天の恵みが、あなたにありますように!」
と、途切れなくべらべらと元気に挨拶してくれた。
「お早う!」
私たちはしっかりと手を握り合った。
二人の小さなお手伝いさんも、両手を組んだまま私にペコリと頭を下げて挨拶してくれた。
私も心の底から嬉しかったよ。
ニューファウンドランド島の真っ青な空の下で、こんなにていねいな東洋風の礼儀作法を受けたんだからね。
陳さんが言った。
「さあ、もう一発ぶち上げますよ!
残りは式が終わってからのお楽しみです。
今度のは、私の故郷の名前で『柳雲飛鳥(りゅううんひちょう)』といいます。
柳はサリックス・バビロニカ(ヤナギ)のこと。
飛鳥はツバメのことです。
日本でも、柳とツバメと言いますか?」
「言いますよ! うろ覚えだけど、たしか私の国にも、そういう名前の狼煙があったはずだなあ。いや、花火だったかな? それとも『柳にてまり』だったかなあ」
「日本の花火の名所といえば、東京の両国橋ですね!」
「ええ、そのほかにも岩国(いわくに)とか石巻(いしのまき)とか、いろんなところにあるんですよ」
「なるほど。さあ、準備を!」
陳さんは二人の子どもたちに向き直った。
一人の子がかしこまってバスケットから狼煙玉(のろしだま)を取り出した。
陳さんはそれを受け取って念入りに調べてから、
「よし、火口(ほくち)を!」と言った。
もう一人の子は、すでに手に火口を持ってもうスタンバイしていた。
陳さんはそれを受け取る。
最初の子が「シュッ」とマッチをすった。
陳さんはそれに火口をあてて、急いでのろし筒の中に投げ込んだ。
しばらくして、「ドーン!」という大きな音とともに、さっきの玉が、まるで汽車のようなすごいスピードで青空へまっすぐ昇っていったよ。
二人の子どもたちも、行儀よく腕を組んだまま、それを見上げていた。
するとたちまち空の上で白い煙がパッと広がり、「ポン、ポン」と乾いた音が下まで響いてきた。それから青い柳の枝のような煙がフワッと垂れ下がり、その煙の間をツバメの形をした黒い影が、ぐるぐると縫うように飛んでいったんだ。
「さあ、式場へ参りましょう!」「お前たちはここで番をしておいで!」
陳さんは英語でそう言うと、私たちはあの二人の子どもたちの敬礼をうしろに見送りながら、式場のテントへと戻っていきました。
式が始まるまで、もうあと六分しかありませんでした。
テントの入り口で、私たちはプログラムを受け取りました。
そこには表に、
ビジテリアン大祭次第
挙祭挨拶
論難|反駁
祭歌合唱
祈祷
閉式挨拶
会食
会員紹介
余興 以上
と印刷されていて、私たちがそれを受け取ったときは、ちょうど九時五分前でした。
式場の中は超満員でした。
それに、人数もしっかりと調べてあったと見えて、空いている椅子はほとんどありませんでした。もちろん、腰かけないで立っている人なんて一人もいませんでした。
みんな合わせると、五百人はいたことでしょう。
その中には、女性たちも三分の一ほどはいたようです。
いろいろな服装や色合いが、あちこちに飾られたオレンジや青の花々と入り混じり、秋の空気は水のように透き通っていました。信者たちも、さっきまでの賑やかさがうそにように静まり返って、式が始まるのをじっと待っていました。
アーチになった祭壇のすぐ下には、スナイダーを楽長とするオーケストラバンドが半円を描くように陣取っていて、その左側には合唱隊の席がありました。
合唱隊の中には、カナダのグロッコもいたそうですが、どれがその人なのか私にはわかりませんでした。
ところが、祭壇の下のオーケストラバンドの右側には、「異教徒席」「異派席」という二つの陶器でできた看板が出ていて、どちらの席にも二十人ほどの礼装をした人たちが座っていました。
その中には、今朝の自動車で見かけたような人もたくさんいました。
私もそこで陳さんと並んで、一番うしろに席をとりました。
陳さんはしきりに、向こうの「異教徒席」や「異派席」の様子とプログラムとを見比べながら、よほど気にかかる様子でした。
ついに、彼はそっと私にささやきました。
「このプログラムにある『論難』というのは、向こうのあの連中がやるのですかね?」
「きっとそうでしょうねえ」
「どうですか、異派席の連中は、私たちの仲間に比べると、なんだか身なりも風貌もちょっと見劣りするようですね」
私も思わず笑ってしまいました。
「どうも、そのようですね」
陳さんがまた言いました。
「しかし、そうかと言って、異教徒席の連中と異派席の連中を比べてみたら、これまた全然違っていますね。
異教徒席の連中なんて、実際どうしてあんなに醜悪(しゅうあく)なんでしょうね!」
「まったくですね!」
私はとうとう噴き出してしまいました。
実際、異教徒席の連中といったら、どいつもこいつもなんだか不気味で顔立ちが冴えなかったのです。
そのとき、突然、澄み切った電鈴(でんれい)の音が式場いっぱいに鳴り響きました。
雷のような拍手が巻き起こりました。
白い髭に赤い顔をしたデビス長老が、質素な黒いガウンをまとって祭壇に立ったのです。
そして、何か話そうとしたようでしたが、あまりにも嬉しさがこみ上げてきたと見えて、もう言葉が出てこず、ただオイオイと泣き出してしまいました。
信者たちは熱狂して、大歓声をあげながら拍手しました。
デビス長老は大きく手を振って、また何か話そうとしましたが、今度も声が喉につかえてしまって、まるで変な声になってしまい、とうとうまた泣いてしまったのです。
みんなは再び熱狂的に拍手しました。
長老はやっと気を取り直したのか、大きく手を三回振って、何か叫びかけましたけれども、今度もやっぱり同じように、崩れ落ちるようにして泣いてしまったのです。
すると、祭司次長であるウィリアム・タッピングという人が――ジャワの宣教師なそうですが、背の高い立派なおじいさんなのですが――見かねてすっと前に出てきて、祭司長の隣に立ちました。
式場は水を打ったように静まり返りました。
「諸君! 祭司長はただいま、言葉を発せずとも百千万の言葉を私たちにすべて見せてくれた。
これは、本当に尊い『祭りの始まり』の宣言である。
しかしながら、まだ祭司長が口に出して言っていないことも残っている。
これこそ実は、祭司長が述べようと欲していることの中の、ほんのカスのような部分にすぎない。
しかし、このカスであっても、祭司次長が諸君に伝えることは、あえて咎められるべきことではないはずだ。
諸君! 私たちは、内からも外からも多くの迫害に耐えながら、今日までビジテリアン(菜食主義)同情派の主張を守り抜いてきた。
しかも、これまでは社会的には無力な、各個人個人としての活動にすぎなかった。
だが、本日はすでにビジテリアン同情派の力強い結束を見ることができた。そして、その光輝ある八面体の結晶とも言うべき『ビジテリアン大祭』を、この清らかなニューファウンドランド島、九月の澄み切った大気の底に生み出すことができたのだ!
特にこの大祭において、私たちが多少の『愉快な刺激』を味わうことができるということは、最も天意に適ったことである。
コメント