初級翻訳・ジャックと豆の木 第2話

ジャックと豆の木

 そこで妖女にお礼を言って別れると、さっそく鬼の住んでいるお城に向かって急いで行きました。
 やがてお日さまが西に沈むころ、ジャックは、なるほどお城のように大きな家の前に来ました。
 まずとんとんと門をたたくと、なかから目のひとつしかない鬼のおかみさんが出て来ました。
 気味の悪い顔に似合わず、鬼のおかみさんはジャックのひもじそうな様子を見て、かわいそうに思いました。
 それで、さも困ったように首を振って言いました。
「いけない、いけない。気の毒だけれど、泊めてあげることはできないよ。ここは人食い鬼の家だから、見つかると晩のごはんのかわりにすぐ食べられてしまうからね。」
「どうかおばさん、知れないようにして泊めてくださいよ。ぼく、もうくたびれて、ひと足も歩けないんです。」と、頼むようにジャックは言いました。
「しかたのない子だね。じゃあ今夜だけ泊めてあげるから、朝になったらすぐお帰りよ。」
 こう言っている最中、にわかにずしん、ずしんと地響きするほど大きな足音が聞こえて来ました。
 それは主人の人食い鬼が、もう外から帰って来たのです。
 鬼のおかみさんは大あわてにあわてて、ジャックを暖炉の中にかくしてしまいました。
 鬼は部屋の中に入ると、いきなりふうと鼻をならしながら、誰だってびっくりして震え上がるような大声で言いました。

「フン、フン、フン、イギリス人の香がするぞ。」「生きていようが死んでいようが、骨ごとひいてパンに焼いて食ってやるぞ!」

と、鬼は言いました。するとおかみさんが、

「いいえ、それはあなたが外で捕まえてきて、土の牢屋に入れている人たちの匂いでしょう」

と答えました。けれど鬼の大男は、まだきょろきょろとあたりを見回して、鼻をくんくんと鳴らしていました。でも、どうしてもジャックを見つけることができません。とうとうあきらめて、鬼は椅子にどっかと腰を下ろしました。そして、がつがつ、がぶがぶと食べたり飲んだりし始めました。そっとジャックが覗いて見ていますと、それはもう後から後から、いつ終わるのかと思うほど猛烈な勢いでかっこむので、ジャックはただ目を丸くするばかりでした。

さて、たらふく食べて飲んだあげく、鬼はおかみさんに言いつけました。

「おい、にわとりを連れてこい」

それは不思議なめんどりでした。テーブルの上に載せて、鬼が「産め」と言うと、すぐ金の卵をひとつ産みました。鬼がまた「産め」と言うと、もうひとつ、金の卵を産みました。

「やあ、これはずいぶん得なめんどりだな。お父さんのお宝というのは、きっとこれに違いない」

下からそっと眺めながら、ジャックはそう思いました。鬼はおもしろがって、後から後からいくつも金の卵を産ませているうちに、お腹が張って眠たくなったのか、壁が揺れるほどすごい大いびきをかいて、ぐっすり寝込んでしまいました。

ジャックは、鬼がすっかり眠ったのを見計らって、ちょうどおかみさんが台所へ行っている隙に、そっと暖炉の中から抜け出しました。そして、テーブルの上のめんどりをちょろりと小脇に抱えると、すたこらとお城を出て行きました。それからどんどん、どんどん駆け出して、豆の木のはしごがあるところまで来ると、するすると伝って降りて、家へ帰りました。ジャックのお母さんは、息子が鬼か魔女にでもさらわれたのではないかと心配していましたが、無事でひょっこり帰ってきたので、大騒ぎして喜びました。

それからは、ジャックが持ち帰った金の卵を産むめんどりのおかげで、親子はお金持ちにもなり、幸せにもなりました。

三

しばらくすると、ジャックはまた、もう一度空の上の城に行ってみたくなりました。そこで今度は、すっかり前とは違う姿に変装して、ある日、豆の木のはしごをまたするすると登っていきました。

鬼の城に行って門を叩くと、また鬼のおかみさんが出てきました。ジャックが悲しそうな顔をして泊めてほしいと頼むと、おかみさんはまさかジャックとは気づかないようでしたが、それでも手を振って言いました。

「いけない、いけない。この前も、お前と同じような貧乏たらしい子供を泊めてやったら、主人の大事なめんどりをちょろっと持っていかれたんだよ。それからは毎晩、そのことを持ち出されて、わたしが叱られ通しなんだ。またあんなひどい目にあうのはもうこりごりだよ」

それでもジャックはしつこく頼み込み、とうとう中へ入れてもらいました。そうするうちに大男が帰ってきて、またあたりをくんくんと嗅ぎ回りましたが、ジャックは銅の箱の中に隠れていたので、どうしても見つかりませんでした。

大男は前回と同じように、晩の食事をたらふく食べたあと、今度は金の卵を産むめんどりの代わりに、金や銀のお宝がたくさん詰まった袋を出させました。それをざあっとテーブルの上に開けて一枚一枚数え、それからおはじきでもするようにチャラチャラと鳴らしてさんざん遊びましたが、ひととおり楽しむと、また袋の中にしまって紐を固く締めました。そして、天井に響くほどの大あくびをひとつして、そのままぐうぐうと大いびきをかいて寝てしまいました。

そこで今度も、ジャックはそろりそろりと銅の箱から這い出し、金と銀のお宝がいっぱい詰まった袋を両腕にしっかりと抱えるやいなや、さっさと逃げ出しました。ところが、この袋の番人として一匹の小犬がつけてあったので、そいつがとたんにキャンキャンと吠え出しました。ジャックは「今度こそだめだ」と思いましたが、大男は死んだように深く眠っていて、目を覚ましませんでした。ジャックは夢中で、後ろも振り返らずにどんどん、どんどん駆け抜けて、とうとう豆の木のはしごにたどり着きました。

さて、めんどりと違って、今度は重たい金と銀の袋を運ぶのに、ずいぶんと骨が折れました。それでも我慢して、「うん、しょっ」と力を込めながら、丸二日もかけてジャックは豆の木の梯子を降りてきました。
やっとの思いで家にたどり着くと、お母さんはジャックがいなくなってしまったので、すっかりがっかりしてひどい病気になり、戸を閉め切って寝込んでいました。
それでも、無事なジャックの顔を見ると、まるで死んだ人が生き返ったかのように元気を取り戻し、それからどんどん良くなって、やがてスタスタと歩き出せるようになりました。
その上、たくさんのお金ができたと聞いて、お母さんはますます元気になりました。

四

こうして、またしばらくの間、ジャックは家でおとなしくしていました。
ところがそのうち、だんだんと体中がむずむずしてきました。
もう一度、空の上に行きたくてたまらなくなり、毎日、豆の木の梯子ばかりを眺めていました。
するとそれが気になって、気になって、気がふさいでしまったのです。
そこでジャックは、ある日また、そっと豆の木の梯子を伝って登っていきました。
今度も顔つきや姿をすっかり別の子供に変えていたので、鬼のおかみさんはまたすっかり騙されて、中に入れてくれました。
そして、大男が帰ってくると、慌ててジャックをお釜の中に隠してくれました。
鬼の大男は部屋の中をかぎ回って、「ふん、ふん、なんだか人間くさいぞ」と言いました。

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