全部、出まかせのたわ言でございます!」
すると厨子王も言いました。
「姉えさんの言う通りです。
いつでも二人で、そんな『できないこと』ばかり口にして、父母が恋しい気持ちをごまかしているだけなのです」
三郎は二人の顔をじっと見比べ、しばらくの間黙り込んでいました。
「ふん。
冗談なら冗談でもいい。
お前たちが二人でどんな話をしていたか、この耳でしっかり聞いてやったぞ」
そう言い残すと、三郎は小屋から出て行きました。
その晩、二人は気味の悪さと不安に震えながら眠りにつきました。
どれくらい時間が経ったでしょうか。
二人はふと物音で目を覚ましました。
今の小屋に移ってからは、夜間に明かりを灯すことが許されていました。
そのかすかな明かりの中で目を凝らすと、なんと枕元に三郎が立っていたのです。三郎は、さっと近寄ると、二人の手をつかみました。
そして二人を引きずるようにして戸口の外へ連れ出します。
青白く光る月を見上げながら、二人は初めてこの屋敷へ連れてこられたときに通った、広い馬道を引っ張られていきました。
階段を三段登ります。
長い廊下を通ります。
あちこち曲がりくねって、あのとき見た広い大広間に入りました。
そこには大勢の人が黙ってずらりと並んでいます。
三郎は二人を、炭火が真っ赤に燃え盛っている炉の前まで引きずっていきました。
二人は、小屋から引き立てられるときから「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣き叫んでいましたが、三郎が何も言わずにどんどん引っ張っていくので、しまいには声も出なくなり、二人とも黙り込んでしまいました。
炉の向こう側には、お座布団が三枚重ねて敷かれ、そこに山椒大夫がどっしりと座っています。
大夫の真っ赤な顔は、座敷の左右に焚かれた松明(たいまつ)の光を照らし返し、まるで燃えているかのように不気味でした。
三郎は真っ赤に燃える炭の中から、熱く焼けた鉄の棒を抜き出しました。
それを手に持って、しばらくじっと見つめています。
最初は透き通るように真っ赤だった鉄が、だんだんと黒ずんできました。
そこで三郎は、安寿を引き寄せて、その焼けた鉄を顔に押し当てようとしました。
厨子王は必死になって三郎の腕にしがみつきました。
しかし三郎は厨子王を蹴り倒し、自分の右膝で押さえつけました。
そしてついに、真っ赤な鉄を安寿の額に十文字の形に押し付けたのです。
一座の静けさを破って、安寿のたまらない悲鳴が響き渡りました。
三郎は安寿を突き飛ばすと、足元で暴れる厨子王を引き起こし、その額にも同じように鉄を十文字に押し当てました。
新しく響き渡る厨子王の泣き声が、先ほどより少し小さくなった姉の声と混ざり合います。
三郎は鉄を投げ捨てると、最初に二人をこの広間へ連れてきたときと同じように、再び二人の手をつかみました。
そして一座を見回してから、広い母屋を通って、二人をあの三段の階段のところまで引きずり出し、凍った地面の上へと突き落としたのです。
二人の子どもは、傷の痛みと心の恐怖で気を失いそうになりながらも、必死にこらえて、どこをどう歩いてきたのかも分からないまま、三の木戸の小さな小屋へと戻ってきました。
寝床の上に倒れ込んだ二人は、しばらく死骸のようにピクリとも動きませんでしたが、突然、厨子王が「姉えさん、早くお地蔵様を!」と叫びました。
安寿はすぐに起き上がり、着物の胸元から守り袋を取り出しました。
震える手で紐を解き、袋から小さな仏像を取り出して枕元に安置しました。
二人は仏様の左右にひれ伏しました。
その瞬間、歯をくいしばってもがまんできなかった額の激しい痛みが、まるで嘘のようにスーッと消えていきました手のひらで額をそっと撫でてみると、傷跡はきれいに消え去っていたのです。
はっとして、二人は目を覚ましました。
二人の子どもは起き上がると、それぞれが見た夢の話をしました。
なんと、まったく同じ夢を、同じ時刻に見ていたのです。
安寿は守り本尊を取り出し、夢の中で安置したのと同じように、そっと枕元に置きました。
二人はそれに伏して手を合わせ、わずかな灯火の明かりにかざしながら、地蔵尊の額を見つめました。
仏様の額にある白毫(ほっこう/眉間にある白い毛のしるし)の左右に、のみで彫ったような十文字の傷が、くっきりと残っていたのでした。
――――――――――――
二人の子どもが三郎に話を立ち聞きされ、あの晩に恐ろしい夢を見てからというもの、安寿の様子がすっかり変わってしまいました。
顔にはきゅっと引き締まったような緊張感があり、眉のあたりにはいつもシワが寄り、目ははるか遠くを見つめているのです。
そして、あまり話さなくなりました。
日暮れに浜辺から帰ってくると、これまでは弟が山から戻ってくるのを待ち構えて、たくさんおしゃべりをしたものなのに、今はそんなときでも言葉数がとても少ないのです。
厨子王が心配して「姉えさん、どうしたの?」と尋ねると、「何でもないよ、大丈夫よ」と言って、わざとらしく笑ってみせるのでした。
以前の安寿と変わったところといえばこれだけで、言っていることがおかしかったり、日頃の行いが変わったりしたわけではありません。
しかし厨子王は、これまでお互いに慰め合い、支え合ってきたたった一人の姉の様子が変わっていくのを見て、胸が引き裂かれるようにつらく感じるのに、それを誰にも打ち明けることができないのでした。
二人の子どもの暮らしは、以前よりもさらに寂しくなってしまったのです。
雪が降ったり止んだりしながら、いよいよ一年が暮れようとしていました。
男の奴隷も女の奴隷も外での作業を休み、家の中で働くことになりました。
安寿は糸を紡ぎます。
厨子王は藁(わら)を叩いて柔らかくします。
藁を叩くのは特別な技術はいりませんが、糸を紡ぐのはとても難しい仕事です。
夜になると、伊勢の小萩がやってきて、糸紡ぎを手伝ったり、やり方を教えたりしてくれました。
安寿は、弟に対する態度が変わっただけでなく、小萩に対しても言葉数が少なくなり、時々不愛想な態度をとることがありました。
しかし小萩は機嫌を損ねることもなく、まるで労わるように優しくつきあってくれました。
山椒大夫の屋敷の木戸にも、門松が立てられました。
しかし、ここのお正月は何の晴れがましいこともなく、また大夫の家族の女性たちは奥深く暮らしていて表に出てくることがめったにないため、お祭りムードで賑わうこともありません。
ただ、身分の高い者も低い者も酒を飲み、奴隷たちの小屋で喧嘩が起きるだけでした。
普段なら喧嘩をすると厳しく罰せられるのですが、お正月の時期は大目に見られることになっていました。
血を流しても知らんぷりをされることがあり、ひどいときには、殺された人が出てもそのまま放置されるほどでした。
そんな寂しい三の木戸の小屋へも、時々小萩が遊びにやってきました。
女奴隷たちの小屋の賑やかさをそのまま持ってきたかのように、小萩がおしゃべりしている間は、薄暗くて陰気な小屋にもパッと春が来たような明るさが広がり、このごろすっかり様子が変わっていた安寿の顔にさえ、普段はめったに見られない微笑みの影が浮かぶのでした。
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