初級翻訳・怪塔王 第30話

怪塔王

「おや上官、麻縄がぷすぷすくすぶり出しましたぞ」

「なんだ、麻縄がとうとう燃え出したか」

怪塔ロケットの金属壁がとろとろ溶けているくらいですから、そのあたりの温度は大変高くなっており、やがて麻縄がぷすぷすと煙を上げ始めたのです。これはいけないと見守っているうちに、ついに麻縄は赤い炎を上げてめらめらと燃え出しました。

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さあ大変です。怪塔ロケットと青江機とをつなぐ麻縄がめらめらと燃え出したものですから、一大事です。小浜兵曹長は本隊司令へ無電報告をするため電鍵を叩き続けていましたが、このありさまを見て言いました。

「うむ、やっぱり燃え出したか。怪塔ロケットは、こっちの飛行機を切り離して逃げていく気だぞ。もういけない。おい青江、エンジンをかけろ。大急ぎだ!」

と、再びエンジンをかけて飛行の用意を命じました。

「はい、エンジンをかけます!」

青江三空曹はすぐさまその命令を繰り返し、発火装置を回しました。すると、再びばくばくとエンジンの音が聞こえだし、機体がぐっと浮き上がってまいりました。

「おい青江、麻縄はいよいよ切れそうだぞ。用意はいいか」

「は、はい。もう大丈夫、飛べます!」

と言っているとき、今まで怪塔の舵の上を縛っている麻縄や、錨の方ばかりに気を配っていた怪塔王が、このとき身構えをやり直して青江機の方に振り向きました。

「おや、上官。怪塔王がこっちを向きました」

「うん、俺も見ている。あの磁力砲でこっちを撃つ気かな」

と言っているとき、果たして怪塔王は磁力砲を二人の方へ向けました。そして、それ見たことかと言わんばかりに、大口を開けて憎々しげに嘲笑うではありませんか。せっかく頑張ってここまで怪塔ロケットについて来た青江機も、いよいよお陀仏になる時が来たかのようでありました。

もちろん二勇士の心の中には、潔く死ぬ決心がついていましたから、遅れは取りません。とはいえ、ここでいよいよ飛行機を怪力線で焼かれるとは、悔しいことです。空中の離れ業

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怪塔ロケットと青江機をつないでいる麻縄は、今や赤い炎に包まれて、めらめらと燃え出しました。
いくら丈夫な麻縄でも、こうなっては間もなく燃え尽きてしまうのは明らかです。
麻縄が切れてしまえば、せっかく追いすがることのできた怪塔ロケットと、またお別れになってしまいます。
今度離れてしまったら、その次はそう簡単に怪塔ロケットに追いつくことはできないでしょう。
「ううむ、残念だ。
麻縄が燃え尽きるのを、こうして手をこまねいて見ているなんて、なさけないことだなあ」
 と、小浜兵曹長は歯ぎしりをして、悔しがっています。
「小浜兵曹長」
 青江三空曹が呼びかけました。
「なんだ、青江」
「ぜひお許し願いたいことがあります」
「なんだ、何を許せというんだ」
「それは、つまり――あの麻縄を伝って、怪塔ロケットの中へ飛び込もうというのです」
「ええっ、なんだって。
麻縄を伝っていって、あの怪塔を拿捕(だほ)するというのか。
貴様、えらいことを考え出したな、ううむ」
 さすがの勇猛な兵曹長も、若い青江三空曹が考え出した驚くべき怪塔占領の計画にはびっくりして、ううむとうなりました。
「よし、では青江。
綱渡りをやってよろしい」
「おお、お許しが出ましたか。
私は嬉しいです」
「うん、大胆にやれ。焦ってはいかん」
「麻縄はさかんに燃え出しました。
では、すぐ綱に取り付いて登ります」
 若武者・青江三空曹は、ベルトを外すと、席を飛び出しました。
そしてあっという間もなく、青江機と怪塔ロケットをつなぐ麻縄に、ひらりと飛びつきました。

2

 青江三空曹の、空中の冒険が始まりました。
綱にぶら下がって渡るのは大得意でしたが、なにしろ空中を猛烈なスピードで飛んでいる綱を伝うのですから、なまやさしいことではありません。
ともすればひどい風の力で、体は吹き飛ばされそうになります。
「青江、しっかりやれ」
 小浜兵曹長は、偵察席の上から腕を振り上げて、青江を励ましました。
青江三空曹は、それに対して、かすかに頭を振って上官へ挨拶をしました。
二メートル、三メートルと、青江の体は少しずつ向こうへ動いていきます。
小浜兵曹長は、この勇ましい若武者の働きをすぐさま本隊宛てに、無線で報告いたしました。
すると折り返して本隊から、
「わが帝国海軍戦史の新たな一ページは、青江三空曹のこのたびの壮挙により、華々しく飾られたり」
 と、光栄に満ちた感状の無線が届きました。
これを受け取って、小浜兵曹長は、自分のことのように喜び、
「おい青江、司令官から感状だ!」
 と叫びましたが、夢中で綱を渡っている青江三空曹には、聞こえた様子もないのは残念なことでした。
それと続いて本隊からは、新手の攻撃機隊がいま現場に向かって急行中であるから、ここしばらく頑張るようにと知らせてきました。
小浜兵曹長は、本隊への連絡を、まず立派に成し遂げたわけです。
そのとき彼は、急に気がついて、怪塔王のその後の様子はどうであろうかと目を上げてみますと、さあ大変です。
窓から半身を乗り出して、手にもった磁力砲の砲口を、しきりに青江三空曹の方に向けているではありませんか。
あっ、危ない!

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 怪塔王は、窓から磁力砲を向けて、しきりに青江三空曹の体を狙っています。
うす紫色の光線が、空間をツーッと走りますと、そのたびに、光線の通り道に当たった怪塔の鉄壁から、パチパチと火花が散ります。
怪塔王の手元に狂いがあるのか、幸いに今のところ、青江三空曹の体には当たらず、彼は元気いっぱいで綱を渡っていくのが見えました。
「おお青江、頑張れ!」
 小浜兵曹長は、思わず拳を握って、振り回しました。
しかし、様子を見ていますと、今のところはまあ無事にいきましたが、これから怪塔に近づくにつれて、危険はいよいよ急に増えてまいります。
果たして、青江三空曹はこの空中の大冒険、ロケット・飛行機間の綱渡りをやり遂げるでしょうか。
麻縄は、ますます燃え上がります。
やがて焼け落ちるのが、目の前に見えているようです。
そのとき、目を青江の方に向け直した小浜兵曹長は、アッと叫びました。
「あっ、火がついた。
青江の体に、火がついた」
 さあ一大事です。
今の今までなんともなかった青江三空曹の腰のあたりから、白煙が吹き出しています。
それに気がついたか、青江は綱にぶら下がったまま、しきりに腰を振っています。
ズボンが燃え出し、それで体が熱くてたまらなくなったのでしょう。
「これはいかん」
 小浜兵曹長の眉が、苦しそうに八の字に寄りました。部下の命が危ないのを目の当たりにするのは、本当につらいことでした。
「そうか、青江は腰のあたりに、ナイフか何か、鉄でできたものをぶら下げていたんだろう。そこへ怪力線が当たって、鉄が真っ赤になって溶け出したものだから、服に火が燃え移ったんだな。これは困った。放っておけば、あいつは焼け死んでしまう」

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偵察機と怪塔ロケットをつなぐ一本の麻縄にぶら下がり、怪塔へとじりじりと近づいていく勇敢な青江三空曹。

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