みんな空高く飛んでいましたが、それでも「さあ、丘へ行くんだ! さあ、丘へ行くんだ!」と叫んでいる声が聞こえました。ガンは、庭をぶらぶらしているガチョウたちを見つけると、サッと舞い降りてきて、「一緒においでよ! 一緒においでよ! さあ、丘へ行くんだ!」と大きな声で呼びかけました。ガチョウたちは、思わず知らず頭を上げて耳を澄ましました。けれども、すぐに分別のある返事をしました。
「ここで、たくさん! ここで、たくさん!」
先にも言った通り、たとえようもないほど素晴らしいお天気でした。こんなに爽やかで気持ちのいい日に、あの大空を飛び回ったら、さぞかし楽しいことでしょう。実際、新しいガンの群れが頭上を飛びすぎるたびに、ガチョウたちもじっとしてはいられなくなってきました。なんだか一緒について行きたいような気持ちに誘われて、ガチョウたちは二、三度、羽をバタバタと羽ばたかせてみました。でも、そのたびに年老いたお母さんガチョウが言いました。
「バカな真似をするんじゃないよ。あの連中は、そのうちお腹が空いたり、寒くて凍えたりするに決まっているんだから。」
真っ白な一羽の若いオスのガチョウは、ガンの叫び声を聞いているうちに、どうしても旅に出かけたくなってしまいました。そして、「この次、ガンの群れが来たら、一緒に行こうっと」と叫びました。
やがて、新しい一団が飛んできました。そして、前と同じように呼びかけました。すると若いガチョウは、「待って、待って! 僕も行くよ!」と叫びました。そうして羽を広げて空へ飛び上がりました。けれども、飛ぶのには慣れていないものですから、バタッと地面の上に落っこちてしまいました。でも、とにかく若いガチョウの叫び声は、ガンの群れまで届いたに違いありません。ガンたちは向きを変えて、ゆっくりと舞い戻ってきました。本当に一緒についてくるのかどうか、確かめようというのでしょう。
「待って! 待って!」と、若いガチョウは叫びながら、もう一度飛ぼうとしました。
ニールスは石垣の上から、この一部始終をすべて見ていました。
「あの大きなガチョウに逃げられたら、大損害だぞ」と少年は思いました。「教会から帰ってきて、あいつがいなかったら、お父さんとお母さんはどんなにがっかりするだろう。」
こう考えたとき、ニールスは自分がちっぽけで弱い存在になっていることを、すっかり忘れていました。すぐさま石垣から飛び降りると、ガチョウの群れの真ん中に駆け込み、その若いガチョウの首っ玉にかじりついて叫びました。「飛んでっちゃだめだよ、いいかい!」
ところが、ちょうどその瞬間に、ガチョウは地面から飛び上がるコツを飲み込んでしまったのでした。
そして、ニールスを振り落とす暇もなく、この子を連れたまま空に舞い上がってしまいました。
ニールスは、上へ上へと連れていかれました。
それこそ目まいがするほど、ものすごい早さです。
ああ、これはいけない、ガチョウの首を離さなければ、と気がついたときには、もう空高くのぼっていました。
こんな高いところから落っこちれば、あっという間に死んでしまうでしょう。
せめて、もう少し楽な姿勢にでもならなければたまりませんが、そのためには、ガチョウの背中に這い上がるよりほかありません。
それで、ニールスはさんざん骨を折って、やっとのことでガチョウの背中に乗り込みました。
けれど、バタバタと動く二つの翼のあいだにある、ツルツルした背中にしっかり乗っているのは、なかなか大変なことでした。
ですから、転がり落ちないように、両手を羽毛のなかに突っ込んで、一生懸命しがみついていました。
少年はひどく目まいがして、長いこと何がなんだかわかりませんでした。
風はピュウピュウとうなりを立てて吹きつけてきます。
すぐそばでは翼がバタバタと羽ばたき、その音はものすごい嵐のようです。
十三羽のガンはニールスのまわりを飛んで、勢いよく羽ばたきながら、ガアガアと鳴きたてています。
ニールスは目の前がチラチラし、耳がガンガン鳴っています。
いったい高いところを飛んでいるのか、低いところを飛んでいるのか、そしてまた、どこへ向かって飛んでいるのか、さっぱりわかりません。
でも、そのうちに頭がだんだんはっきりしてきて、いったいどこへ連れていかれるのか、それを見極めなければいけないぞ、とニールスは気がつきました。
けれども、それはなまやさしいことではありません。
下を見る勇気なんて、とても湧いてきそうもないのです。
ちょっとでも下を見ようとすれば、きっと目が回ってしまうでしょう。
ガンたちは、それほど高いところを飛んではいませんでした。
というのは、新しく仲間になったあのガチョウが、空気の薄い高いところで息をするのに慣れていなかったからです。
それでみんなは、いつもよりもいくらかゆっくり飛んでいるのでした。
とうとう思い切ってニールスは、下を見下ろしました。
目の下には、まるでとても大きな布が広げられているようです。
そしてその布は、大小さまざまの数え切れない四角い形に分かれています。
「いったいどこへ来たんだろう?」と、ニールスは不思議に思いました。
見渡すかぎり、目に映るものは市松模様ばかりです。
斜めになっているものもあれば、細長いものもありますが、どれもこれも真っ直ぐな線に囲まれた四角い形ばかりです。
円いものや曲がったものは一つもありません。
「下に見えるのは、なんて大きな市松模様なんだろう?」
誰も答えてはくれないだろうとは思いながらも、ニールスはこう独り言を言いました。
ところが、ニールスのまわりを飛んでいるガンたちがすぐに叫びました。
「畑と牧場だよ! 畑と牧場だよ!」
そう言われてみますと、なるほど、下に見える大きな市松模様はスコーネの平野です。
そして、それがどうしてこんな市松模様に見え、いろんな色に見えるかも、だんだん飲み込めてきました。
明るい緑色の四角が真っ先に目につきました。
それは去年の秋に種をまいたライ麦畑です。
冬じゅう雪の下でも、ずっと緑の色をしていたのでした。
黄色っぽい灰色の四角は、去年の夏に実ったカラス麦の畑で、いまは刈り株が残っているのです。
褐色がかったのは枯れたクローバーの野原で、黒いのは牧場のあとや、いまは耕されていない休閑地です。
褐色で縁が黄色い四角は、たしかブナの森に違いありません。
なぜって、そこには森の真ん中にあって冬には葉の落ちてしまう大きな木々も見えますし、森のへりに生えている若いブナの木が、黄色くなった葉を春までつけているのも見えているからです。
それから、真ん中がいくらか灰色に黒ずんだ四角もありました。
それは黒くなったわらぶき屋根のある大きな百姓家で、前庭には石が敷いてあるのです。
それからまた、真ん中が緑で縁が褐色の四角も見えました。
そこは庭園でした。
そこでは芝生はもう緑に色づいていたのですが、まわりのやぶや木々はまだ裸で、褐色の木の肌を見せているのでした。
ニールスは、あんまり何もかもが市松模様に見えるので、思わずおかしくなって吹き出してしまいました。けれども、ガンたちはニールスが吹き出したのを聞きつけると、とがめるようにどなりました。
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