まもなく、コウノトリのエルメンリークくんがニールスのそばに降りてきました。コウノトリは体を曲げ、くちばしでニールスをつついて起こしました。
すぐにニールスは起き上がりました。
「眠っちゃいないよ、エルメンくん」とニールスは言いました。「どうしてこんな夜中にやってきたんだい? グリンミンゲ城の様子はどうだい? アッカおばさんに会いたいのかい?」
「今夜は、眠ってしまうにはもったいないくらい明るいでしょう」とエルメンリークくんは答えました。「だから、仲良しのオヤユビさんを訪ねて、カール島まで飛んできたんですよ。あなたが今夜ここにいらっしゃることは、カモメくんから聞きましたからね。わたしはまだグリンミンゲ城へは移らずに、相変わらずポンメルンに住んでいるんですよ」
ニールスは、エルメンリークくんが訪ねてきてくれたことを心から喜びました。二人は古い友人同士のように、次から次へといろんな話をしました。
最後に、コウノトリはこんなに美しい晩なのだから、しばらく一緒に遊びに行ってみないかと誘いました。ニールスは、お日さまが昇る前にガンたちのところへ送り届けてくれるなら、もちろんどこへでも行きたいと答えました。
コウノトリはそう約束しました。そこで、二人は出発しました。
エルメンリークくんは、またもやお月さまをめがけてまっすぐに飛んでいきました。高く昇れば昇るほど、海は下へ下へと沈んでいきます。けれども、コウノトリの飛び方がとても上手で、いかにもふんわりとしていたので、乗っているニールスはまるで空にじっと止まっているような気分でした。
エルメンリークくんが下降を始めて地面に着いたとき、ニールスは今度は随分と早いな、と思いました。けれども、実際にはとても遠くまで飛んできていたのです。
なぜなら、コウノトリはニールスを降ろすとすぐに口を開き、「ここはポンメルンです。あなたはドイツにいるんですよ、オヤユビさん」と言ったからです。
それを聞いて、ニールスは呆気にとられてしまいました。自分が外国に来ているなんて、夢にも思っていなかったからです。
ニールスはすばやくあたりを見回しました。二人は柔らかく美しい砂に覆われた、寂しい浜辺に立っていました。海辺に沿って、テンキ草の生えた砂丘が長く続いています。その砂丘はあまり高くはありませんでしたが、ニールスにはその向こうの陸地までは見えませんでした。
エルメンリークくんは砂丘の上に立つと、片足を上げ、頭を後ろに反らせてくちばしを翼の下に突っ込みました。
「わたしが休んでいる間、しばらく浜辺をぶらついてきてもいいですよ」とコウノトリはオヤユビくんに言いました。「けれども、またここへ戻ってこられないと困りますから、あんまり遠くへ行ってはいけませんよ」
ニールスはまず、向こうの陸地がどんな様子か確かめようと思い、砂丘の一つに登ろうとしました。ところが、二、三歩歩いたかと思うと、何か固いものが木靴の先にぶつかりました。体をかがめて見てみると、砂の上にすっかり錆びついた小さな銅貨が一枚落ちています。でも、あまりに汚れていたので拾う気にもなれず、足で蹴飛ばしてしまいました。
ところが、もう一度体を起こしたとき、ニールスはどんなに驚いたことでしょう! それもそのはず、二歩とは離れない目の前に、高い黒々とした壁と、大きな塔のある門が立っているではありませんか。
たった今、かがんだときには、そこには確かに海がキラキラとなめらかに輝いていました。それが今は、狭間や塔のある壁で隠されてしまっているではありませんか。さっき目の前には海草が打ち寄せられて山のようになっていた場所には、いまや大きな門が開かれています。
ニールスは、これはきっと幻か何かなのだろう、と思いました。それでも、別に怖がる必要はないと思いました。
確かに、これは危険な魔物や悪魔のようなものではないからです。
壁も門も、実に見事に作られています。
それでニールスも、つい、その向こうにはどんなものがあるのか、見たくてたまらなくなってきました。
「よし、こいつはいったい何なのか、見届けてやろう」と心の中で思いながら、ニールスは門を通って中へ入っていきました。
アーチの下では、錦(にしき)模様の服を着た番兵たちが、柄の長い槍を傍らに置いて座り込み、サイコロ遊びをしていました。
みんな遊びに夢中になっていたので、ニールスがすぐそばを駆け抜けていったことには、少しも気づきませんでした。
門を抜けるとすぐに、大きな平らな石を敷き詰めた広場がありました。
その周りには立派な建物が立ち並び、建物のあいだには狭くて長い通りが続いています。
門に面した広場には、人々がいっぱいでした。
見ると、男の人たちは、しゅすの着物の上に毛皮の縁取りがついた長いマントを羽織り、羽飾りのついた帽子を斜めにかぶり、胸には世にも美しい鎖を下げています。
どの人もどの人も素晴らしい身なりをしているので、まるでみんなが王様のように見えます。
女の人たちは頭巾(ずきん)をかぶり、袖の狭い長い着物を着ています。
やはり美しく着飾ってはいますが、男の人たちの華やかさには及びません。
この光景は、お母さんがときどき箱の中から取り出して見せてくれた、昔のお話の本の中の絵にそっくりでした。
ニールスは、自分の目をなかなか信じることができませんでした。
けれども、男の人たちや女の人たちよりも、もっともっと不思議に見えるのは、この都そのものです。
どの家も、破風(はふ)が通りに面するように建てられています。
しかも、その破風がどれもきらびやかに飾り立てられていて、まるでどれがいちばん美しいかを競い合っているようです。
新しいものを急にたくさん見ても、それをすべて覚えておくのはなかなか難しいものです。
しかしニールスは、あとになってからも、階段状の破風だけは思い出すことができました。
そこには、キリストや使徒たちの像が安置されていたからです。
それから、壁のくぼみに様々な像が置かれている破風や、色ガラスをはめ込んだ破風、白と黒の大理石で縞模様を作っている破風なども、記憶に焼き付いています。
ニールスはすっかり感心してこうした景色を眺めていましたが、突然、「こんなものはまだ一度も見たことがない。これからも二度と見ることなんてないだろう」と思いました。
そこで、あわてて町の中へ駆け出し、通りを上ったり下ったりしました。
通りは狭くてまっすぐでしたが、ニールスの知っている都会とは違って、ここにはいたるところに人があふれています。
年老いた女の人たちは戸口に座って、紡車(つむぎぐるま)を使わずに、ただ一本の糸巻き棒だけで器用に糸を紡いでいました。
商店は、ちょうど露店のような具合に通りに向かって開かれています。
職人たちはみんな表で仕事をしていました。
あるところでは魚油を煮立てており、またあるところでは皮をなめしています。
別の場所では縄をなっていました。
もし時間さえあったなら、ニールスはあらゆる物の作り方を、残らず覚えることができたでしょう。
ニールスは、このほかにもたくさんのものを見ました。
初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第46話
ニールスのふしぎな旅
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