初級翻訳・恐竜島 第19話

恐竜島

すると二人は、岩の端から乗り出すようにして、夢中で恐竜の生態を映画に収めており、他のことには全く注意を払っていませんでした。
それも無理はありません。さっき一度目の撮影に大失敗し、その直後に突然目の前に現れたすばらしい恐竜洞の光景を捉えたのです。「今こそ絶好のチャンスだ、思う存分フィルムに収めよう」と、二人の映画人は撮影に夢中になっていたのです。
玉太郎は急に自分ひとりだけが取り残されたような気がして、おもしろくありませんでした。
彼は愛犬ポチのことを思い出しました。ポチを呼ぼうと口笛を吹こうとしましたが、その直前で思いとどまりました。恐竜は口笛が嫌いではなかったでしょうか。口笛を吹いて、せっかく大人しくしている恐竜を呼び寄せ、巨獣たちを怒らせては大変です。
口笛を吹くのをやめた代わりに、玉太郎は岩の先端から身を乗り出して、崖の下を覗き込みました。
下は険しい岩壁で、そこにもやはり海水がひたひたと打ち寄せていました。
「おや、あそこの岩に人が倒れている」
玉太郎は重大な発見をしました。その岩壁は真ん中あたりで少し段差になっていたのですが、その上に誰かが倒れていたのです。
「あ、ラツールさんだ。ラツールのおじさんだ! みんな、来てください!」
玉太郎は興奮しました。下を指さしながら彼は叫びました。その声は、洞窟の中に大きく響き渡りました。
四頭の恐竜が鎌首をもたげ、じろりとこちらを振り返りました。

撮影監督のケンもカメラマンのダビットも、撮影を中断してそばへとんできました。
「あそこです。崖の途中に人間が引っかかっているでしょう。あれがラツール記者なんです。やっとラツールさんの居場所がわかりました。早く救ってください。なんとかして命を助けてあげてください」
玉太郎は泣かんばかりに熱意を表情に表して、ケンやダビットに頼みました。きょとんとしている老伯爵にもお願いしました。
「よし、ロープを下ろして助けよう」
ケンもダビットも義侠心が強かったので、すぐに人命救助に取りかかりました。玉太郎はうれしくて胸がいっぱいになりました。
「これで間に合うかな」
「大丈夫、あそこまで届きますよ」
「届くのはわかっているが、このロープは少し古いからね。切れないかと心配なんだ」
「大丈夫でしょう、こんなに太いんですから」
ケン監督は大胆な中にも細かい注意を払う男でした。そのロープは撮影中にダビットを吊り下げるために途中で手に入れたものですが、少し古びていました。一人の体を支えるには大丈夫でしょうが、救助作業のときは二人一緒にこのロープへぶら下がる場合も予想されるので、その時のことをケンは心配したのです。ダビットの方は、そんなことを気にも留めていませんでした。
「ダビット、君が先へ降りてくれ」
「了解した」
ダビットはすぐにロープを自分の腰にぐるぐると巻きつけました。ケンはロープのもう一方の端を握り、伯爵と玉太郎に、それをしっかり握って後ろへ下がり、腰を落とすように命じました。
ケンは岩の端に立ち、ダビットが岩を越えてそろそろと下へ降りていくのを注意深く手伝いました。ダビットはこういう作業に慣れているようで、要領よく身軽に、静かにスルスルと下りていきました。ラツールが倒れている中段の岩までは、上から測って十四、五メートルありました。ダビットはついにそこへ降り立つことに成功しました。彼はさっそくラツールの体を調べ始めました。
「ダビット、どうだ! 生きているか? ケガをしているか?」
ケンは手をメガホンのようにして、下にいる同僚に尋ねました。
「……大丈夫だ、生きている。大したケガはない。しかし弱っている。何か注射でもしてやりたい。それから多分、水と食べ物が必要だ」
ダビットは下から報告してきました。玉太郎はラツールが生きていると聞いて、大変うれしくなりました。大したケガをしていないとは幸運です。たぶん彼は、長い間食べ物も何もとらずに弱り切っているのでしょう。
「やっぱり、ぼくが下りていかないとダメだな。それでは、いくぞ……」
ケン監督は注射薬とその道具を持っていたので、自分も下へ降りていく決心をしました。すると、上でロープを引っ張っている人数が二人になってしまったので、これでは力が足りないと考えたケンは、伯爵と玉太郎を促して、ロープの端を後方に突き出している手頃な岩に、ぐるぐると固く巻きつけました。
これならもう大丈夫です。

「わしが下りよう」
伯爵がケンを押し退けて言いました。
「とんでもない。ぼくが下ります。注射もしなくてはならないのです」
「いや、わしだって注射はできるぞ」
「まあまあ。ここで待っていてください」
「そうかね。それでは行って来たまえ。そして済んだらすぐ上がってくれ。下でぐずぐずしたり、余計なよそ見をするんじゃないよ」
「何を言うんですか、おじいちゃん」
そのとき、ケンは伯爵の真意を知らなかったので、笑い飛ばしてしまいました。

ケンはするするとロープを伝って下へ降りました。そしてダビットの手を借りて、ラツールの体に何本もの注射を打ちました。ラツールの顔に赤みが戻ってきました。心臓も力強く打ち始め、呼吸もしっかりしてきました。もう大丈夫だと思われました。

しかし、悲劇はやってくるのです。

ラツールはまだ一人で立つ力はありませんでした。ひどく衰弱していたのです。
「どうするかね、ケン」
と、ダビットは救った男の処置について相談しました。
「どうするのが一番いいかな」
二人はラツールのそばで協議を始めました。その間、ケンとダビットは煙草に火をつけ、相談しながら、物珍しげに下をじろじろと見回していました。
「おや、あれはなんだ。あの岩の上に、ぴかぴか光っているものがある」
ケン監督が指さしました。それは、さっき恐竜が這い上がっていた平らな岩の上でした。
「洞窟の宝物さ。金貨にダイヤモンドに、その他いろいろの高価な宝石……じゃないかな」
ダビットはおどけた調子で言いました。彼は冗談を言ったのです。
「叩くぞ。お伽噺じゃあるまいし。さあ、お伽噺より現実の方が大事だ。君はこのラツール君を背中に縛って、このロープを伝って上がれるかい?」
「オーケー。大いに自信がある」
ケンはぐったりとしたラツールをダビットの背中に縛り付けました。ダビットは上から垂れているロープにぶら下がりました。そしてぐっと胸を縮めて、ロープを登り始めました。

そのとき、崖の上で、気が変になった人のような声がしました。玉太郎の声です。
ケンは上を仰ぎ見ました。
「あっ、伯爵、何をするんです。早く退いてください!」
セキストン伯爵が、どういうつもりか、下へ垂れているロープを伝って降りようとしていたのです。ケンは驚きました。玉太郎も、あまりの突然のことに伯爵を止める暇がなかったようです。

悲劇は、次の瞬間にやってきました。
ぷつり!
ロープは、岩の角に擦れていたところから、もろくも切断してしまいました。
それぞれの悲鳴。
ケン監督がロープの下へ駆け寄り、両手を上へ突き出したのと、その腕の中へラツールとダビットの重い体がどさりと落ちてきたのは、ほとんど同時でした。三人は餅のように重なって岩の上に倒れました。

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