でも、小さなニールスにとって、モルテンでさえも大きく重くて、とても大変な力仕事でした。
それでも、なんとかやり遂げました。
モルテンは、まず頭を水の中に突っ込みました。
そしてしばらく、やわらかい土の上にじっと横になっていましたが、やがて頭を上げると、目から水を払い落とし、鼻の穴から大きく息を吸い込みました。
それから、勢いよくアシやガマの茂みをかき分けて泳いでいきました。
一方、ガンたちは湖の中にいました。
みんな、地面に降りるが早いか、モルテンやニールスのことなど見向きもせずに、水の中に飛び込んで、水を浴びては、体をきれいにしています。
それから今度は、くさりかけたヒルムシロや水クローバーをムシャムシャと食べ始めました。
白いガチョウは、運よく小さなスズキを見つけました。
すばやくそれを捕まえると、岸へ戻ってきて、ニールスの前に置きました。
そして、「さっき、お水を飲むのを助けてくれたお礼だよ。」と言いました。
こんな親切な言葉を聞くのは、今朝から初めてです。
ニールスはすっかり嬉しくなって、モルテンの首に飛びつきたいくらいでした。
でも、ぐっとこらえて、贈り物をありがたく受け取りました。
最初は、魚を生で食べるなんて、とても無理だと思いましたが、そのうちに、「まあ、とにかく食べてみようかな。」という気持ちになりました。
ナイフはまだ持っているかな、と思いながら探してみると、嬉しいことに、ズボンの後ろのボタンにくくりつけてありました。
もちろん、これも小さくなって、マッチ棒くらいの大きさになってはいましたが、これなら魚のウロコを落として、きれいにすることくらいはできます。
こうして、まもなくスズキは食べられる状態になりました。
ニールスはお腹がいっぱいになると、少し恥ずかしくなりました。
とうとう、生魚を食べてしまったのです。
「僕はもう人間じゃない。
本物の小人になってしまったんだ。」
と、心の中で思いました。
ニールスが魚を食べている間じゅう、モルテンはすぐそばにじっといましたが、ニールスが食べ終わると、そっと小さな声で言いました。
「僕たちはね、飼い鳥をバカにする、生意気なガンの一族に出会ったんだよ。」
「うん、僕もそう思っていたよ。」と、ニールスは答えました。
「もし僕が、あいつらと一緒にラプランドまで飛んでいって、ガチョウだって立派にやれるんだってことを、あいつらに見せてやれたら、すごいんだけどなあ。」
「うん、そ、そ、そうとも。」と、ニールスはためらいながら答えました。
だって、そうでしょう。
このモルテンに、そんなことができようとは思えませんから。
でも、別に反対する気にもなれませんでした。
「だけど、こんな長い旅を一人でやり通せるとは思えないんだよ。」と、モルテンは続けました。
「どうだろう、一緒に行って、僕を助けてくれないかい?」
ニールスとしては、もちろん、一刻も早く家に帰りたいと、ただそればかりを願っていました。
だから、こう言われると、びっくりして、どう言ったらいいか困ってしまいました。
「でも、僕ときみとは仲良しじゃないもの。」と、とにかく言ってみました。
ところが、モルテンのほうでは、そんなことはまるで忘れているようです。
さっきニールスに命を助けてもらったことだけが、頭にこびりついています。
「やっぱり、お父さんとお母さんのところへ帰らなくちゃ。」と、ニールスはもう一度、引き止めました。
「うん、秋になったら、必ずお父さんとお母さんのところへ連れて帰ってあげるよ!」と、モルテンははっきり答えました。
「それに、僕は、きみの家の入口のところにきみをおろすまでは、どんなことがあっても、きみを捨てることはしないよ。」ニールスは、そのときふと、今の自分の姿をもうしばらくお父さんやお母さんに見せないほうがいいだろう、と思いつきました。
それで、ガチョウの誘いに賛成して「じゃあ、そうしよう」と言おうとした、その時でした。うしろのほうで、バタバタと大きな音がしました。
振り返ってみると、ガンたちが一斉に湖から上がってきて、体についた水を激しく振り落としています。
それからガンの群れは、隊長を先頭にして、長く一列になって二人のほうへ向かってきました。
白ガチョウは、そのガンの姿を見て、少し嫌な気持ちになりました。
ガチョウは、ガンこそ自分たちにもっともよく似た、近い親戚だとばかり思っていたからです。
ところが、どうでしょう。目の前のガンたちは、自分よりもずっと小さく、おまけに羽が白いものは一羽もいません。みんな灰色で、あちこちに茶色が混じっています。
それに、目を見れば恐ろしくなるほどです。黄色い瞳の奥で、まるで火が燃えているかのようにキラキラと輝いています。
ガチョウは今までずっと、ゆっくりとヨタヨタ歩くのが上品だと教わってきました。
それなのに、この連中ときたらどうでしょう。歩くどころではありません。まるで走っているようです。
けれど、いちばん驚いたのはその足です。実に大きく、おまけに足の裏はひび割れて、ゴソゴソしています。
これを見れば、ガンという鳥は、何があっても回り道をせず、平気でどんな場所でも歩いていくのだということがよくわかります。
とはいえ、ほかのことについては、とてもきれい好きできちんとしています。それでも、あの足だけは、この連中が野原をほっつき歩く、あわれな鳥であることをはっきりと物語っていました。
ガチョウがニールスに「きみも遠慮なく話しなさい。だけど、きみが人間だってことは言わないほうがいいね」とささやいたときには、もうガンたちはすぐそばまで来ていました。
ガンたちは二人の前に立ち止まって、何度も何度も丁寧にお辞儀をしました。
そこでガチョウも同じように、それ以上にたくさんお辞儀を返しました。
こうして挨拶が終わると、ガンの隊長が切り出しました。
「あんたがたは、どういう方々か聞かせてください」
「わたしのことは、とりたてて言うほどのこともありませんが」と、ガチョウは話し始めました。
「去年の春、スカーネルで生まれました。そして秋には、西ヴェンメンヘーイのホルゲル・ニールスッソンという人に買われて、それからずっとそこに住んでいます」
「それなら、あまり自慢できるような家柄じゃありませんね」と、隊長は言いました。
「ところで、あんたが、われわれガンの仲間に思い切って入ってきたのは、どういうわけです?」
「わたしたち飼い鳥だって、何か取り柄はあるということを、あなたがたに知らせたいからですよ」
「へえ、それは結構。ひとつ拝見したいものです」と、隊長は言いました。
「飛ぶお手並みはさっき拝見しましたが、ほかのことなら、きっともっとお上手なんでしょう。泳ぎなんかは、さぞお得意なんでしょうね?」
「いえ、いえ、ぜんぜんだめです」と、ガチョウは答えました。
ガチョウは、ガンの隊長が自分を家へ帰すつもりでいるのだろうと思っていたので、どう返事したってかまわないと考えていたのです。
そこで「堀を泳いで渡ったことしかありません」と続けて言いました。
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