小浜兵曹長は、やっと腰をのばして、やれやれと背のびをしました。
かなり広い洞穴です。
じめじめしているのは、やはり海近いことをものがたっているのだと思われました。
帆村は先に立って、岩をしきりに押しています。
3
帆村は、しきりに岩を押していましたが、そのうちに、ぽっかり穴があきました。
とたんに、黄いろい光がすうっとはいってきました。
「小浜さん。
ここが海底牢獄の秘密の出入口なのです。
さあここから出ていきましょう」
「やあ、まるで冒険小説をよんでいるような気がするなあ。
さあ、君のいくところへなら、どこへでもついていくよ」
「ええ、あまり大きな声をしないで、ついてきてください」
二人は秘密の出入口を出ました。
外は明かるいお月夜でありました。
くもりない濃い紺色の夜空には、銀のお盆のように光ったまんまるい月があがっていました。
「ああ、いい月だ。
白骨島にも、こんなにうつくしい月が、光をなげかけるのかなあ」
今までは、どこまでも強いばかりの小浜兵曹長だとばかり思っていましたのに、彼は月をみてこんなやさしいことをいいました。
本当の勇士は、強いばかりではなく、また一面には、このようにやさしい気持をもっているものです。
帆村の方は、そんなゆっくりした気持になれません。
もしこんなことをしていることを怪塔王や見張番にみつかっては、それっきりです。
ですから、兵曹長をはやくはやくとせきたてて、すぐ前を走っている塹壕のような凹んだ道を、先にたってかけだしました。
「どこへいくのかね」
小浜兵曹長も、おくれてはならぬと帆村のあとを追って、どんどんついていきました。
凹んだ道は、かなり曲り曲って、小高い丘の方へつづいていましたが、そこをのぼりきったところに、小さい煉瓦建の番小屋のようなものがありました。
「さあ、ここへはいってください」
帆村にせきたてられて、兵曹長が中にはいってみますと、室内は四畳半ぐらいのひろさで、中には藁が山のように積んでありました。
見張小屋の朝
1
小さい煉瓦建の番小屋――その中に山のように積んである藁!
「ああ、これはなかなかいい寝床がある」
小浜兵曹長は、子供のように無邪気に藁の山へかけあがりました。
このとき帆村は、
「では、小浜さん。
だいぶん時間がたちましたから、私は怪塔ロケットへ一たん戻ります。
今夜ふけてから、あらためてもう一度まいります。
それまで、ここにかくれていてください」
「すぐ訊きたいこともあるんだが、あとからにするか。
ではきっと、後から来てくれたまえよ、いいかね」
小浜兵曹長は、帆村をかえしたくはなかったけれど、やむをえず、かえしました。
そのあとで、彼は藁の上に大の字になって、のびのびと寝ました。
よほど疲れていたのでありましょう。
まもなく彼はぐっすりと寝こんでしまいました。
やがて兵曹長が目をさましたときには、あたりはすっかり明けはなれ、明かるい日光が窓からすうっとさしこんでいました。
「あっ、とうとう夜が明けちまった。
はてな、昨夜来るといった帆村探偵は、ついに顔を見せなかった」「一体、帆村さんはどうしたんだろう?」
あんなに約束してくれたのに、昨夜やってこなかったことで、小浜兵曹長は不安になりました。もしかすると帆村さんは、昨夜自分を海底牢獄から助け出したことが怪塔王にバレてしまい、ひどい目に遭わされているのではないか……と心配でなりません。
兵曹長は藁の上から降りると、日課にしている準備体操を始めました。連日の激闘で体の節々が痛くてたまりませんが、何度も繰り返すうちに、少しずつほぐれてきました。体操を終えると、兵曹長は周囲に細心の注意を払いながら、そっと窓のそばへ寄り付きました。その瞬間、彼の目に異様な光が宿りました。
2
この見張小屋は、小高い丘の上の岩陰に建っていました。そこからは、この島の「怪塔ロケット」の根拠地が一望できました。恐ろしい白骨島ではありましたが、朝の景色はとてもきれいでした。眼下の広場に林のように立ち並ぶ怪塔ロケットは、全身に朝日を浴びて銀色に輝き、今にも空へ飛び出そうと天空を睨みつけています。
その広場に、たった一人だけぶらぶらと歩いている人影がありました。何かを落としたのか、背中を丸めて地面を熱心に探しているようです。そのまま観察していると、その人物は時折立ち止まりながら、だんだんとこちらへ近づいてきます。
「あの男は、一体何を探しているんだろう?」
小浜兵曹長は強い興味を覚え、窓の陰からその男の動きをじっと見守っていました。男はどんどん丘の方へ近づいてきます。その時、ふと男が顔を上げました。兵曹長は初めて、その顔を正面から捉えることができました。その瞬間、兵曹長は思わず叫んで拳を握りしめました。
「あっ、あれは怪塔王だ!」
「間違いなく怪塔王だ。あんな妙な顔をしている人間は、世界中どこを探したって二人といないからな」
それからは、兵曹長はさらに熱心に、こちらへ近づいてくる男の行動を凝視しました。やがて兵曹長は唇を一文字に結び、ニヤリと笑いました。
「そうだ、よし。今から出かけていって、怪塔王を捕まえてやる。あいつはまだ、俺がここにいることに気づいていないようだ。ふむ、これは面白くなってきたぞ」
兵曹長は自分の腕を叩いて、自信たっぷりに笑いました。
3
小浜兵曹長は、丘の上の見張小屋から勢いよく飛び出しました。
(うまく怪塔王の背後に回り込めれば、ちょっとした格闘の末に捕まえられるはずだ。怪塔王さえ捕まえてしまえば、たとえ怪塔ロケットが何機あろうと、ここが白骨島の根拠地であろうと、やつらは俺に降参するしかない。うん、これは実に素晴らしい考えだ。よし、怪塔王を捕まえてやるぞ!)
兵曹長の胸は、怪塔王を生け捕りにした後の勝利を想像して、ワクワクと高鳴りました。彼は見張小屋を後にし、岩の間を縫うようにして山を降りていきます。ときどき岩陰から怪塔王の様子をうかがいましたが、どうやら怪塔王はまだこちらに気づいていないらしく、しきりに地面を探し続けています。
(よしよし、この調子なら、もうしばらくは気づかれないだろう。さあ、一気に背後へ回り込むんだ)
小浜兵曹長の追跡は、いよいよ熱を帯びてきました。こんなこと、軍艦の帆桁(ほげた)から飛び降りることに比べれば、ずっと簡単な作業です。しかし、兵曹長は少し無茶をしているのではないでしょうか。帆村探偵は、兵曹長が怪塔王の仲間に見つかることを非常に恐れていました。それなのに、あえて小屋を出て追跡を始めるのは、少しばかり向こう見ずな行動のようにも思えます。
そのうちに、小浜兵曹長はついに、怪塔王の背後に忍び寄ることに成功しました。怪塔王は何も知らず、まだ地面を探しています。こうなれば、怪塔王はもう兵曹長の手の中にあるも同然です。
「やっ!」
小浜兵曹長は気合とともに、怪塔王の背中へ飛びかかりました。
大格闘
1
「この野郎!」
小浜兵曹長は怪塔王の背後から飛びつき、砂原の上へ力任せに押さえつけました。
「ううーっ!」
怪塔王は凄まじい力を振り絞り、下から激しく跳ねのけようとします。
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