ある年、おばあさんが亡くなった。
その時、親戚の者たちが集まってきた。
その中で年寄りのおばあさんたちが、この鳥を逃がしてやりなさいと言った。
その時、私は鳥籠の前に立って、じーっと鳥を見つめながら考えた。
もうこの鳥が来てから三年になる。
いつの間にか黒い鳥の様子が変わっていて、胸の毛はすっかりあかね色や薄紅色になっていた。
体全体の毛の色が赤みを帯びてきたのだ。ただ昔と変わらないのは、頭の部分だけだった。
頭は真っ黒でツヤツヤしているけれど、そこには昔は見えなかった白い毛が二筋、三筋と混ざるようになっていた。
「なるほど、あのとき吉太が『毛が変わる』って言ったのは、本当だったんだな。」と思い出して、吉太があわてて絵の具の皿を奪い取っていったことなどを思い出した。
「吉太は、あの絵の具の皿をいったい何に使うんだろう?」
と、私はあの当時にタイムスリップしたように考えた。
私はこう思った。
あんな少年は、なんでも他の人が持っているものが欲しくなるものだ。
特にあいつの性格からして、ひとたび「欲しい」と思ったなら、ものすごく欲しくなってたまらなくなるのだろう。
それとも、あの赤や紫、青や黄色の絵の具がついていたから、何かものすごく良いものだとでも思ったのだろうか……。
このとき、家の中がガヤガヤと騒がしくなり、ちょうどおばあさんのひつぎが出発するところだった。
泥だらけの田んぼ道を、白い幕で囲まれたひつぎが、雨風にひらひらと揺られながら進んでいった。
初夏の自然はどれもこれもどんよりとした鬱陶しい緑で、丘はボワンと浮き上がり、林はどこまでも暗く広がっていた。
お葬式のお供から帰ると、叔母がまた「小鳥を逃がしてやりなさい」と言った。
仏様のためだからと言って、鳥籠のそばに立って私の顔をじっと見つめた。
見ると、叔母の頭もすっかり白くなっていた。
目もくぼんできている。
顔にも糸がこんがらがったようなシワがたくさん寄っていた。
この調子では、もう長くは生きられないだろう。
この人の言うことに背くのもかわいそうだなと思って、私は深く考えもせず、黙って鳥籠の扉を開けた。
「さあ、早く逃げなさいよ!」と叔母は泣き出しそうな声で言った。
鳥はくちばしで竹の骨をツンツンとつついたり、くちばしをこすり合わせたりしていたけれど、小声で何かピヨピヨとさえずると、籠の入り口まで出てきて、しばらく外の景色を首をかしげながら眺めていた。だけどやっぱり思い直したのか、籠の中へと戻ってしまった。
叔母が何度も何度も、
「逃げなさいよ!」と言ったけれど、鳥は二度と籠の入り口から外に出ようとはしなかった。
さすがにこれを見た叔母は、考え込みながらこう言った。
「もうすっかり翼が弱ってしまっているんだね。こうなっては、やっぱり籠の中にいてやった方がいいだろう。」と言って、その場を離れていった。
人間だってそうじゃないだろうか? 若い女の人がお嫁に来て、家の中に縛られて、みんなこの叔母のようになってしまう。
そしてこの時が来ても、自分の過去を振り返って特に残念だとも何とも思わず、「これが当たり前のことなんだ」と信じ込んでいるのだ。
……
夕方の月が出て、ほんのりと鳥籠の上を照らし出した。
家の中では仏壇にロウソクの火が灯され、お経を唱える鉦(かね)の音が鳴り響き始めた。
五
ある日、私は図書館に入って、鳥の図鑑をあっちこっちと調べてみた。
私には、あの黒い鳥の名前がわからなかったからだ……。
西洋の鳥図鑑の中に、だいたいこの鳥にそっくりな鳥が載っていた。
名前はすごく発音しにくいもので、向こうでは一般的に「不思議な鳥」と呼ばれていると書いてあった。
さらにその性質を調べてみると、もともとは肉食の鳥で、ワシやトビの仲間に入り、荒々しくて気性が荒いけれど、よく人に懐く性質があると書かれていた。
……私は、肉食の鳥でありながら、アサの種をあげて今まで育ててきたことを、なんだか不思議に思った。
……
そして、その本には黒い鳥の本当の姿が描かれていた。よく似ていたが、別にその毛が変わって赤くなるということは書いてなかった。
私は、もしやこの鳥ではなく、自分が飼っていた鳥は別の種類の鳥ではないかと思って、さらにいろいろと調べてみたけれど、他にそれに似たような鳥は見つからなかった。
……
私が故郷を出る時、車屋の老夫婦が「大事にして、可愛がって飼うから」と言うので、その鳥を譲ってきたのだった。
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