ほかのカラスたちも、すぐそのあとにつづきました。
すると、キツネは穴の中にとびおりて、かめをかじったり、ふたをひっぱったりしてみました。
けれど、やっぱりどうしても開けることができません。
「何が入っているか、わかるかい?」と、アラシがたずねました。
キツネはかめをあっちこっちに転がして、耳をすましました。
「こいつは銀貨にちがいないぞ」と、キツネは言いました。
銀貨ならたいしたものです。
カラスたちは、それほどの宝物だとは思っていませんでした。
「本当に、銀貨だと思うかい?」と、カラスたちは言いました。
そして、その目は欲にくらんでキラキラと光りました。
こう言うと変に聞こえるかもしれませんが、カラスたちにとって銀貨ほど好きなものはなかったのです。
「ほら、ガチャガチャと音がするだろう!」と、キツネはもう一度かめを転がしながら言いました。
「しかし、どうやって中身を出したものかなあ」
「きっと、だめさ」と、カラスたちはため息をついて言いました。
キツネは立ったまま、左の前足で頭をかきながら考えました。
そうだ、このカラスたちの力を借りれば、いつも逃げられてばかりいる、あのガチョウに乗ったチビスケを捕まえられるかもしれないぞ。
「おい、おれはこのかめを開けられるやつを知っているんだがなあ」と、キツネは言いました。
「だれだい? だれだい?」と、カラスたちは叫びながら、夢中になってまた穴の中へ飛び込んできました。
「あとでそいつをおれに引き渡すと約束するんなら、教えてもいいぜ」と、キツネは言いました。
そして、キツネはカラスたちにニールスのことを話して聞かせました。
もしオヤユビ小僧のニールスをここへ連れてくることができれば、きっとこのかめを開けさせることができる、と言いました。
しかし、こういううまい知恵を貸してやったのだから、そのお礼として、オヤユビ小僧が銀貨を取り出したらすぐさまその小僧をおれに引き渡せ、と言い張りました。
カラスたちのほうでは、オヤユビ小僧なんて別に惜しくはありません。
そこで、すぐにこの申し出を承知しました。
約束は簡単にできあがりましたが、さて、オヤユビくんとガンたちがどこにいるかを探し出すとなると、なかなか大変なことです。
アラシは自分で十五羽のカラスを引き連れて、すぐに戻ってくると言い残して出かけていきました。
しかし、いく日たってもカラス山に戻ってはきませんでした。
カラスにさらわれる
四月十三日 水曜日
ニールスの仲間のガンたちは、エステルイェートランドに向かって旅立つ前に、食べ物をとる時間が十分あるようにと朝早く起きました。
ガンたちのとまった島は、ガン湾の中にある小さな島でした。
この島には草や木は生えていませんでしたが、まわりの水の中にはいろんな水草がありましたので、みんなはそれを腹いっぱい食べました。
ところが、ニールスのほうは食べるものがなんにも見つからなくて、ひどい目にあってしまいました。
ニールスはおなかが空いて、朝の寒さに震えながらあっちこっちを見回していました。
すると、ちょうど向こうにある岩ばかりの島の、木の茂った岬で、二匹のリスが遊んでいるのが目にとまりました。
もしかしたら、あのリスが冬の蓄えの残りを持っているかもしれない、とふと思いつきました。
そこで、白いガチョウに「ハシバミをすこしわけてもらいたいから、あの岬まで連れていってくれ」と頼みました。
白いガチョウはすぐにニールスを乗せて、その岬へ泳いでいきました。
ところが運の悪いことに、リスたちは夢中になって木から木へと追いかけっこをしているものですから、ニールスの呼ぶ声がちっとも耳に入りません。
リスたちはだんだん林の奥へ奥へと入っていきました。
ニールスも急いでそのあとを追いかけていきましたので、まもなくガチョウの目の届かないところまで行ってしまいました。
そのあいだ、ガチョウはおとなしく岸辺で待っていました。
ニールスは、白いアネモネが顎に届くほど高く生えている草地に入っていきました。
すると、出し抜けにだれかが後ろから自分をつかんで、持ち上げようとする様子です。はっとして振り返ってみると、一羽のカラスが、ニールスの服の襟元をつかんでいるではありませんか。
ニールスは一生懸命体を振り払おうとしました。
けれども、そうしているうちに、もう一羽のカラスが飛んできて、今度は靴下を引っ張ったので、ニールスは地面に倒されてしまいました。
もしもこのとき、ニールスがすぐに「助けて!」と叫びさえすれば、白いガチョウに助けてもらえたに違いありません。
ところが、ニールスは、カラスの二羽ぐらい、自分一人でも平気だと思ったのでしょう。
しかし、いくら殴ったり、蹴飛ばしたりしてみても、カラスたちはどうしても離してくれません。
とうとう、ニールスをつかんだまま空へ飛び上がってしまいました。
しかも、わざと乱暴に飛ぶものだから、ニールスの頭は木の枝にぶつかってしまいました。
そのぶつかり方がひどかったので、ニールスはついに気を失ってしまいました。
目を覚ましたときには、もう空高く飛んでいました。
そのうちに、だんだんと意識がはっきりしてきました。
最初は、自分がどこにいるのかも、何を見ているのかも、さっぱりわかりませんでした。
下を見下ろすと、とても大きな毛織りのじゅうたんが広がっているようでした。
そのじゅうたんは緑と赤に織りなされていて、いろいろな形をしています。
とても厚くて、美しいじゅうたんです。
けれども、ニールスは、おしいことにひどく使い古してあるな、と思いました。
実際、もうぼろぼろになっているのです。
真ん中のあたりが長く裂けていますし、場所によっては、ちぎれてなくなっているところもあります。
そして、何よりも不思議なのは、そのじゅうたんが鏡の上に広げられているように見えることでした。
なぜかといえば、じゅうたんの穴や裂け目からは、鏡が明るくキラキラと輝いているからです。
向こうの方を見ると、ちょうど今、地平線の上に姿を現したお日さまが、静かに昇ってきます。
と見るまに、じゅうたんの穴や裂け目の下にある鏡が、赤や金色に輝き始めました。
なんと美しい眺めでしょう。
ニールスは夢中になって喜びました。
もっとも、自分の眺めているものが何であるかは、ちっともわかっていませんでした。
そのとき、カラスたちは下へ降り始めました。
すると、今まで大きなじゅうたんに見えていたものは、実は、緑の針葉樹や、葉のない褐色の広葉樹が茂っている地面だったことがわかりました。
そして、じゅうたんの穴や裂け目に見えたのは、キラキラ光る入江や小さな湖だったのです。
ガチョウの背中に乗って初めて空を飛んだとき、スコーネの土地が市松模様の布のように見えたことを、そのときふと思い出しました。
それにしても、ぼろぼろのじゅうたんのように見えるこの土地は、いったいどこなのでしょう?
次から次へと、いろんな疑問がわいてきました。
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