初級翻訳・ニールスのふしぎな旅 第73話

ニールスのふしぎな旅

ああ、なつかしいモルテンに、やっとめぐりあえたのです! 思わず知らず、熱い涙がこみ上げてきました。
アッカはと見れば、ずっと向こうの、一段と高いところに座っています。
まるで谷中を見張っているようでした。
「アッカおばさん、おはよう!」と、ニールスは駆け寄りながら叫びました。
アッカは、ニールスの姿を見つけるが早いか飛んできました。
そして、うれしそうにニールスに飛びついて、くちばしで頭のてっぺんからつま先までなで回しました。
そこでニールスは、みんなと別れてからのことをすっかり話しました。
そして、
「それから、アッカおばさん、いま話したスカンセン公園にはね、ズルスケのやつもつかまっていたんですよ!」と、話して聞かせました。
「あいつはぼくたちをさんざん苦しめたけれど、あそこでしょんぼりしているところを見たら、本当に可哀想になりましたよ。
そのうちに、ぼく、ラプランド犬から、ひとりの男がキツネを買いに来ているって話を聞いたんです。
その人はどこかの島に住んでいるんだそうですけど、なんでもその島ではキツネを皆殺しにしてしまったので、そのためネズミがうんと増えてきたんですって。
それで今度は、ネズミを絶やすために、またキツネを連れて行くことにしたんですって。
ぼく、その話を聞いたから、すぐにキツネの檻のところへ飛んでいって、ズルスケに言ってやりました。
『おい、ズルスケ、もうすぐここへキツネを買いに来る人があるから、その人が来たら、おまえ、隠れたりしないで大人しくつかまるんだよ。
そうすりゃ、また自由になれるから。』
そしたらズルスケのやつ、ぼくの言うとおりにしたんです。
だから、いまごろはその島へ行って、きっと自由にとびまわっているでしょうよ。
どうですか、アッカおばさん、ぼくのやったことはいいことでしょうか?」
「ああ、わたしだってそうしたろうよ!」と、アッカは満足そうに答えました。

南へ、南へ
ラプランドの夏も過ぎて、いつの間にか九月の末になりました。
地上は見渡す限り一面の雪に覆われて、真っ白です。
雨や嵐の日が多くなりました。
たまにお天気のいい日があっても、すぐに氷が張ってしまいました。こうなっては、もうこのラプランドに、いつまでもぐずぐずしているわけにはいきません。さいわい、ひなどりたちもすっかり大きくなって、羽も強くなりました。そこで十月一日の朝早く、アッカを隊長として、三十一羽のガンが南をめざして飛び立ちました。来るときにいっしょにいた六羽の若いガンがいなくなって、そのかわりに、新しく生まれたガンが二十二羽加わっていたのです。若いガンたちは、さいしょは旅になれないので、もうくたびれちゃったとか、おなかがへったとか、ブツブツ不平ばかりこぼしていましたが、だんだん慣れるにつれて、みんなといっしょに元気よく飛んでいきました。

みんなは南へ南へと飛びつづけ、イエムトランドを過ぎ、ダラルナを経て、やがてヴェルムランドに入りました。こんども行ったときと同じように、ニールスは行く先々で珍しい伝説を聞いたり、美しい風景を眺めたりしていました。こうして、日一日と生まれ故郷に近づくのを心から楽しみにしていました。

ところが、そうしたある日のこと、カラスのバタキーから思いがけないことを聞かされました。ニールスは、いまのいままで、白ガチョウを無事に家までつれていってやりさえすれば、自分は魔法を解かれて、もとの人間にもどれるものとばかり思っていました。ところが、どうでしょう。ほんとうは、白ガチョウを家へつれていっても、ニールスのお母さんがガチョウを殺さなければ、ニールスは人間にもどれないというのです。

それを聞いたときの、ニールスの驚きはどんなだったでしょう! あのモルテンを、どうしてそんなかわいそうな目にあわせることができましょう! そうかといって、このままでは、自分は人間にもどることはできません。ニールスの心は、すっかり暗くなってしまいました。

小説家のおばさん
十月六日、ガンたちはクラレルフ川にそって、ムンクフォルスまで飛びました。そこからフリューケン湖をさして西に向かって飛んでいきましたが、まだ湖に行きつかないうちに、もう暗くなりはじめてしまいました。ガンたちは森の中の沼地に泊まり場所を見つけて、そこに舞いおりました。けれども、ニールスには寝るような所がありません。そこで、ただひとり森をぬけて、やがて、とある屋敷の前へ出ました。あたりに人の姿が見えないのをさいわい、ニールスは庭の小道のそばにあるリンゴの木から、真っ赤なリンゴをもぎとりました。そして、その木の下の芝生に腰をおろして、小さく切りはじめました。

と、そのとき、頭の上でかすかなうなり声がしたかと思うと、一羽のフクロウが舞いおりてきました。ニールスは、ここはどこですか、と聞いてみました。すると、フクロウは、ここはモールバッカというお屋敷だよ、と答えました。ところが、このフクロウは、今夜はさっぱり獲物がなくて、プンプン腹をたてていたところでした。で、このチビスケをやっつけてやれとばかりに、ニールスのすきをうかがって、さっと襲いかかりました。ニールスは両手でフクロウをふせぎながら、助けてえ! と声をかぎりに叫びました。

ここで、ちょっとお話がかわります。ニールスがガンたちといっしょに空の旅をつづけていたちょうどその年に、ひとりの小説家のおばさんが、小学校で使う読本にスウェーデンのことを書きたいと思って、一生懸命考えていました。このおばさんのつもりでは、クリスマスから次の年の秋までのことを、いろいろおもしろく書きたいと思っていたのです。それが、まだ一行も書けないので、すっかり困ってしまいました。そしてとうとう、「子どもたちのためになる、まじめな本、それもウソをひとことも書かない本、そういうような本は、わたしにはとても書けそうもない。だれかほかの人に書いてもらうほうがいい」と、思いました。

でも、そうは思っても、おばさんは、なかなかあきらめることができませんでした。そのうちに、ふと、こんなに自分が書けないのは、年がら年じゅう、壁だの街路だのしか目にはいらない、こういう町なかにいるからじゃないだろうか。田舎へ行って、畑や森でも見れば、うまく書けるかもしれない、と思いつきました。このおばさんはヴェルムランド生まれの人でした。それで、まず故郷のヴェルムランドのことから書いてみようと思いました。あそこにはおもしろい話や行事がたくさんある。クリスマスや、お正月や、お祭りの様子などを書けば、子どもたちはきっと喜ぶだろう。おばさんはそう思って、ペンを取りました。こういうことを、おばさんははっきりと覚えていたのです。それなのに、いざ書こうとすると、どうしてもペンが進まないのです。これは、どうしても故郷に帰るよりほかはありません。けれども、おばさんが生まれたその屋敷は、今では知らない人の手にわたっていました。
ですから、自分のふるさととはいえ、気軽に帰るわけにはいかなかったのです。
もちろん、おばさんが訪ねていけば、今そこに住んでいる人たちも、きっと気持ちよくもてなしてくれるでしょう。

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