中国という国では、みなさんもご存じのとおり、皇帝は中国人です。そして、おそばに仕えている人たちも、みんな中国人です。
さて、これからお話しすることは、もうずっと昔のことですが、それだけに、今のうちに伝えておかないといけないと思うのです。そうでもしなければ、みんな忘れられてしまいますからね。
皇帝が住んでいるお城は、世界で一番立派なものでした。なにもかもが、最高級の瀬戸物(陶磁器)で作られていたのです。それには、ものすごくお金がかかっていました。ただ、とっても壊れやすいので、うっかり触れようものなら大変です。ですから、みんなはいつも細心の注意を払わなければなりませんでした。
お庭には、世にも珍しい花が咲き乱れていました。中でも一番美しい花には、銀の鈴が結びつけられていました。その鈴は、とても良い音で「リンリン」と鳴るので、そばを通る人はだれでも、つい花のほうに気を取られてしまうほどでした。
本当に、皇帝のお庭にあるものは、なにもかもが工夫をこらした素晴らしいものばかりでした。おまけに、そのお庭の広さといったら驚くほどです。お庭の手入れをする植木屋さんでさえ、どこがお庭の終わりなのか、見当もつかないくらいだったのです。
そのお庭をどんどん歩いて行くと、このうえなく美しい森に出ました。そこには高い木々が茂り、深い湖がいくつもありました。森は青々とした湖の岸まで続いていて、木々の枝は水の上まで張り出していました。大きな船でも、帆を上げたままその下を通ることができたほどです。
さて、その枝に、一羽のナイチンゲールが住んでいました。その歌声は、本当に素晴らしいものでした。仕事に忙しい貧しい漁師でさえ、夜、網を打ちに出てその歌声を耳にすると、思わず仕事の手を休めて、じっと聞き入ったものです。
「ああ、なんてきれいな声なんだ!」と、漁師は言いました。
けれども、また仕事に戻らなければなりません。それで、鳥のことはその時だけ忘れてしまうのでした。しかし、また次の晩、漁に出かけてナイチンゲールの歌を聞くと、漁師はまた同じように言うのです。
「ああ、本当に、なんてきれいな声なんだ!」
世界中の国々から、たくさんの旅行者が皇帝の都にやってきました。みんなはお城とお庭を見て、そのあまりの素晴らしさに、ただただ驚くばかりでした。ところが、ナイチンゲールの歌声を聞くと、口々にこう言ったのです。
「ああ、これこそが一番だ!」
旅行者たちは自分の国へ帰ると、さっそくそのことを人々に話しました。学者たちは、皇帝の都とお城、そしてお庭について、何冊も何冊も本を書きました。もちろん、ナイチンゲールのことも忘れてはいません。それどころか、ナイチンゲールこそが一番素晴らしいものとして扱われたのです。
詩を書く人たちは、あの深い湖のほとりの森に住んでいるナイチンゲールについて、それはそれは美しい詩を作りました。こうした本は世界中に広まりました。ですから、そのうちのいくつかは、自然と皇帝の手元にも届いたのです。
皇帝は自分の金の椅子に腰かけて、その本を何度も何度も繰り返し読みました。そして、ひっきりなしにうなずきました。自分の都やお城、お庭がこれほど美しく書かれているのを読むのは、とても嬉しいことに違いありませんからね。
「しかし、なんといっても、ナイチンゲールが一番素晴らしい」と、そこには書いてありました。
「これは、なんじゃ?」と、皇帝は言いました。
「ナイチンゲールだと? そのような鳥は知らんぞ! そんな鳥が、このわしの国にいるというのか? おまけに、わしのお庭にいるそうじゃないか。はて、わしは一度も聞いたことがないぞ。本を読んで初めて知るとは、どういうことだ」
そこで、皇帝は侍従を呼びました。この侍従はとても身分の高い人だったので、自分より位の低い者が恐る恐る話しかけたり何か尋ねたりしても、ただ「プー!」と答えるだけでした。もちろん、この返事に深い意味などありません。
「わが国に、世にも珍しい鳥がいるそうだな。ナイチンゲールとかいう鳥らしい」と、皇帝は言いました。
「なんでも、わが帝国の中で一番素晴らしいものだそうだ。なぜ今まで、わしにそのことを一言も言わなかったのだ?」
「わたくしは、今までにそのようなもののことは、聞いたことがございません」と、侍従は答えました。「今日まで、そのようなものが宮中に姿を見せたことは、一度もございません」
「今夜中にさっそくその鳥を連れてまいり、わしの前で歌わせてみよ」と、皇帝は言いました。
「世界中の人間が知っているというのに、わしだけが自分の領土にいるものすら知らないとは、あきれ果てた話だ」
侍従は困り果てて言いました。
「わたくしは、今までにそのような鳥のことなど、聞いたこともございません。ですが、必ずや探し出し、見つけてまいります」
しかし、一体どこへ行けば見つかるのでしょうか? 侍従は階段を上ったり下りたり、広間を駆け抜け、廊下を走り回りました。ところが、誰に尋ねてもナイチンゲールのことなど聞いたという人は一人もいません。
そこで侍従は皇帝のもとへ駆け戻り、こう申しあげました。
「おそらくそれは、本を書いた人たちの作り話に違いございません。陛下におかれましては、書物に書かれていることをすべて信じられませぬよう、お願い申しあげます。中にはでたらめな作り事もあれば、妖術のような怪しい話もございますので」
「だが、わしが読んだ本は、立派な日本の天皇から送られてきたものだ」と、皇帝は言いました。
「それゆえ、嘘偽りが書いてあるはずがない。わしはどうしても、ナイチンゲールの歌を聞きたいのだ。どんなことがあっても、今夜中にナイチンゲールをここへ連れてこい。何をおいても一番可愛がってやる。しかし、もし連れてこられなければ……いいか、宮中の役人どもは夕食のあとで、一人残らず腹をぶたれることとするぞ!」
「チン、ペー!」
侍従はそう言って、またしても階段を上り下りし、広間を駆け抜け、廊下を走り回りました。すると、宮中の役人の半分もの人たちが、一緒になって走り回りました。誰だって、お腹をぶたれるのは嫌ですからね。こうして、世界中の人々が知っているのに、宮中の人たちだけが知らない、不思議なナイチンゲールの捜索が始まったのです。
とうとう最後には、台所で働いている貧しい小娘に出会いました。娘はこう言いました。
「ああ、ナイチンゲールのことでございますか。それなら、あたしよく知っておりますわ。はい、本当に上手に歌います。毎晩、あたしはお許しをいただきまして、病気で苦しんでいる母のところへ、食事の残り物を少しばかり持ってまいりますの。母は浜辺に住んでいるのでございます。あたしが御殿へ戻るとき、疲れて森の中で休んでいると、ナイチンゲールの歌声が聞こえてくるのです。それを聞いていると、思わず涙が浮かんでまいります。まるで母が、あたしにキスをしてくれるような気持ちがいたしますの」
「これ、これ、娘」と侍従は言いました。
「わしたちをそのナイチンゲールのところへ連れて行ってくれ。その代わり、おまえを台所の役人にしてやろう。
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