初級翻訳・怪塔王 第2話

怪塔王

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 一彦とミチ子は昨夜の怪事件を知ると、驚きのあまり朝ごはんも食べずに浜辺へ駆け出しました。
「あっ、あれが軍艦淡路だ! すごいなあ」
「あら、あんなに傾いているわ。兄さん、あの軍艦は沈んでしまわないのかしら?」
「さあ、どうだろう。誰かに聞いてみようよ、ミチ子」
 兄妹は浜辺に集まった人混みをかき分け、事件について詳しく知っていそうな人を探し回りました。
 すると、浜にボートが着き、中から水兵さんたちがどやどやと降りてきました。その中の一人が、警戒に来ていたお巡りさんのところへやってきて、話を始めました。
「お巡りさん、藁むしろ(わらむしろ)は集まりそうですか?」
「この村では、水兵さんが頼まれたほどの数は集まりませんが、半分くらいならなんとかなりそうです。残りの半分は、今あちこちに人をやって集めていますから、心配しないでください」
「そうですか。早くお願いしたいですね。潮はこれからどんどん引くそうですから、軍艦はますます危なくなります」
「水兵さん、一体どうしてあんなことになったんです? 航海長のミスですか?」
「いや、そんなことはありません。全く不思議としか言いようがないのです。いつの間にか、あの大きな艦体が陸地へ引き寄せられていたというわけです。まるで磁石に吸い寄せられた釘のようなものですよ」
「変な話ですねえ」
「変なことといえば、もっと変なことがあるんです」
「えっ、もっと変なことがあるんですか?」
 お巡りさんは驚いて、顔色を変えながら水兵さんの顔を見つめました。
「そうです。さらに変なことというのは、軍艦の帆柱(マスト)が――これは鋼鉄でできているんですよ。それが一部溶けて、飴のように曲がっているんです」

3

 遭難した軍艦の帆柱が、なぜか飴のように曲がっているという水兵さんの不思議な話を聞いて、一彦とミチ子が目を上げて沖を見ると、なるほどその通り、後部の帆柱が真ん中から飴の棒を曲げたようにぐにゃりと曲がっていました。
「風が吹いたわけでもないのに、ですねえ」
 とお巡りさんが水兵さんに話しかけると、
「じ、冗談じゃありませんよ、お巡りさん。あれは鋼鉄の柱ですから、風が吹いたくらいで曲がるものですか!」
「なるほど、それもそうですね。これはどうも、訳が分からないことになった」
 お巡りさんも、とうとう匙を投げてしまいました。そのうちに、空の一方から飛行機の爆音が聞こえてきたかと思うと、南の方から六つの機影がぐんぐんと近づいてきました。
「わあ、偵察機だ! 勇ましいなあ」
 一彦はもう大喜びです。
偵察機は三機ずつ二組の編隊を組んでいましたが、やがて傾いている軍艦「淡路」の真上までくると、ぐるぐると回り始めました。
機上から空中の写真を撮っているのでしょう。
それからしばらくすると、そのうちの二機は向きを変えて、どんどん引き返していきました。
あとには四機の偵察機が、ばらばらになって九十九里浜の上空を、いつまでもぶんぶんと飛び回っていました。
「ははあ、上空からこの辺り一帯を警戒しているんだな」
「兄さん、なんだか大変なことになってきたわね」
 ミチ子は目を丸くして、一彦の腕をしっかりとつかんでいました。
しかし、浜辺の騒ぎは、ほんの始まりに過ぎませんでした。
お昼ごろになると、どこから来たのか、駆逐艦や、変な形をした軍艦とも商船ともつかない船が、十隻ほども集まってきて、沖はたいそう賑やかになりました。

帆村探偵

1

 騒ぎはますます大きくなり、午後になると陸戦隊がボートに乗って浜辺に到着しました。
そして、ただちに警戒体制に入りました。
沖合には座礁した大戦艦「淡路」が傾いており、その周りには大小さまざまな軍艦がぐるりと取り囲んでいます。空には尻尾を赤く塗った海軍の偵察機が舞い、それを背景にして、浜辺では陸戦隊が銃剣をきらめかせて警戒をしているのです。
静かな漁村にすぎなかったこの海辺の村は、一夜のうちにすっかり姿を変え、まるで戦場のような騒ぎになってしまいました。
「やあ、一彦君にミチ子ちゃんじゃないか。どこに行ったのかと思って、おじさんは心配していたところだよ」
 そう言って、兄妹の肩を優しくたたく人がいました。
「あっ、帆村(ほむら)おじさんだ! おじさん、いつここへいらしたの?」
「ああおじさん、とうとうやって来たね! 僕、なんだかおじさんが来るような気がしていたよ」
「ああ、そうかいそうかい」
 おじさんはニコニコ顔です。
この兄妹のおじさんが誰だか、みなさんもご存じでしょうね。
あの有名な青年探偵、理学士の帆村荘六(ほむらそうろく)氏です。
「ねえ、おじさん。あの軍艦が座礁したり、マストが曲がったりしたことには、何か恐ろしい理由があるんだろう?」
 一彦が遠慮なく尋ねると、帆村探偵は口をきゅっと曲げて言いました。
「うん、それについて君たちの力を借りたいことがあるんだ。君たちは、向こうの丘の上に建っている塔について、何か知らないかな?」
 帆村ははるか向こうを指さしました。
「おじさん、塔って、どこにあるの?」

2

「どこって、あの塔のことさ。ここからだいぶ遠いから、君たちは気がつかなかったのかな?」
 帆村の指さす方を兄妹がよく見ると、なるほど丘の陰に一つの塔らしいものが見えます。
「おじさん、あれのこと?」
「そうそう。ちょうど軍艦『淡路』が座礁している場所の、真向かいになるだろう」
「おじさん、あの塔に何か怪しいことがあるの?」
「さあ、それは今は何とも言えない。そうだ一彦君、ここに双眼鏡があるから、これであの塔を見てごらん」
 帆村おじさんは、ポケットから妙な形の双眼鏡を取り出しました。
それは一見普通の双眼鏡に見えましたが、その先を立てると、まるでカタツムリが角を生やしたような形になります。
覗いてみると、小さいわりに倍率が高く、とてもはっきりと見えます。
「どうだね、塔がよく見えるだろう。誰か窓からこちらを見ていないか、よく気をつけて見てごらん」
 双眼鏡がとてもよく見えるので、一彦はただぼんやりと塔を見つめていましたが、おじさんに言われて、塔の横腹に三段になってついている窓を一つ一つ丁寧に見ていきました。
窓は手にとるようにはっきり見えました。
するとどうでしょう。一番上の窓に張ってある紫色のカーテンが、真ん中からそーっと左右に開くのが見えました。
「おや、塔の中に誰かいますよ!」
「なに、いるかい? 双眼鏡をこちらへ貸してごらん」
「ちょっと待って、おじさん!」
 一彦がなおもカーテンを見ていると、そのうちにカーテンの間から、あたりをはばかるようにして一つの顔が現れました。
その顔! その奇妙な顔!
「あっ、あの顔だ――」
 一彦はびっくりして、双眼鏡から目を離しました。
それは一体、誰の顔だったのでしょうか。

3

「あの顔って、どんな顔だ?」
 帆村は一彦の手から双眼鏡を取ると、すぐさま自分の目にあてて覗き込みました。
しかし帆村の目には、一彦が見た塔の上の怪人の顔は、もう映りませんでした。
「もう顔を引っ込めたらしい。一彦君、どんな顔を見たんだ?」
 探偵帆村荘六になりきって、おじさんは一彦を問い詰めました。

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