どうせ今日一日で命を取られるに決まっているわたしのために、こんな立派なお部屋の支度が、どうしてしてあるのでしょうね)
こう思いながら、試しに一冊の本を開けてみますと、金の文字で、
「あなたが望んだり、言いつけたりすれば、すぐその通りになります。あなたは、この御殿ではすべての上に立つ女王です」
と書かれてありました。
(まあ、わたしの望みといったら、お父様がいまどうしていらっしゃるか、知ることですわ)
ラ・ベルが心の中でそう思いながら、ふとそこの鏡を覗いたとき、ちょうど父親が家へ帰ったところがそこに映りました。
姉たちが迎えに出てきました。悲しそうな顔はしながらも、本当は妹がいなくなったことを喜んでいるのがわかりました。
幻は一瞬で消えました。ラ・ベルは、自分の望みを怪獣が叶えてくれたことをありがたいと思いました。
お昼になると、ちゃんとテーブルにお昼の食事が並びました。
食事の間、美しい音楽がずっと聞こえていました。でも、聞こえるだけで誰も出てくるものはありません。
夜になったとき、怪獣が出てきて、一緒に夕食をしようと言い出しました。
ラ・ベルは頭のてっぺんから足の爪先までぶるぶる震えながら、それでも「いやだ」とは言えません。
それを怪獣が見て、自分をずいぶん醜いとは思わないかと尋ねました。
「はい、おっしゃる通りです」と娘は答えました。
「だって、わたし心にもないことは申せませんもの。でも、とてもいい方だと思っております」
そんなことでだんだん打ち解けて、楽しく食事が済みました。
すると突然、怪獣が「ラ・ベルちゃん、あなた、わたしのお嫁になってくれますか」と言い出したので、娘はびっくりしてしまいました。
びっくりしながらも、一生懸命に「わたし、いやでございます」と答えました。
怪獣は、家じゅうが震えるほど大きなため息をつきました。
そして悲しそうな声で「おやすみ、ラ・ベル」と言い残して、部屋を出て行きました。
娘はほっとしながらも、やはり人のいい心から、怪獣を気の毒に思っていました。
そんなふうにして三ヶ月ほど経ちました。怪獣は毎晩やって来て、一緒に夕食を食べました。
するうち、娘はだんだん怪獣の醜い姿かたちに慣れてきて、それよりもその優しい良い心を好ましく思うようになりました。
ただ、相変わらずお嫁にならないかといい続けるのが気の毒で、苦しくなりました。
それで、あるとき「もうお嫁になることはやめて、いつもお友達でいましょう」と言いますと、怪獣は喜んで、そうやっていつまでもここから離れない約束をしてくれるようにと言いました。
ところでその朝、例の鏡に映ったところでは、ラ・ベルの父親が娘はもう死んでいると思って大変悲しんでおり、重い病気になっていることがわかりました。
しかも二人の姉はよそへお嫁に行っていて、男の兄弟たちは兵隊に出ていました。
それで、娘は怪獣にそのわけを話して、「このまま長くここを出ることができないなら、父親のことが心配で死んでしまうかもしれません」と言いました。
すると怪獣は言いました。
「いいや、決してそれまでにしてお前を止めておこうというのではない。お前にそんな思いをさせるほどなら、怪獣のわたしが、お前をなくした悲しみのために死んだほうがましだよ」「でも、娘は、ほんの一週間したら必ず帰ってくるからと固く約束して、父親のお見舞いに行くことを許されました。
ただ、出発する時に、鏡の前の台に指輪を置いておいてくれればいいと怪獣は言い、いつものように「おやすみなさい」と言って部屋を出て行きました。
その翌朝、目が覚めると、ラ・ベルはちゃんと田舎の小屋へと運ばれていました。
父親は娘の無事な顔を見ると、病気はすっかり治ってしまいました。
父親はさっそく、姉たちを呼びに人をやりました。
姉たちはそれぞれ夫を連れてやって来ました。
お嫁に行ったものの、この姉たちはけっして幸せに暮らしてはいませんでした。
ひとりの夫は威張り屋で見栄っ張りで、本当の愛情を知らない男でした。
もうひとりの夫は悪口ばかり言って、他人のあら探しをして喜んでいるような男でした。
それで姉たちは、死んだと思っていた妹が無事で、しかも食べ物にも着るものにも何一つ不自由せず、豊かに暮らしている様子を見て、ひどく妬ましくなりました。
そこで、なんとかして二度と怪獣の御殿に帰れないようにしようと考えました。もし帰れば、すぐに怒られて食い殺されてしまうようにと願い、一週間という約束を無理やり破らせて、いつまでもここに引き止めておこうと企んだのです。
さて、十日目の夜のことです。
ラ・ベルは、姉たちがわざとちやほやともてなしてくれる中で、不思議な夢を見ました。
それは、哀れなことに怪獣が死にかけていて、夜の草原の上に倒れ、荒い息をついている夢でした。
娘は涙を流しながら目を覚ましました。
そして、いったんベッドから起き出して、指輪を鏡の前の台に置くと、またベッドに入ってぐっすりと眠りました。
朝になって目を覚ますと、いつの間にかまた御殿へ運ばれていたので、娘はほっと胸をなでおろしました。
それから、晩の食事の時間まで、じれったい気持ちで、早く怪獣に会うことばかり考えて過ごしました。
ところが、八時が打ち、九時が打っても、怪獣は姿を現しませんでした。
「ああ、わたし、本当にあの人を殺してしまったのかしら」
そう叫んで、娘は庭へと飛び出しました。
そして、夢で見た草原の場所へ行くと、その通り、怪獣は気を失って倒れていました。
娘ははっとして、その体を抱きかかえました。
すると、心臓がまだ動いているのがわかったので、近くの泉から清水を汲んできて、その顔にパシャパシャとふりかけました。
すると、怪獣はかすかに目を開けて、虫の息で言いました。
「お前が約束を忘れたので、わたしは何も食べずに死ぬ覚悟をしていた。でも、帰ってきてくれたから、これでせめて嬉しく死ぬことができる」
「いいえ、ラ・ベート、死んではなりません!」とラ・ベルは言いました。
「あなたはいつまでも生きていて、わたしの夫になってください。いま、わたしは本当にあなたを愛していることがわかったのですから」
この言葉が叫ばれた途端、御殿中が火事のように明るく輝き出しました。
五色の火花が夜空に飛び散りました。
盛大な音楽の響きが大地を震わせました。
おそろしい怪獣の姿は、どこにも見えなくなりました。
その代わりに、神々しいまでに立派な王子がそこにいて、娘の足元に膝まずいていました。
そして、娘のまごころの力で、長年解けなかった魔法の呪いが解け、本当の姿に戻れたことを喜んでいたのです。
でも、娘にはまだ何が起きたのかわかりません。
それで、心配そうな目で、怪獣の行方を追っていました。
「まあ、お気の毒なラ・ベート、わたしの怪獣さんはどこへ?」
「その怪獣こそが、わたしですよ」と王子は言いました。
「ある意地悪な妖女が、わたしを苦しめるために魔法をかけ、みにくい獣の姿に変えてしまったのです。その呪いを解くには、いつか心の清いおとめが、わたしのみにくい姿かたちを忘れて、まごころから愛してくれるまで待たなくてはならなかったのです。
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