骨おって、追っかけるのは、もうやめだ」
けれども、ズルスケも、ほかのキツネと同じことで、一度やろうと考えた事を、途中であきらめることはなかなかできませんでした。
そこで、山のはずれにすわりこんで、ガンからいっときも目をはなしませんでした。
こうして、ガンを見はっていますと、いままでガンたちから、さんざんひどい目にあわされたことが思い出されてくるのでした。
そうだ、おれがスコーネを追われて、こんなブレーキンゲに逃げてこなければならなくなったのも、あいつらのおかげだ。なにしろ、いままで、荘園もガチョウも獲物のいっぱいいる猟場も、何一つ見つからないんだからなあ。このおれがあいつらの肉を食うことができないんなら、せめてあいつらがくたばってしまえばいい。
キツネはこう思うほど、夢中になってきました。
ズルスケの怒りがここまで高まったとき、すぐそばの大きなマツの木でキイキイいう声がしました。
見れば、一匹のリスが、テンに追いまくられて、木からとびおりてきたのです。
リスもテンも、キツネのいるのには気がつきませんでした。
キツネはじっとして、木のあいだでおこなわれているこの狩りを見物していました。
リスは、まるで飛ぶように、かるがると枝から枝へ逃げまわっています。
テンのほうは、リスほど木のぼりがじょうずではありませんが、それでも、森の道を歩くときのように、枝をのぼったりおりたりしています。
「あいつらの半分ぐらいでも木のぼりができさえしたら、」と、キツネは思いました。
「あそこのやつらを寝かしちゃおかないんだがなあ!」
まもなく狩りがおわって、リスがつかまえられますと、ズルスケはさっそくテンのところへ歩いていきました。けれども、テンの獲物を横取りするつもりはないという合図に、二歩ほど距離をおいて立ち止まりました。
そして、いかにも親しげにテンにお辞儀をして、その見事な狩りの腕前をほめちぎりました。
それから、キツネ特有の調子のいい言葉を並べ立てたのです。
ところがテンは、ほとんど返事もしません。
ほっそりとした体に、美しい頭、やわらかな毛並み、うす茶色の首筋の模様。見たところはまるでかわいらしい美人のようですが、その実、森の中でも指折りの恐ろしい生き物なのです。
「あなたほどの狩人が、リスなんかをつかまえて満足していらっしゃるなんて、まことにおどろき入りましたな」
と、ズルスケは続けて言いました。
「すぐ近くに、ずっといい獲物がいるというのに」
ここで少し言葉を切って、反応を待ちました。
しかし、テンはひとことも言わずに、ずうずうしくニヤッと笑っただけでした。
そこで、ズルスケはさらに畳みかけました。
「あなたがあそこの岸壁の下にいるガンたちに気づかないはずがないでしょう? それとも、あなたはあそこまで降りていけないのですか?」
こんどは、答えを待つまでもありませんでした。
テンは背中を丸くし、毛を逆立てて、ズルスケに飛びかかってきました。
「ナニッ、ガンを見たって?」と、テンは唸るように言いました。
「そいつらはどこにいるんだ? さっさと言え。さもないと、貴様の喉元を食いちぎるぞ」
「おいおい、俺がおまえの二倍も大きいってことを忘れるなよ。もう少し丁寧に頼むぜ。俺はおまえに何も頼んじゃいないんだからな。ただガンを見せてやっただけのことよ」
そう言うと、テンはすぐに崖を降り始めました。
ズルスケはそこに座り込んで、テンがヘビのように体をくねらせながら、枝から枝へと渡っていく様子を眺めていました。
そして、こんなことを考えていたのです。
「あの美しい木のぼり上手な狩人ほど、ひどい奴はいない。きっと、もうすぐガンどもを仕留めてくれるだろう」
そして、ガンたちの断末魔の叫び声が今にも聞こえてくるかと待っていました。
ところがどうでしょう。
テンが川の中へ転がり落ちて、水しぶきがバシャッと高く上がったではありませんか。
そしてすぐに、力強い羽ばたきの音が聞こえて、ガンたちがみんな大急ぎで飛び立ちました。
ズルスケはすぐにガンのあとを追いかけようとしましたが、なぜガンたちが助かったのか知りたくなりました。
それで、テンが上がってくるまで、そのまま待っていたのです。
見れば、哀れにもテンはびしょ濡れです。
そして、ときどき立ち止まっては、前足で頭をこすっていました。
「おい、馬鹿野郎、どうせ川にでも落っこちるだろうと思ってたぜ」
キツネは鼻で笑いながら言いました。
「俺は馬鹿じゃないぞ。変なことを言うな」と、テンは言い返しました。
「俺はあのいちばん下の枝に座って、どうやってガンどもを殺してやろうかと考えていたんだ。すると、リスくらいの大きさしかないちっぽけな小僧が急に飛び出してきて、力いっぱい俺の頭に石をぶっつけてきたんだ。それで、俺は水の中に転がり落ちて、這い出すひまもないうちに――」
テンはこれ以上言う必要はありませんでした。
もう聞き手がいないのです。
ズルスケはガンのあとを追って、もうそのときにはずっと向こうへ行ってしまっていたのでした。
いっぽう、アッカは新しい寝場所を探しに南へ飛んでいきました。
まだうす明るく、それに半月が空高くかかっていたので、いくらか周囲を見渡すことができました。
幸い、アッカはこのあたりの地形をよく知っていました。
というのも、春にバルト海を飛び越えてくるとき、風のためにこのブレーキンゲ地方まで吹き流されてきたことが何度かあったからです。
アッカはお月さまの光に照らされている山々のあいだを、黒くきらめくヘビのようにうねっている川に沿って飛んでいきました。
こうして、ユパフォルスまでやってきました。
そこでは川が地下の穴にもぐり、ふたたび現れると、まるでガラスでできているのかと思うほど清らかで澄みきった流れとなります。
そして狭い谷間に落ち込み、底の岩にあたって、しぶきをあげて飛び散っています。
滝の下の、水が激しく渦を巻いて泡を立てているところに、岩が二つ三つ突き出ています。
アッカはここに舞い降りました。
ここも素敵な休み場所です。
ことにこんなに遅くなっては、誰も来る人はありません。
でも、夕方だったら、ガンたちはここにとまることはできなかったでしょう。
なぜなら、ユパフォルスは荒地の中にあるわけではないのですから。片方の岸には大きな製紙工場があり、木々が生い茂る険しいもう片方の岸には、ユパダール公園があります。
昼間であれば、この公園のつるつるした険しい小道を大勢の人たちが歩き回り、谷間を流れる激しい川の流れを眺めるのですが、今は違いました。
ガンたちは、ここが美しく有名な場所だなどとは少しも考えていません。
それどころか、激しく渦を巻く流れの真ん中、すべりやすい濡れた岩の上に立って眠るのは、気味が悪くて恐ろしいことだと思っていました。
水にいつ押し流されるか分かりません。
それでも、ケモノたちに襲われたくないのなら、ここで我慢するしかないのです。
ガンたちはすぐに眠りにつきましたが、ニールスはどうしても眠ることができません。
そこで、みんなのそばに座って、ガチョウの番をすることにしました。
しばらくすると、ズルスケが川岸を駆けてきました。
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