初級翻訳・サーカスの怪人 第23話

サーカスの怪人

そしてパッとカーテンをまくると、そのまま楽屋の中へ消えてしまったのです。

サーカス団員たちはみんな真ん中の砂場に出て、骸骨の空中曲芸を見上げ、口々に何か叫んでいましたが、怪人が楽屋に消えたのを見ると「ワアッ」と声を上げて、そのあとを追いました。しかし、カーテンの向こうにはもう誰もいません。出没自在の怪人は、またしてもどこかへ消えてしまったのです。

みんながその辺りをうろうろしながら騒いでいますと、楽屋の奥からでっかいものがあらわれました。ゾウです。ゾウが歩いてくるのです。見ると、ゾウの頭の上に骸骨男がまたがっているではありませんか。手には猛獣を慣らす長いムチを持っています。あいにくゾウ使いの男がその辺りにいないので、どうすることもできません。みんな、ワアワアと騒ぐばかりです。

ピシッ! ムチが鳴りました。その音にゾウが駆け出したのです。楽屋口のカーテンをくぐって、円形の馬場へ走り出しました。見物席に「ワアッ」という声が上がります。勇敢な見物たちも、これを見ては逃げ出さずにはいられません。総立ちになり、入口のほうへなだれを打って駆け出すのでした。

骸骨男はゾウの頭の上にすっくと立ち上がっていました。そしてピシッ、ピシッとムチを鳴らしています。ゾウは円形の馬場をぐるぐる回り始めました。

「ワハハハハ……」

恐ろしい笑い声が大テントいっぱいに響き渡りました。骸骨が、おかしくてたまらないというように笑っているのです。

「ワハハハハハ……」

ゾウの頭の上に立ったまま、ムチを振りながらいつまでも笑い続けているのです。骸骨男は、とうとう気が狂ったのでしょうか。それとも、二十面相を捕まえることのできないサーカスの人たちや警官をあざ笑っているのでしょうか。

小林、井上、野呂の三少年が、楽屋口に群がっているサーカス団員のうしろから、この不思議な光景を眺めていました。骸骨男がなぜこんな曲芸をやっているのか、その気持ちがわかりません。ぐるぐる回っているゾウが楽屋口の前を通りました。そのとき、頭の上に立っている骸骨男の顔に驚きの色があらわれました。骸骨男の目と小林少年の目とがぶつかったのです。骸骨男は、そのとき初めてテントの中に小林君のいることを知りました。

骸骨男の笑いが止まりました。そして恐ろしい声が響いてきました。

「そこにいるのは、明智の弟子の小林だなッ!」

走っていたゾウが立ち止まりました。骸骨男が止めたのです。怪人の目はじっと小林君をにらみつけています。小林君はサーカス団の人たちをかき分けて前に出ました。そして、相手の目をにらみ返しながら叫びました。

「そうだよ、明智先生の弟子だよ! きみが警官に化けて、あの地下道から抜け出したことはもうすっかりわかっているんだ。いまに明智先生がここへ来られるよ……アッ、サイレンだ! おいきみ、あの音が聞こえるかい、警察自動車のサイレンだよ。警官隊が到着したんだ。きみはもう逃げられないよ!」

ウー、ウー、というサイレンの音がテントの外へ近づいていました。ピシッ、ムチが鳴ったかと思うと、やにわにゾウがテントの入口へ向かって駆け出しました。骸骨男はゾウの頭の上で踊るように調子をとっています。まだ残っていた見物たちのあいだに「ワアッ」というどよめきが起こりました。

大グマの秘密

小林少年たちとサーカスの団員が、骸骨男のゾウを追ってテントの外へ駆け出しました。テントの外の原っぱでは、見物客たちが大きな輪を作って、ワアワアと騒いでいました。
その人だかりの真ん中に、先ほどまでゾウがポカンと立っていました。
しかし、そこにはゾウに乗っていたはずの骸骨男の姿が見当たりません。

「あっちへ逃げたぞ!」
「あっちへ行ったぞ!」

見物客たちは口々に叫びながら、テントの裏の方を指さしています。
小林君やサーカスの人たちは、すぐさまその方へ駆けつけました。
裏口から中へ入り、楽屋を探しましたが、そこには誰もいません。みんな外へ出てしまったので、楽屋はからっぽでした。骸骨男の姿も、どこにも見当たりません。
原っぱでは、向こうの大型バスの中で休んでいたゾウ使いの男が、騒ぎを聞きつけて駆け出し、ゾウをテントの中へと連れ戻していました。

そこへ警視庁の白いパトカーが三台、警官を大勢乗せてやってきました。
明智探偵は中村警部と一緒に、先頭の車に乗っています。
二人は車を降りると、見物客たちから様子を聞き出し、警官隊に大テントの周りをぐるりと取り囲むよう命じました。そして、三人の警官だけを連れて、テントの裏口へと急ぎました。

「あっ、先生……! あいつはまた消えてしまいました」

テントに入ると、小林少年が飛び出してきて、明智探偵にこれまでの出来事を報告しました。
それから、明智探偵と中村警部たちも加わってあちこちを探し回りましたが、骸骨男はどこにも見つかりません。
しばらくすると、小林少年が明智探偵のそばに寄り、ひそひそと耳打ちをしました。

「うん、そうか。君が見つけたんだね。よし、行ってみよう」

明智探偵はそばにいた中村警部に目配せをして、みんなで小林君の後についていきました。小林、井上、野呂の三少年が案内役です。
大テントの中の楽屋の隣には、動物の檻(おり)を置いておく場所があります。檻には小さな車輪がついていて、サーカスが始まると原っぱに停めてあるトラックから下ろして、ここへ運ぶようになっているのです。
そこへ入ると、ムッと動物のにおいが立ち込めていました。向こう側には大きな檻が三つ並んでいて、その中にはライオンが一匹ずつ入っています。寝そべっているのもいれば、のそのそと檻の中を歩き回っているのもいました。その横には、トラとヒョウの檻が並んでいます。みんな人間に慣れた動物なので、大勢でどかどかと入ってきても、驚いて吠えるようなことはありません。トラもヒョウものんきそうに、のっそりのっそりと檻の中を歩いています。

その先にクマの檻が置かれていて、その中におそろしく大きなヒグマがうずくまっていました。
小林少年はそのクマの檻の前に立ち止まり、後ろにいたサーカス団の人に言いました。

「この檻を開けてください」

「えっ? これを開けるんですって? そんなことをしたら大変ですよ。こいつはものすごく気が荒いんですから」

サーカスの人はびっくりして小林君の顔を眺めました。
小林君はニコニコしながら、その団員の耳元に口を寄せて、何かをささやきました。

「えっ、このクマの中に?」

団員は仰天した顔でクマを見つめていましたが、「あっ、いけねえ。鍵が開いている!」と叫びながら、檻の戸に近づきました。
その時です。檻の戸が中からパッと開き、大グマが「ゴウッ……!」とうなり声を上げながら、いきなりみんなの前に飛び出してきたではありませんか。
それを見ると、小林少年が精いっぱいの声で叫びました。

「こいつは本物のクマじゃありません! クマの毛皮の中に二十面相が隠れているのです! 恐れることはありません。みなさん、捕まえてくださいッ!」

サーカス団の人々と警官たちが、クマに向かって飛びかかっていきました。

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