。あなたは私の口真似をしましたね。だから私が罰を与えるのです。さあ、持っているものを全部出しなさい。着物も帽子も靴も、お金も全部だ」
そう言いながら、女の子から服を剥ぎ取り、下着一枚にしてしまいました。
そして、また巾着の口を開きながら言いました。
「さあ、お嬢さん。私の口真似をしなさい。そうすれば命だけは助けてあげましょう。オーチンパイパイ」
女の子が泣きながら真似をすると、見る間に女の子は巾着の中に吸い込まれて消えてしまいました。

「メーチュンライライ」
男の人は、また一人、別の女の子を呼び出しました。こうして男は次から次へと女の子の服を剥いでいき、そのたびに「口真似をした罰だ」と言い聞かせていたのです。

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