初級翻訳・怪塔王 第29話

怪塔王

一体、何を思いついたのでしょうか。とにかく怪塔王は、恐ろしいことに、いろいろと強力な武器を隠し持っています。
対するはこちら、小浜兵曹長と青江三空曹の二勇士。
愛機は先ほどお話しした通り、麻縄でロケットにつながれたまま、ぐいぐいと引っ張られています。エンジンはもう止めてあります。操縦席の青江三空曹は、舵を操作することだけに全神経を集中させていました。

「おい、青江。うまくついていってるな」
と小浜兵曹長が声をかけました。
「はい。エンジンを動かさなくていいのでガソリンの節約になりますし、なかなか悪くありません」
「はっはっは、ガソリン節約とは、お国のためというやつだな。しかし、怪塔ロケットもすっかりおとなしくなったものだ」
「ええ、おとなしくなりました。ですが、あれでスピードを出すと真っ直ぐには飛べないのですよ。ご存知の通りロケットの舵が壊れているうえに、こちらの麻縄が舵の上から押さえつけていますから。スピードは出せても、思うような方向へは飛べないのです。つまり、どこへ向かっているのかさっぱりわからないというわけです」
「うむ、本当にどこへ行くのやら見当もつかん。高度は今一万メートルだが、一体何県の上空にいるのか、下が見えないからさっぱりわからんわい」

3

怪塔ロケットにつながれ、一万メートルの上空を滑走していく青江機の中では、小浜・青江の二勇士が顔色一つ変えずにのんきな会話を続けています。
「上官、まったくいい気分ですね。第一、エンジンを動かさなくていいから燃料はいりませんし、そのうえエンジン音もプロペラの音もしないから静かでいい。ただうるさいのは、あの怪塔ロケットが放出するガスの音だけですが」
「うむ、ガスの音も勘弁だが、ガスの臭いも嫌だな。プロペラが回らなくなったので、あの悪臭が頭の上から遠慮なく降りてくる」
「それでは毒ガスマスクを被りましょうか?」
「いや、それほどのことでもあるまい。ロケットのお尻の方に回ったのがこちらの不運だ。いや、今に慣れれば楽になるよ」
「私は、ガスの悪臭をそれほど苦に感じません」
「ほう、それほど感じないとは、貴様にしては感心だな。俺は相当つらいぞ」
「いや、それほど私を褒めていただかなくともいいのです」
「貴様、今日はひどく謙遜するね」
「どうも恐れ入ります。実は昨日から風邪をひいておりますので、鼻が利かないのであります」
「なんだって、風邪をひいていて鼻が利かないだと? わっはっはっ、なるほどそれなら、臭いものを嗅いでも平気なはずだ。わっはっはっ」
「えへへへへへ」
と、青江三空曹は少し決まり悪そうに笑いました。
その時、怪塔王の顔が再び窓から現れました。青江機の方をじろりと睨みつけると、
「うふふふ。さあ日本の水兵め、神の名でも唱えるがいい」

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怪塔王はロケットの窓から首を出し、下の青江機を睨みつけて「神の名でも唱えるがいい」と気味の悪いことを言いましたが、一体何を始めようというのでしょうか。
「おや、また怪塔王が窓から顔を出しているぞ」
「あっ、何か手に持っていますぞ」
小浜・青江の二勇士が互いに叫び合ううちに、怪塔王は半身を窓から乗り出し、見る間に隠し持っていた怪しい機械をぴったりと自分の胸に当てて身構えました。
「あっ、あんなものを出しやがった。あれは何だろう」
「さあ、ベルクマン銃に似ていますが、ベルクマン銃が三つ集まったくらい複雑な武器ですね」
「そうだ、武器に違いない。どうするつもりだろうか。ともかく戦闘準備だ。油断するなよ」
怪塔王はその怪しい武器を胸につけて身構えると、照準をロケットの後ろの方に向けました。
やがて奇妙な音が響くと、その怪しい武器の銃口と思われる場所から、太いうす紫色の光がさっと飛び出しました。
うす紫色の光線!
あれは何だろうと思っているうちに、この光線はしきりにロケットの後ろの方をなで回しています。光線がロケットの外壁に当たると、そこから黄色いような赤いような強い炎がぱっと上がりました。
「おお、あれが磁力砲なんだろう。俺は初めて見たぞ」
と、小浜兵曹長は望遠鏡から目を離そうともしません。
恐るべき磁力砲の威力!
それは今、うす紫の光線を吐きながら、金属をめらめらと溶かしていきます。

5

怪塔王がいよいよ磁力砲を使い始めました。
空を飛ぶ怪塔ロケットの窓から半身を乗り出し、しきりに妙な機械を下へ向けています。怪塔のお尻の方が、赤黄色い炎を上げてめらめらと溶けかかっています。小浜兵曹長と青江三空曹とは、この光景を瞬きもせずじっと見つめています。
「おお、あれだ!」たしかにあの武器だ。金属にかけると、めらめらと炎を上げて溶かしてしまうという恐ろしい武器だ。あれこそ、怪塔王が一番大事にしている切り札なんだ。

「あっ、あの通りだ。怪塔ロケットの壁がとろとろと溶けていく。おい青江、あれを見てみろ」

「上官、私は初めて見ました。あれが噂に高い磁力砲なのですか。しかし怪塔王は、自分の乗っているロケットの壁を溶かして、一体何をしようというのでしょう」

まったく、変なことをやる怪塔王だ。磁力砲はしきりにうす紫色の怪しい光線を打ち出している。

「うん、あれはね、怪塔王のやつ、こっちが麻縄で引っ掛けておいた錨(いかり)を狙っているのだよ。つまりあの錨を溶かせば、麻縄が外れると思ってやっているのさ」

「ああ、錨を溶かすつもりなのですか。錨よりも、麻縄を切ればいいのに。怪塔王も考えが足りませんね。あっはっはっ」

と、青江三空曹が笑いました。しかし、それは彼の思い違いでした。

「そうじゃないよ。青江、磁力砲には金属を溶かす力はあるが、金属でないものにはそれほど効果が及ばないのだ。だから、あのうす紫の光線は、鉄板を溶かせても麻縄までは溶かせない。怪塔王が麻縄を狙わないで錨を狙っている理由が、これでよくわかるだろう」

青江三空曹は「ははん、そんなものですか」と、感心したりびっくりしたりしていました。

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怪塔王は磁力砲をさかんに振り回しています。怪塔ロケットのお尻のあたりがめらめらと溶けていきますが、肝心の錨はなかなか溶けません。

「やれやれ、怪塔王のやつ、手が震えていてうまく錨に当たらないのだな」

と、小浜兵曹長が面白そうに笑いました。

「どうです上官、機関銃を浴びせてみましょうか」

「うん、機関銃の弾丸はうまくとどくまいよ。磁力砲が弾丸をはじき返すだろうからな」

「しかし、怪塔王が磁力砲をひねくり回しているのを、こっちはじっと手をこまねいて見ているのはたまりませんね」

「そうではない。俺はさっきから、本隊へしきりに通信しているんだ。怪塔王がいま磁力砲を操っているのが見えますと報告したら、司令は喜ばれて『もっとよく見て、詳しく知らせろ』と言われるのだ。当分じっとしていて、怪塔王のすることを見ていることにしよう」

「ああそうですか、本隊では磁力砲の話を喜んでいますか。だが、じっとしているのはつらい。もっと手が長かったら、怪塔王のあのにくい顔を下からガーンと突き上げてやりたいものですがねえ」

青江三空曹は、磁力砲で錨が焼かれるのをただ見ているのが、大変つらそうでした。

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