初級翻訳・地底獣国 第11話

久生 十蘭

朱色、白、赤茶色、紫黒色と、さまざまな色の溶岩が重なり合い、瑪瑙(メノウ)のような美しい縞模様を見せています。その底を、重油の流れのような黒い川が、のたりと動いていました。
安全灯の光の当たり具合で、その川は紫がかった紺青になったり、深い藍色になったり、あるいは真っ黒な紺色にと、目を見張るほどに変化します。
プランクトンがいないため、水はガラスのように透き通っており、五十フィートほどもある深い川底で、珊瑚のような形をした溶岩の塊が、青い琅玕(ろうかん)色をしてすくすくと真っ直ぐ立っているのがはっきりと見えました。

一行六人は、篁(たかむら)を先頭にして、帯のように細長い岩の廊下を黙々と進んでいきました。
流れは何度も曲がりくねっているため、三十フィート(約九メートル)先を見ることもできません。
「このまま行き止まりになってしまうのではないか」という不安が、絶えず一同を締め付けます。
そうしているうちに、次第に天井が低くなってきました。流れが大きくカーブしたと思うと、行く手にぼんやりと明るい洞窟の出口が見え始めました。

そこには、異様な風景が広がっていました。
それは、広々とした沼でした。
まるでこの世が始まったばかりの混沌のような、褐色の泥に取り囲まれた、沈鬱な沼です。
見渡す限り、草らしいものは一本もありません。ただ一本、貝殻でできあがったような不思議な幹をもつ、ソテツに似た木が、二十フィート(約六メートル)ほどの高さで沼の岸に真っ直ぐ立っていました。

捉えどころのない乳白色の霧が、ぼんやりと沼の上を覆っています。
ここは地上の空ではありません。
地底の国の、霞(かす)んだ天蓋(てんがい)です。
想像もつかないほど高い地殻の裏側が、ここでは曇り空のような曖昧な空を作り出していたのです。

沈み込むような灰色の死の沼。
悲しいほどに混沌とした泥の洲(す)。
その岸辺に立つ孤独なソテツの木。
洞窟や古い沼、孤島や断崖といった奇妙で悲壮な風景を描く画家サルヴァトル・ローザでさえ、これほどまでに悲しみに満ちた風景は描けなかったことでしょう。
一目見るだけで、底知れぬ憂鬱な気持ちにとらわれてしまうような、痛ましい風景でした。

博士と五人の漁師たちは、沼の岸に腰を下ろして少し休憩をとりました。
磁石の針が示すところでは、この岸に沿って進んでいけばいいようでした。
この三十五日間、ずっと変わることのない一同の食料である乾パンと燻製のニシンを取り出し、単調な朝食を始めました。
みんなの顔には疲れの色が濃く表れていましたが、それでも気力は十分でした。

その時、突然、六人の頭上で金属がこすれ合うような「キーッ、キーッ」という鋭い鳴き声が聞こえました。頭に三角形のトサカがあり、リュウゼツランの葉のようにヒョロリと長い、不思議な翼を持った灰褐色の鳥が、糸の切れた凧のように沼の上へ真っ逆さまに落ちてきました。水面すれすれのところで、サメのような鋭い歯が並んだクチバシを開き、もう一度「キーッ」と鳴くと、ギクシャクと電光のようなジグザグの軌跡を描きながら、また空へと舞い上がっていったのです。

翼手竜(よくしゅりゅう)!
一千万年前、剣竜や雷竜といった巨大な恐竜が世界を支配していた頃、中生代の空を我が物顔で飛び回っていた、あの翼手竜です!

ところが、続いてまた別の奴がやって来ました。
濡れた布を強く振るような「ハタハタ」という音が高いところで聞こえ、コウモリにウの顎をくっつけたような怪異な形をした真っ黒な影が、大きな煤(すす)でも落ちてくるようにヒラヒラと舞い降りてきて、ソテツの枝にぶらりとぶら下がりました。
それは、コウモリ竜でした!

……その頃、地球には「テチス」という大きな海を隔てて、南に「アンガラ」、北に「ゴンドワナ」という二つの大陸があるだけでした。
三畳紀(さんじょうき)の終わり頃から少しずつ火山活動が始まり、白亜紀(はくあき)の末期になると、天地をひっくり返すような天変地異がやってきました。
絶え間ない大地震と大噴火。
ものすごい地盤の昇降。
陥没と隆起。
巨大な津波。
大海進。
大陸が一夜のうちに海になり、海の中から突然、新しい大陸が現れる。
地殻の大変動と大変貌。
そして、地球上を支配していた巨大な爬虫類から、海の中に棲む貝類に至るまで、一つ残らずことごとく絶滅してしまいました。
その後に天地創造が再び繰り返され、新しい世界、すなわち「新生代」が始まったのです。それから、もう九百万年もの時が流れたというのに! ……その飛竜たちが、いまだに生き残り、こんな場所で飛び回っているなんて。
……想像することも、空想することさえできないような驚きの事実でした。目の前で起きているのに、これが現実だとはどうしても信じられません。
博士は、めまいがするようなぼうぜんとした状態の中で、意識がかすんでいくのを感じていました。すると、沼の真ん中あたりが急にザワザワと波立ち、白い水しぶきが虹のように空高く立ちのぼったかと思うと、激しい噴き流しの間から、まるで大木の幹のようなものがヌーッと現れました。
一目見たとき、それは大きな海蛇のように見えました。
キラキラと光る目をした大蛇のようなものは、みるみるうちにスルスルと二十フィート(約六メートル)も伸び上がり、しばらくの間、水面から二、三尺(約六十〜九十センチ)ほどのところでクネクネと動き回っていました。しかし、そのうちに今度は、中洲のようになった浅瀬の上へ、濃い灰色の、小山のような巨大な塊が、ドサリと音を立ててのし上がってきたのです。

「おーッ!」
 という驚きの叫びが、思わず一同の口から飛び出しました。
なんという怪物でしょう!
 それは、大蛇のように長い首を持った、象の五十倍はありそうな巨大な四足獣でした。
沼の上を這いまわっている首の長さだけでも三十フィート(約九メートル)以上あります。
背中はソテツの二倍ほどの高さのところにあり、その後ろには、大人が両手で抱えても余るほど太い尾が、長々と四十フィート(約十二メートル)も引きずられていました。
まるで沼の底が盛り上がって、灰色の島が突然押し上げられたのではないかと思うような、言葉では言い表せないほど壮大な光景でした。

博士は長いあいだ、ぼう然として目を見開いていましたが、やがて突然、
「ブロントサウルスだ!」
 と叫びました。
地球が生んだ最も巨大な動物とされる、ジュラ紀の巨大な爬虫類。
雷竜(かみなりりゅう)!
 太古の時代とともに完全に絶滅したはずの雷竜が、ほんの少しの沼の水を隔てたすぐ目の前の浅瀬で、丘がゆらぐようにのそのそと動き回っているのです。
博士と五人の漁師たちは、中生代の沼のほとりに立ち尽くし、今まさに自分の目で一千万年前の巨大爬虫類の姿を目撃しています! ありえないほど奇跡的で、信じがたい境遇でした。
ジュラ紀の世界! 黙示録の中で詩的な名前で語られた「地底の獣国」へ、私たちは知らず知らずのうちに迷い込んでいたのです!

博士は、うっとりとした眼差しでこの巨獣を眺めつくすと、何とも言えない深い溜息をつきながらソテツのそばまで歩いて行き、その幹に手のひらを触れました。

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