初級翻訳・不思議な鳥 第3話

不思議な鳥

「何か悪いことをしたことがあっただろうか?」
「何か人の物を盗んだことがあっただろうか?」
「まったくそんな覚えはない!」
けれど、この黒い鳥を見たことがあるような気がする……それは幼い頃のことでした。
日食の日に、こんな黒い鳥が何羽も何羽も、空をぐるぐると飛び回っていたような気がします。
なんだか黄色く暗くなった空に、おびえて変な声で鳴きながら、ぐるぐると円を描いて飛んでいたのです。
大きなお日様が病気になられたのだから見てはいけない――その意味は、この日には何か人の命にさわる毒が空から降ってくるということでもあって――村では人が外を歩く姿がすっかり途絶えていました。
木も悲しめば、草も悲しむという。
心がなくて無邪気な鳥までが悲しむというので、戸口に立って空を見上げた時、雲は猛烈な熱で煮詰まるように薬のような色をしていました。
よく重い熱病にかかったときに、土用の丑の日に採って乾燥させておいたドクダミ草を煎じると、ちょうどこういうような色になります。
もしその水を飲んで生き延びられるものならどんな重い熱病だって治るけれど、死んでしまう運命の者なら体までがドクダミ草の色と化して死んでしまうと聞いた――このとき、黒い鳥が空を数え切れないほど飛んでいたのです。
その黒い鳥は、あまり大きくはありませんでした。
もちろんカラスではありませんでした。
その鳴き声は、何かにびっくりしたような、目が見えなくなってしまったような、巣の場所を忘れてしまったような、うめくような、苦しみもだえるような、切なそうな鳴き声でした。
私はこの黒い鳥の鳴き声を聞いたとき、もう二度と太陽は姿を現さず、このままこの世がずっと永遠の夜になってしまうのではないかと思いました。
もしそうなったら、いったいどうなってしまうのだろう。
人は外に出て働くこともできず、木も草も、あのように薄暗い、飴色の空の下で悲しそうに突っ立っている。
向こうの家もあのように黒く、この不気味な黄色い空の下に動かずにぽっかりと浮かんでいて、すべてが黄色い空の下で、まるで口がきけない人のように音もなく黙っている……いつまでもいつまでも黙りこくっている。
ただ目にするのは、飴色の空にときどき悪夢のような形の定まらない雲がプカプカと出ては消え、どんよりと鈍く動いているばかり。
そしてこの黒い鳥が、相変わらずあの嫌な声で鳴き続けているのだ。
けれど、いつかこの黒い鳥も羽が疲れ果てて地面に落ちてしまい、あの嫌な声もしだいに疲れてかすれ、枯れてしまうだろう。
そうすればこの世は、完全に「声」というものがすっかり絶えてしまう。
犬も死んでしまえば、鶏も死んでしまう。
いっさいの生き物の声は途絶えてしまう。
……けれど、一番最後まで鳴き続けているのは、この黒い鳥なのだろうというような気がした。
その時、地球の上には風が吹くだろうか?……やっぱり吹くかもしれない。
けれどそれは、冷たくて氷のような風なのだ。
あの悲しげな木や草にぶつかる時、傷ましい音を立てるだろう。
そうなったら雨が降るだろうか……雨なんてものは降らないかもしれない。
「この日蝕はいつまで続くのだろう……。」
私はだんだん心配で落ち着かなくなってきました。
何日もこのままの状態が続いたら、人はずっと明かりを灯し続けなければならず、いつか油も底をついてしまうだろうと思った。
……このとき、家の中ではランプに火が灯されました。
空では相変わらず、黒い鳥が鳴き続けていました。
「あの鳥は、いったい何の鳥なんでしょうね。」
と、すぐ隣で誰かが言っている声がしました。
「ツバメでしょうか?」と、誰かが言う。
「ツバメにしては、鳴き声が違うよ。」と、これは子供の声である。
「不思議な鳥が現れたものだな。」と、おじいさんの声がする。
「すっかり暗くなりましたね。」と、女の人の声だ。
「嫌な鳴き声だこと。」
「あの黒い鳥め。」
「いったい何羽いるんだろう……。」
などという声があちこちから聞こえてきました。

空はだんだんと暗くなってきました。
また雪が降ってきそうな気配でした。
私は銃をかついで、急いで家路を急ぎました。
「あの黒い鳥をもらってしまっても、本当に大丈夫だろうか。」……吉太があまりにかわいそうだなというような気持ちもわいてきました。
その晩はなんとなくどんよりと暗い気分でしたが、明るい朝になると、私はあの絵の具の皿を探し始めました。

四

「これか?」と言いながら、私は棚の上から煤(すす)にまみれた絵の具の皿を引っ張り下ろしました。
皿の上にはたっぷりと埃がたまっています。
ふうっと一息吹きかけると、ちょうどその時窓から射し込んできた冬の日の光に照らされて、黄金色の炎がパッと立ち上ったかのように輝きました。
無数の小さな塵(ちり)が一粒一粒キラキラと光りながら、明るい光の海を泳ぐように舞い上がりました。
吉太はあわててその皿を奪い取るようにがっしりと掴むと、垢(あか)の染み込んだ懐の中へとすばやく隠しました。
軒下の柱には、黒い鳥が小さな籠に入ってブラブラと吊るされています。
私はその鳥籠にちらっと目をやって、
「黒い鳥だな。」と、言いました。吉太は、もう帰りかけていたけれど、ここで振り返って、
「だんだん毛が生え替わって、赤くなるんだ。」と言った。
私は、適当なウソをついているんだと思って、「そうか。」と別にまともに返事もしなかった。
鳥籠はすごく簡素なものだったけれど、中には青い色のエサ入れと灰色の水入れが入っていた。
きっと吉太が鳥と一緒にくれたのだろう。
私は長くこの鳥籠とエサ入れを使っていた。
はじめのうちは、この黒い鳥となんだかどんよりと暗い気持ちにさせられるものだった。
頭から目つきまで、可愛いというより、その中にゾッとするほど人の心を惹きつける力があるような気がしたのだ。
けれど、いつも同じ戸口の柱に吊るして見慣れていくうちに、いつしかこの鳥に親しみを感じるようになっていた。
やがて冬は過ぎ去った。
北国の暗い空も、一皮むけたようにパッと明るくなった。
春の雨がシトシトと降る季節になった。
海棠の花は色っぽく咲きほこり、八重桜のつぼみもやわらかく赤みをさす。
空には白い綿のような雲が低く垂れ込め、花の咲く村をやさしく包み込むように穏やかに通り過ぎていった。
私はこの時、小鳥を庭に連れ出して、花がよく見えるところに置いてやった。
また、雨上がりの朝には、紅色のつぼみからしずくがポタポタと垂れる枝の下に吊るしてやった。
気のせいか、この頃から黒い鳥の胸の毛がだんだん薄紅色のようになってきた。
小鳥は籠の中から、この春のうららかな景色を眺めていた。
首をかしげながら、自分の体が自由に動かないのを悔しがっているように、木々の梢(こずえ)にやってきては他の鳥を見て、うらやましがっているように見えた。
この鳥をいっそ逃がしてやろうか。
そう思ったことが何度あった知れない。
けれど、やっぱりなんだかこの鳥がいなくなってしまうのは寂しかった。
逃がしてしまえば、もう二度と戻ってこない。でも、逃がそうと思えばいつでも逃がすことができるのだ。
今日はやめておこうと、思い直したのだった。

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