けれども、人々はただ畑をたがやしたり、材木を売ったりして暮らしているばかりでなく、漁業や商業や、海運業もやっています。
ですから、ここには、すばらしい邸や、りっぱな教会もあります。
そして、大きな村や町も見うけられます。
しかし、三つの段々についての話は、これでおしまいになったのではありません。
というのは、この大きなスモーランド家の屋根に雨がふったり、そこにつもっている雪がとけたりするようなときには、水はどこかへ流れてゆかねばならないということも、考えてみなければならないからです。
そういうときには、もちろん、たくさんの水がこの階段の上に流れおちたわけです。
さいしょは、たぶん、階段じゅうを流れていたものでしょう。
そのうちに、そこに割れ目ができました。
そうして、だんだんにうまくみぞをつくって、その中を流れるようになりました。
そして、水はなんといってもやっぱり水です。
いっときも休んではおりません。
あるところでは穴を掘って、消えてゆきますし、また、あるところではもっとたくさんにふえます。
やがてみぞは谷になって、谷の壁には土がいっぱいかぶさります。
それから、そこには、小さい木や、つる草や木々が生えてきて、やがてそれがこんもりと茂って、ついには下を流れる水の流れをかくすばかりになってしまいます。
けれども、流れが段と段との間のところにきますと、とうとうと流れ落ちます。
そのため、あわ立つ激流になるので、水車やいろんな機械を動かす力をもつようになるのです。
こうして、水車小屋や工場はどの滝のまわりにもつくられたのです。
けれども、三つの段々のある土地の話は、これですっかり終わったわけではありません。
もう一つ言っておきたいことがあります。
むかし、この大きなスモーランド家には、年とったひとりの巨人が住んでいました。
巨人はたいそう年をとっていたので、わざわざ高い階段をおりて、海までサケをとりにいかなければならないのが、ひどくめんどうでした。
それで、じぶんの住んでいるところまで、サケがのぼってきてくれれば、たいへんありがたいと思いました。
そこで、その大きな家の屋根にのぼって、大きな石をバルト海めがけていくつも投げました。
力いっぱい投げましたので、石はぐんぐん飛んで、ブレーキンゲをこえて、海の中へ落っこちました。
サケのほうでは、石が落ちてきたのにびっくりして、海からとびだし、ブレーキンゲのほうへ逃げていきました。
そして、急流をさかのぼり、滝をとびこえて、ひと休みもせずに、年とった巨人のいるスモーランドまでのぼっていきました。
この話がみんなほんとうだということは、ブレーキンゲの海岸にそって見えるたくさんの島や大きな岩を見れば、よくわかります。
その島や岩は、巨人が投げたたくさんの大きな石にまちがいないのですからね。
それにまた、じっさい、サケは、たえずブレーキンゲの流れをさかのぼり、滝をとびこえ、静かな流れを泳いで、スモーランドまでやってくるのです。
ですから、この巨人は、ブレーキンゲの人たちから大いに感謝され、尊敬されてもいいわけです。
なぜなら、この流れでサケをとり、島々から石を切りだすことが、むかしからいままで、ずっと、この地方の人々が生きるためのしごとになっているのですから。
8 ロンネビュー川
四月一日 土曜日
キツネのズルスケにしてもガンたちにしても、おたがいにスコーネをはなれてから、また出会うことがあろうとは、夢にも思っていませんでした。
ところが、ガンたちがブレーキンゲに向かって飛んでいきますと、ぐうぜん、ズルスケもそこへいっていました。
いままで、ズルスケはこの地方の北部にいましたが、りっぱな荘園も、うまいえもののいっぱいいる猟場も見つからないので、すっかり、きげんをわるくしていました。
ある日の午後、ズルスケがロンネビュー川からあまり遠くない、さびしい森の中をうろついていますと、ガンのむれが空を飛んでいるのが見えました。見ると、その中に一羽だけ白いのがまじっています。
ズルスケは、「ハハア、あいつらだな」と思いました。
そこで、ズルスケはすぐさまガン狩りをはじめました。
おいしいごちそうにありつけるという楽しみもありますが、もう一つには、これまでさんざんやっつけられたその恨みをはらそうというのです。
見ていると、ガンたちは東に向かって、ロンネビュー川のほうへ飛んできました。
そして、そこで向きを変えて、川にそって南のほうへ飛んでいきました。
ガンたちは川岸に寝場所をさがしているのです。
この様子だと、わけなく二、三羽ぐらいつかまえられるでしょう。
ズルスケは、やっとガンたちのいる場所をさがしあてましたが、そこは安全この上もない場所で、とうてい近づくことができません。
ロンネビュー川は大きな流れではありませんが、川岸が美しいことで有名です。
ときには、水の中からまっすぐに突き立っている、けわしい絶壁の間をはげしく流れていきます。
そのあたりには、スイカズラや、サンザシや、ハンノキや、ナナカマドや、ヤナギがいちめんに生えています。
美しい夏の日に、この小さなうす暗い川に船を浮かべて、ごつごつした山壁にすがりついている緑を眺めるのは、まことに気持ちのよいものです。
けれども、ガンやズルスケがこの川のところにやってきたときは、まだうすら寒い風の吹く、春の早いころでした。
木という木はみんな、はだかでした。
ですから、おそらくいまでは、この川岸が美しいだろうかどうだろう、などと思って見る人はないでしょう。
ガンたちは、運よく、けわしい絶壁の下に、みんながいられるくらいの砂地を見つけました。
前には川がゴウゴウと流れています。
雪がとけるいまごろは、水がふえて、すさまじい勢いで流れているのです。
うしろには、とても通ることのできない岸壁があって、その上には木の枝がおおいかぶさっています。
これ以上のかくれ場所はありません。
ガンたちはすぐに寝つきましたが、ニールスはちっとも眠ることができません。
お日さまが沈みますと、暗やみと荒地のおそろしさにたまらなくなって、人間が恋しくなってきました。
ニールスはガチョウのはねの下にもぐりこんでいるのですから、何ひとつ見えません。
ただ、物音がすこし聞こえるばかりです。
これでは、ガチョウの身になにか災いがふりかかっても、とうてい助けてやれそうもありません。
ガサガサいう音が、あっちからもこっちからも聞こえてきます。
ニールスはすっかり気味わるくなって、とうとうはねの下から這いだしました。
そして、ガチョウのそばにすわりました。
ズルスケは山の頂きに立って、ガンたちを見おろしました。
「いまのうちに、追いかけるのはあきらめたほうがいいかな」と、ズルスケはひとりごとを言いました。
「おれには、あんなけわしい山をおりることもできないし、あんなはげしい流れを泳ぐこともできない。それに、山の下には、ガンのねているところへいけそうな道はありゃしない。まったく、りこうなやつらだ。
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