初級翻訳・人造人間エフ氏 第7話

人造人間エフ氏

飛行機の方で少しでもぐずぐずしていれば、今の砲撃で機体はバラバラになるところだった。
それにすぐ気づいて、見事に編隊をとき、よけた海軍機たちもさすがだった。
そう思っていると、つづいて二回目の砲撃だ。
どどーん、ぱっぱっぱっと、ものすごい音を立て、目のくらむような激しい光を放つ。
船長も船員も、正太もマリ子も、みんなびっくりしてこの砲撃を見守っている。
一体、どこからこの高角砲の弾は飛んできたのだろうか。
「あっ、飛行機が急降下するぞ!」
正太が叫んだそのとき、三つに分かれた編隊は、それぞれ見事な宙返りをしながら、機体をまっさかさまにして、ひゅーーっとまい下りていった。
どこを狙っているのか? それはすぐにわかった。
波間に見え隠れしているのは、さっき逃げたはずの怪潜水艦だ。
逃げると見せかけておいて、実は逃げもせず、波の間から隙をうかがって、どどん、どどんと空中へむかって死に物狂いで砲撃を始めていたのだ。
なんてずるい潜水艦なんだ!
そのとき、急降下中の我が海軍の編隊は、翼の下から、黒い爆弾をポイと放り投げた。
爆弾は風を切りながら、海面めがけて落ちていく。
その直後、どどどーん、ぐわーんという大爆発が起きた。
海面からはまるで大きな塔のような水柱が立ち上がり、海の上にはものすごい波のうねりが広がっていった。そのなかに、まっくろな煙がすーとたちのぼりはじめた。
おやとおもうまもなく、その煙はどどんと一度に爆発して、海面は一めんの焔の海と化した。
潜水艦に命中したのである。
卑怯な不法砲撃を海軍機にむかってやったため、とうとうあべこべにやっつけられたのだ。
そのころまた次の爆弾が海面にもぐりこんだ。
あらためて、ものすごい爆発がおこった。
天地はいまにもくずれそうに、ふるえるのだった。
高射砲は、すっかりだまりこんでしまった。
硝煙は海面をおおって、あたりをだんだん見えなくしてゆく。
天候もわるくなってきたようだ。
そのうちに、飛行機のすがたも、煙霧のなかにとけてしまって、やがて見えなくなった。
ただエンジンだけが、つづいてはげしい唸りごえをたてていたが、それもいつしかとおくになってしまった。
ウラル丸の船員といわないでも船客といわないでもみんな言い合わせたようにほっとため息をついて、なに一つこわれたところのない船体をふしぎそうにながめまわすのであった。
敦賀港

 そののちは、べつにかわったこともなく、ウラル丸はついにめでたく敦賀の港に錨をおろした。
ウラル丸の検疫がすんだ。
もうこのうえは上陸してもよいということになった。
そこで桟橋に、横づけとなりそして出口がひらかれた。
まっさきに出口へ突進したのはひげだらけの老紳士大木であった。
「さあ、おまえたちも、わしについて、早く上陸するのじゃ。
こんな縁起のわるい船は、すこしでも早くおりたがいいぞ。
さあ、わしについてくるのじゃ」
 大木老人は、正太とマリ子の手をとって、他の船客をらんぼうにおしのけながら、出口をとおりすぎようとする。
大木老人はそれでもいいが、彼に手をとられた二人の兄妹こそ大めいわくだ。
マリ子などは、さっきからいくたびか足を踏まれたり、そして顔を大人の洋服ですりむいたり、全くひどい目にあっている。
「もしもし、あなたがたは、切符をどうしました。
切符をおいていってください」
 出口にがんばっていた船員が、大木老人たちをよびとめた。
「なんじゃ、切符かね」
 大木老人は、もどってきて、ポケットからしわだらけの切符をとりだした。
「さあ、おまえたちも切符を出して、このおじさんにくれてやるんじゃ」
 大木老人は、兄妹の方をふりかえっていった。
正太とマリ子は、それぞれ切符をとりだして、船員にわたした。
「兄さん、はやく出ましょうよ」
 マリ子は正太の腕をひっぱった。
そのときマリ子は、兄の腕がたいへん固いので、びっくりした。
それをたずねようとおもっているとき、また大木老人がうしろをふりかえって、
「さあさあ、なにをぐずぐずしているのじゃ。
早くこっちへおりてこんか」
 と、ひげをうごかしながらどなった。
マリ子は、それに気をとられてそのまま汽船をおり、桟橋に立った。
「こっちじゃ。
この自動車にお前さんもたちもおのり。
わしが途中まで送っていってやるよ」
 大木老人は、なにもかも胸のなかにのみこんでいる気になって、車の中から兄妹をいそがせた。
正太がさきに自動車のなかに入った。
マリ子もつづいて入った。
扉はしまる。
自動車は、警笛をならしながら、すぐさまたいへんなスピードを出して、桟橋からはしりさった。
あまりスピードを出したものだから、桟橋ではたらいていた仲仕が、びっくりして身体をかわした。
そしていうことに、
「ああ、らんぼうな奴だ。
おれが今、あのままじっとしていたら、あの自動車はおれの身体を半分ひいていったろう。
なんだって、あのようなスピードを出すのじゃろう」
 そういって、彼はとおざかりゆく自動車の番号を、にらみつけた。
にせ切符

 それから三十分ばかりたってのことであった。
ウラル丸の船客は、もうほとんどみんな出てしまった。
出口に立って、船客から切符をうけとっていた切符掛の船員は、すこしつかれをもよおし、あたりはばからぬ大あくびをした。
そのとき奥から、高級船員があらわれて、こえをかけた。
「おい、あくびなんかするなよ。
そのあいだに、船客切符の番号でもあわしておけ」
 つまらないところを見られたものだと、切符掛の船員は、ぶつぶついいながら、一号二号三号と切符をそろえだした。
彼は、もうすこしで全部の切符をかぞえおわろうとしたとき、船客がひとりそこへ出てきた。
「もしもし切符はこっちへください」
 そういって、船員が手を出した。
見ると、その船客というのは一人の少年だった。
少年の顔をみると、切符掛の船員は、あれっ、へんだなと、こころのなかで、さけんだ。
「ああ切符なら、これです」
 少年は、十九号と番号のうってある切符をさしだした。
切符掛が切符をうけとろうとすると、かの少年はあわてて、手をひっこめた。
「ま、待ってください。いま船をおりるわけじゃないんです」
「だって、船はここでおしまいですよ。
早くおりてください」
「それはわかっていますよ。
しかし僕の妹がどこへいったのか、見えないんです」
「えっ、なんですって」
「さっきから妹のマリ子を船内あちこちとさがしているんですが、どこへいったのか、いないんです。
僕、困っちゃったなあ」
 少年は、ほんとうに困っているらしくみえる。
だが、船員は、この少年のふるまいを、たいへんあやしいとにらんだ。
「もしもし、ちょっとその切符をみせなさい」
「切符よりも妹をはやくしらべてください」
「いやいやそうはいきません。
その切符はあやしいですぞ。
君は十九号という切符をもっているが、ほら、これをごらんなさい。
十九号という切符は、もうすでに私がちゃんとお客さまからいただいてある。
君のもっている切符は、にせ切符だ。
君は、どこからそんなにせ切符をもってきたのか。
それともじぶんでこしらえたのか。

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