ねえ、みんな!
ぼくは今、大阪にいるんだ。だから、大阪であったおもしろい話をしてあげよう!
ずーっと昔のこと。大阪の町に、ある男の人が働きに来たんだ。
名前はね、残念ながら分からないんだ。
ただ、ごはんを炊くお手伝いさんとしてやってきた男の人だから、「権助(ごんすけ)」って呼ばれてた、ってことだけは伝わっているよ。
権助は、お仕事を紹介してくれるお店ののれんをくぐって、キセルをくわえているお店の番頭さんに、こうお願いしたんだ。
「番頭さん!
おれは仙人になりたいんだ!だから、仙人になれるようなところに住み込みで働かせてください!」
番頭さんは、びっくりしすぎて、しばらくは何も言えなかったよ。ポカーンとしちゃったんだね。
「番頭さん、聞こえてないんですか?おれは仙人になりたいんだから、そういう場所で働きたいんです!」
「えーと、それは本当に残念なんですがねぇ……」
番頭さんは、やっといつものようにタバコをプカプカ吸い始めたよ。
「うちのお店では、これまで一度も、仙人になるためのお仕事なんて紹介したことがないんですよ。だから、悪いけど他のお店に行ってくださいな。」
すると権助は、納得できない顔で、千草(ちぐさ)っていう植物の柄のズボンのひざを前に出しながら、こんな文句を言い出したんだ。
「それはちょっと話が違うんじゃないですか!
あんたのお店ののれんには、なんて書いてあると思ってるんですか?『よろず口入れ所』って書いてあるじゃないですか!『よろず』って言うんだから、どんなお仕事だって紹介するのが当たり前でしょう!
それとも、あんたのお店はのれんにウソを書いてるってことですか?」
なるほど、そう言われてみれば、権助が怒るのも無理はないね。
「いやいや、のれんにウソなんて書いていませんよ!
ええと、なんとか仙人になれるようなお仕事を探せとおっしゃるなら、明日また来てください。
今日のうちに、心当たりの場所を探しておきますから!」
番頭さんは、とりあえずその場をしのぐために、権助のお願いを引き受けたんだ。
でも、どこで働かせたら仙人になる修行ができるかなんて、もちろん番頭さんには分かるはずがないよね。
だから、とりあえず権助を帰らせると、番頭さんはさっそく近所のお医者さんのところへ出かけて行ったんだ。
そして権助のことを話してから、
「どうでしょう、先生?
仙人になる修行をするには、どこで働くのが一番の近道でしょうか?」って、心配そうな顔で尋ねたんだ。
これにはお医者さんも困っちゃったみたい。
しばらくの間、ぼんやり腕を組みながら、庭の松の木ばかり眺めていたよ。
でも、番頭さんの話を聞くと、すぐに横から口を出したのは、「古狐(ふるぎつね)」っていうあだ名がある、ずる賢いお医者さんの奥さんだったんだ。
「あら、それならうちにいらっしゃいよ。
うちで働けば、二、三年中には、きっと仙人にしてあげますからね!」
「え、そうなんですか!それは良いことを聞きました!
では、ぜひぜひお願いします!
どうも仙人とお医者さんって、どこか縁があるような気がしていましたよ!」
何も知らない番頭さんは、何度も頭を下げながら、大喜びで帰って行ったんだ。
お医者さんは苦い顔をしたまま、番頭さんの後ろ姿を見送っていたけれど、やがて奥さんの方を向いて、
「お前はなんてバカなことを言うんだ!もしあの田舎者が、何年いても仙術を教えてくれない、なんて文句を言い出したら、どうするつもりなんだい?」って、嫌そうな顔で小言を言ったんだ。
でも奥さんは、謝るどころか、鼻の先で「ふふん」と笑いながら、
「まあ、あなたは黙ってなさいよ。
あなたみたいにバカ正直じゃ、この大変な世の中で、ご飯を食べることもできやしないんだから!」って、逆に医者さんを言い負かしちゃったんだ。
さて、次の日になると、約束通り、田舎者の権助は番頭さんと一緒にやってきたよ。
今日はさすがに権助も、初めての人に会うからって思ったのか、家紋のついた羽織を着ていたんだけど、見た目はただの農家の人とぜんぜん変わらない様子だったんだ。
それがかえって意外だったんだろうね。
お医者さんは、まるで遠いインドから来た珍しい動物(ジャコウジカ)でも見るみたいに、じろじろと権助の顔を眺めながら、
「お前は仙人になりたいらしいが、いったいどういう理由で、そんなことを思いついたんだい?」って、不思議そうな顔で尋ねたんだ。
すると権助が答えたよ。
「これと言って特別な理由はないんですが、ただあの大阪のお城を見たときに、豊臣秀吉(とよとみひでよし)様みたいにえらい人でも、いつかは死んでしまう。
そう考えると、人間っていうのは、どんなにぜいたくに暮らして、りっぱな生活を送っても、むなしいものだなって思ったんです。」
「じゃあ、仙人になれるなら、どんなお仕事でもするってことだね?」
ずる賢いお医者さんの奥さんは、すかさず口を挟んだよ。
「はい!
仙人になれるなら、どんなお仕事でもします!」
「よし!それなら今日から私のところで、二十年間働きなさい。
そうすれば、きっと二十年たったときに、仙人になるためのやり方を教えてあげましょう!」
「え、そうなんですか!それはもう、本当にありがとうございます!」
「でもその代わり、これから二十年の間は、お給料は一円もあげませんからね。」
「はい!
はい!
分かりました!」
それから権助は、二十年もの間、そのお医者さんの家でこき使われることになったんだ。
水をくんだり。
たきぎを割ったり。
ごはんを炊いたり。
床を拭いたり。
おまけに、お医者さんが外へ出るときは、薬箱を背負ってついて行ったりもしたんだ。それに、給料は一円ももらったことがないんだから、こんなに助かる働き手は、日本中探してもいないだろうね。
でも、ついに二十年が経つと、権助は最初に来た時と同じように、家紋のついた羽織をはおって、主人夫婦の前に現れたんだ。
そして、丁重に二十年間お世話になったお礼を言ったんだ。
「つきましては、約束通り、今日こそ私にも、死なずにずっと生きられる仙人になるための術を教えていただきたいのですが。」
権助にそう言われると、困ってしまったのが医者のおじさんだ。
なにしろ一円も給料を払わずに、二十年間もこき使った後だから、今さら仙術なんて知りません、とは言えない義理だったんだ。
医者のおじさんは、仕方なく、
「仙人になる術を知っているのは、うちのかみさんだから、かみさんに教えてもらうといい。」
と、そっけなく顔をそむけてしまったんだ。
でも、奥さんは平気なものだった。
「では、仙術を教えてあげるから、その代わりどんなに難しいことでも、私の言う通りにするのよ。
さもないと、仙人になれないばかりか、また次の二十年間、給料なしで働かないと、すぐに罰が当たって死んでしまうからね。」
「はい!どんなに難しいことでも、きっとやり遂げてみせます!」
権助は、うれしくてたまらない様子で、奥さんからの指示を待っていたんだ。
「それでは、あの庭の松に登って。」
奥さんはこう言いつけたんだ。
コメント