けれども、どうしてそんなことが起きたのか、だれにも説明できませんでした。だから、ほとんどの人は、そんな話は作り話だろうと思っていました。
そのお話というのは、こういうことなのです。
ヴォンブ湖のほとりにある、ハシバミの茂みの中で、一匹のメスのリスが捕まえられました。そして、近くの農家へ連れてこられたのです。
農家の人たちは、大人も子どもも、そのリスのふさふさした大きなしっぽや、きょろきょろとあたりを見回す賢そうな目、そして小さくてかわいらしい足を見て、とっても喜びました。
みんなは、リスのすばしこい動きや、クルミの殻を上手に割って食べる様子、そして楽しそうに遊ぶ姿を見ていれば、夏の間ずっと飽きずに過ごせるだろうと思いました。
そこで、すぐに古いリスのかごを持ってきました。そのかごの中には、かわいい緑色の小さなおうちと、針金でできた回る車が入っていました。
おうちにはドアと窓もちゃんとついていて、これがリスの食事場所であり、寝る場所にもなるのです。
そして、かごの中には、木の葉っぱのベッドとミルクを入れる器、それにクルミを二つか三つ入れてあげました。
回る車は、リスの遊び道具です。リスがそれに乗って走ると、車がぐるぐると回る仕掛けになっていました。
人々は、リスのためにとても快適な環境を用意してあげたと思っていました。
ところが、リスの様子を見ると、ちっとも満足していなさそうでした。
みんなはびっくりしてしまいました。リスは部屋の隅っこに座り込んで、悲しそうに、しょんぼりとして、時々、訴えかけるような、鋭い悲鳴をあげているではありませんか。
もちろん、食べ物には手をつけませんし、回る車で遊ぼうともしませんでした。
「きっと、怖がっているんだよ」と、農家の人たちは言いました。「明日になれば慣れて、遊んだり、食べたりするさ。」
さて、農家の女性たちは、お祭りの準備で大忙しでした。ちょうどリスが捕まえられた日は、パンを焼くことになっていました。
ところが、運が悪いことに、パン生地がうまく膨らまなかったのか、それとも作業が遅れたせいか、とにかく、暗くなっても仕事が終わりませんでした。
こうして、台所ではみんなが忙しく働いていました。だから、誰もリスがどうしているかなんて考えてみる暇はありませんでした。
この家には、おばあさんがいました。でも、とても年をとっていたので、パン焼きの手伝いをすることはできませんでした。
おばあさん自身もそのことはよくわかっていましたが、それでも、みんなから仲間外れにされているのが、面白くありませんでした。
そこで、おばあさんはまだ寝ずに、居間の窓辺に座って、外を眺めていました。
台所の中は熱くてむっとしたので、窓は開け放たれていました。
その開いた窓から明るい光が中庭に差し込み、中庭の周りの建物を照らしていました。
そのため、おばあさんには、向かいの壁のひび割れや穴がはっきりと見えました。
そして、その光が一番強く当たっている場所にかけられている、リスのかごも見えました。
見ると、リスは部屋から車へ、また車から部屋へと、ひっきりなしに走り回っていて、少しの間もじっとしていませんでした。
おばあさんは、きっとあのリスは妙に興奮しているのだろう、明るすぎる光のせいで眠れないのだろう、と思いました。
牛小屋と馬小屋の間には、大きな門がありました。これも台所からの明かりで照らされていました。
おばあさんがしばらく見ていると、やがて、小さな小人が、足音を忍ばせて、この門から入ってきました。
背の高さはほんの10センチくらいでしょうか。革のズボンに木靴といった、労働者のような格好をしていました。
おばあさんは、すぐに小人だと気がついたので、少しも怖くはありませんでした。
なぜなら、その姿をまだ見たことはありませんでしたが、小人というものは家の近くに住んでいるものだと、以前から聞いていましたし、それに、小人が姿を見せるときには、きっと幸運が訪れるものだと、よく話に聞いていたからです。
その小人が、石畳の中庭に入ってくると、まっすぐにリスのかごの方へ走っていきました。
しかし、かごは高いところに吊るしてあったので、小人の手は届きません。
そこで、小人はすぐに物置の方へ駆け寄り、棒を持ってくると、かごに引っ掛け、まるで船乗りがロープを登るように、するするとよじ登っていきました。
そして、かごのところまで登ると、小さな緑色の家のドアを懸命に揺さぶり、開けようとしていました。おばあさんは、それを聞いても、まったく動じませんでした。
なぜなら、近所の男の子たちがリスを盗みに来ないように、家の子供たちが戸に鍵をかけていたのを、ちゃんと知っていたからです。
リスが、戸が開かないとわかると、巣箱から出てきました。
それから、リスと小人は、長い時間、ひそひそと話し合っていました。
小人は、リスが言いたいことを全部聞くと、また棒を滑り降りて、急いで門から駆け出していきました。
おばあさんは、この晩、もう一度小人に会えるとは思っていませんでしたが、それでも窓辺に座っていました。
しばらくすると、またさっきの小人が戻ってきました。
とても急いでいる様子で、まるで足が地面についていないかのようでした。
今度も、リスのかごを目がけて、まっしぐらに走っていきます。
遠くまでよく見えるおばあさんには、その様子がはっきりと見えました。
さらに注意して見ると、小人は手になにか持っています。
もっとも、それが何なのかはわかりませんでした。
小人は左手に持っていたものを敷石の上に置きましたが、右手のものはそのまま持ち、かごのほうへよじ登っていきました。
そして、木靴でリスの巣箱の小さな窓を激しく蹴ったので、ガラスが割れて、あたりに飛び散りました。
小人は、そこから、手に持っているものをリスのほうに差し出しました。
それから、また棒を滑り降りて、さっき下に置いておいたものを取り上げると、もう一度、かごを目指してよじ登りました。
そして、あっという間に、またもや滑り降りて、まっすぐに走り去っていきました。
あまりの速さに、おばあさんには小人の姿がよく見えなかったほどです。
けれども、おばあさんはもう部屋の中にじっとしていることができなくなりました。
そこで椅子からゆっくりと立ち上がり、庭へ出ていきました。
そして、井戸の陰に隠れて、小人が戻ってくるのを待っていました。
ところが、そこにはもう一人、さっきから小人のしていることをじっと見つめて、不思議に思っているものがいました。
それはこの家の飼い猫でした。
猫はそっと忍び寄り、明かりが照らしている場所から二歩ほど離れた壁のそばに立ち止まりました。
おばあさんと猫は、この寒い三月の夜空の下、辛抱強く、長いあいだ待っていました。
そのうちに、おばあさんは、そろそろ家の中へ戻ろうかと考え始めました。
と、ちょうどそのときです。
敷石の上にコツコツという足音が聞こえました。
見れば、小さな小人が、また戻ってきたのです。
今度も両方の手に何かを持っています。
その持っているものは、キーキー鳴きながら、もぞもぞと動いています。
これで、おばあさんにも、いまはじめてよくわかりました。
初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第13話
ニールスのふしぎな旅
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