そして、「あいつは捕りそこなったが、他のやつをきっと捕まえてやるぞ。」と、唸るように言いました。
その声の様子は、腹の底から怒っているのが分かりました。
「ふん、そんなことができるもんか!」と、ニールスは言いました。
見事に、ガンを助けることができたので、大得意になっていたのです。そして、まだキツネのしっぽをしっかりとにぎり、キツネがつかみかかろうとすると、そのたびに、反対がわへグルグルとまわってしまいます。
さあ、森の中でぐるぐる踊りがはじまりました。
まわりのブナの葉はさかんに飛びちります。
ズルスケは、グルグル、グルグルまわりますが、それにつれて、しっぽもグルグル、グルグルまわります。
ニールスはしっぽにしっかりとつかまっているものですから、キツネには、どうしても捕えることができません。
ニールスは、うまくガンを助けてやったので、うれしくてうれしくてたまりません。
はじめのうちは笑いながら、キツネをからかっていました。
でも、キツネ先生は、いつまでも根気よくやっています。
まったく、これはどこからみても、りっぱな狩人です。
そこで、ニールスは、この調子では、いつかはつかまえられるかもしれないぞ、と、だんだん心ぼそくなってきました。
そのとき、ふと、そばを見ますと、竿のようにすらりとした、小さな若いブナの木が一本生えています。
この木の上には、年老いたブナの木々の枝がおおいかぶさっているので、その上に出れば、すぐに逃げだすこともできるでしょう。
ニールスはキツネのしっぽをさっと放して、ブナの木によじのぼりました。
しかし、キツネのほうはむがむちゅうなので、なおもじぶんのしっぽをめがけて、ぐるぐるまわりをつづけています。
と、だしぬけに、「もう踊りなんかやめたらどうだい。」と、ニールスが声をかけました。
キツネはプンプン怒っていました。
こんなチビスケが捕らない面目なさに、むしゃくしゃしていました。
そこで、ブナの木の下にじっと腰をおろして、ニールスを見はることにしました。
ところで、ニールスはいまにも折れそうな枝にのっかっているので、のんきにかまえているわけにはいきません。
ところが、このブナの木は、ほかの木の枝に乗りうつることができるほど高くはなかったのです。
といって、もちろん、下へおりる気にはなれません。
寒さはひどくなり、手足はしびれきって、枝につかまっているのもやっとになりました。
おまけに、ひどく眠たくなってきました。
でも眠ったがさいご、地べたに落っこちてしまいます。
それで、一生けんめいがまんしていました。
ああ、森のまんなかで、一晩じゅうこんなふうにしていなければならないなんて、なんという恐ろしいことでしょう! ニールスは、いまのいままで、夜ってものがどんなものであるか知りませんでした。
見れば、すべてのものが石になってしまい、もう二どと生きかえってはこないように思われます。
そのうちに、夜があけはじめました。
ニールスは、なにもかもがまたもとの姿にかえったのを見て、うれしくなりました。
けれど、寒さは夜中よりも、かえっていまのほうが、きびしく感じられます。
とうとう、お日さまがのぼってきました。
でも、いまは金色ではなくて、まっかです。
気のせいか、お日さまは怒っているように見えます。
だけど、なにを怒っているのだろう、とニールスはふしぎに思いました。
きっと、お日さまのいないあいだに、夜が地上をこんなにつめたく、陰気にしてしまったからなんだろうか。
お日さまの光は、夜が地上で何をしていたかを見るために、ふりそそいできました。
すると、空を流れる雲、絹のようにつややかなブナの幹、細かく入りくんだ枝、ブナの落ち葉をおおっているシモ、こうしたすべてのものがさっと赤くなりました。
お日さまの光が、ますますあかるく射してきました。
やがて、夜の恐ろしさも消えました。
手足のかじかみも、いまでは感じなくなったようです。
すると、びっくりするほどたくさんの生き物の姿が見えてきました。
赤い首をした黒いキツツキは、くちばしで木の幹をつつきはじめました。
リスは、クルミをかかえて巣からチョコチョコ出てくると、木の枝にすわって、クルミをかじりはじめました。
ムクドリは細い根をくわえて飛んできました。
アトリは木のこずえでさえずりはじめました。
そのときニールスは、お日さまがこういう小さい生き物たちにむかって、「さあ、目をさまして、巣から出ておいで! わたしはここにいるんだよ! もうなんにもこわがることはないよ。」と言っているのを聞きました。
ガンたちが旅立とうとして鳴きたてている声が、湖のほうから聞こえてきました。
それからまもなく、みんなで十四羽のガンが、森の上を飛んできました。
ニールスは大声で呼んでみましたが、ガンのむれはずっと上のほうを飛んでいて、そこまでは声がとどきません。
みんなは、きっと、ニールスはもうキツネにたべられてしまったと思っているのでしょう。
そこで、もうじぶんをさがしてみようとはしないのだな、とニールスは思いました。ニールスはすっかり心細くなってきて、今にも泣き出しそうになりました。
けれども、空を見上げれば、そこにはお日さまがニコニコと金色に輝いていて、世界中に元気をあたえています。
「ニールス・ホルゲルッソンや、わたしがここにいるかぎり、ちっともこわがることはないよ。」と、お日さまはそう言っていました。
ガンのいたずら
三月二十一日、火曜日
ガンが、朝ごはんを食べていると思われるあいだは、森の中ではべつに変わったこともありませんでした。
ところが、それからまもなくです。
一羽のガンが茂った枝の下に飛んできました。
そのガンは幹や枝のあいだを縫って、ゆっくりとあちこちを飛びまわりました。
キツネはガンの姿を見つけますと、すぐさま小さいブナの木の下を離れて、そっとガンのほうへ忍んでいきました。
ところが、驚いたことには、ガンはキツネをよけようともしないで、かえって、すぐ近くまで飛んでくるではありませんか。
そのとたんに、ズルスケはさっと高く跳ねあがりました。
けれども、失敗です。
ガンは湖のほうへ飛んでいってしまいました。
やがて、もう一羽のガンが飛んできました。
このガンもさっきのガンと同じようにやってきます。
けれども、まえのよりももっと低く、もっとゆっくりと飛んでいます。
そのうちに、ズルスケの頭の上まできました。
こんどこそは、とズルスケが飛びあがります。
耳がガンの足にさわりました。
けれど、またまたこのガンも、傷ひとつ受けずに逃げてしまいました。
そして、ひとことも言わないで、湖のほうへ飛んでいきました。
しばらくすると、また一羽のガンがやってきました。
さっきのよりも、もっと低く、もっともっとゆっくり飛んでいます。
ブナの枝のあいだをすりぬけていくのが、だいぶむずかしそうに見えます。
ズルスケは勢いよく踊りあがりました。
と、このガンは、もうすこしのところで捕らえそうになりましたが、それでもとうとう逃げてしまいました。
このガンが見えなくなりますと、すぐに四番めのガンが姿を見せました。
これはまた、いやにゆっくりと飛んでいます。
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