五十六 このように、ひっきりなしに届く電報によってあらかじめ危険知らされていたため、アメリカのほうでは、夜が明けないうちから相当な覚悟をして警戒にあたっていました。
できる限りの頑丈な防御策を考え出し、実際に行動に移したのです。
ハットン市にあるだけの蒸気ポンプ車がすべて引っ張り出され、街中に配備されました。
これだけの備えがあれば、もし街中が同時に火事になっても、すぐに消し止めることができるだろうと思われたのです。
いや、そもそも火事なんて起きるはずがない――そう考えるようにしながら、街中にある限りの布という布を取り出し、すべての燃えやすい物質をそれで幾重にも包み込み、さらにその上からたっぷりと水を染み込ませました。
これならば、燃やそうとしても絶対に燃えようがありません。
しかし、この上さらに何か良い工夫はないものかと、人々は言葉には出さないまでも胸を痛めながら備え続けました。
そうしているうちに夜が明けましたが、
人々はもう絶望のなかから絞り出した勇気を頼りに、太陽の猛烈な熱さと戦い始めたのです。
五十七 その悲惨な様子は、わざわざくわしく語るまでもありません。
電報で知ったヨーロッパの様子と、ほとんど大差はなかったと言えば、どれほど凄まじかったか分かるでしょう。
それでも、事前の用意が行き届いていたぶんだけ、被害は少しは軽かったかもしれません。
ヨーロッパと同じように激しい風、暴風、ものすごい突風、狂ったような風が吹き荒れ、同じように激しい雨や洪水が降り注ぎ、同じようにほんの一時は生き返ったような心地になり、そしてさらに同じように、さきほどよりも倍増したすさまじい暑さに苦しめられた末、やっとの思いで「日の入り」という休戦タイムに助けられたのでした。
五十八 しかし、あの日の入りのすさまじい光景を目の当たりにした者たちは、明日という日が本当にやって来るとは到底思えませんでした。
ただただ絶望するばかりだったのです。
十六 夜の光景
太陽が沈んでいくときの様子を見た人たちは、このあとに待ち受けているさらなる恐怖を想像して、震えが止まりませんでした。
太陽そのものの大きさが、すでに普段よりも何十倍にも大きく膨れ上がっていたのです。
その太陽の下の端が地平線に届いてから、上の端がすっかり地平線に隠れてしまうまでに、およそ一時間もかかりました。
太陽がすっかり沈んだあとの西の空に、夕焼けの名残が美しく残ることは誰もが知っている通りです。
普段であれば、それは赤く美しく見えるものでした。この夕映えが、まるで燃え盛る炎のようにすさまじい勢いで空いっぱいに広がっていきました。
そのせいで、太陽が沈んだあとなのに、まるでいつもの真昼のように明るかったのです。
五十九 この夕焼けはいったい何なのでしょう。
それは太陽からものすごい勢いで飛び散る宇宙の炎なのです。夜が進むにつれて少しは薄れはしたものの、時々まるで炎が立ち昇るように見えるその広がりは、何百億、何千億里という途方もない広さに及んでいるのか、検討もつきませんでした。
すでに真夜中になると、ちょうど北極や南極の地方で見られるオーロラのようなまばゆい光が、時々西の空から発生しました。
オーロラといえば、これまで世界の人々が「この世のものとは思えないほど美しい大自然のショーだ」と見上げていたものですが、この夜の光に比べたら、ほとんど見る価値もないほどちっぽけなものに見えました。
この夜の光は、完全に太陽の光と炎の大爆発そのものだったのです。
西の空から発生した光は、なんと空の真ん中にまで達しました。
六十 このとき、あの地底の研究所にいる物知りな理学博士の先生は、鉄の窓を開け、分厚いガラス越しにこの様子を観測していましたが、こうしたおかしな現象がどうして起きるのか、その理由を納得しました。
太陽のまわりの硬い殻が突き破られたため、その内側にずっとたまっていたエネルギーの大元となる粒子が爆発し、光のスピードに匹敵するほどのものすごい勢いで四方八方に飛び散っているのだと。
今や、太陽をめぐる星々の全体が、この飛び散る粒子を浴びせられています。
このまぶしく光り輝く空の中で、火星の輝き方は昨夜よりも一段と増していました。
今、この火星が私たちの地球に向けていったいどんな合図を送っているのか分かりませんが、ヒマラヤ山天文台からは何の連絡もありません。
ほかの大陸からの連絡もすべて途絶えてしまい、もうありとあらゆる通信手段が完全に消滅してしまったのです。アメリカの人々は、いよいよこれが世界の終わりの審判の日なのだと悟り、その最後の日がやって来るのをただ待つばかりでした。
六十一 さらに夜がふけてからの様子は、言葉では言い表せないほどすさまじいものでした。空いっぱいに広がる粒子はどんどん濃くなり、地上の明るさは、これまでの自然界では見たこともないような不気味な色を帯びていきました。
これを見ると、夜が明けたあとにいったいどうなってしまうのか、恐怖と絶望がますます深く人々の心に染み込んでいくのは、どうしようもありませんでした。
「もしかしたら、この夜のあいだに太陽の勢いが少しは弱まるかもしれない」と、無理やり自分を励まして慰める人もいましたが、午前三時になると、そんな甘い期待はただの勘違いだったことが分かり、わずかに残っていた希望の光もすっかり消えてしまいました。
ふだんならまだあたりは真っ暗な時間帯であるはずなのに、三時を少し過ぎた頃には、早くも東の空に太陽の「前触れ」が現れました。
昨日の夜に西のほうから立ち昇った不気味な光が、今度は東のほうから現れたのです。
夜のあいだに太陽はアジアを通り過ぎ、太平洋を通り過ぎ、一歩も勢いを弱めるどころか、かえってより猛々しく、激しさを増していました。
すさまじい粒子の飛び散り方を見ても分かる通り、かつては人々に恵みを与えてくれるありがたい大きな光だったものが、今や世界を徹底的に破壊する恐ろしい巨大な機械と化していたのです。
六十二 東の空が明るく、さらに明るく開けていき、日が昇る少し前になると、空の色があまりにもまぶしくて、いつものように太陽を直接見ることなどとてもできないほどになってしまいました。
六十三 この様子では、いよいよ太陽が昇ってきたらとても耐えられないに違いないと思われましたが、案の定その通りでした。
地平線から現れてきた日光は、単なる光ではなく、まさに「光と炎の大洪水」そのものでした。
もしこの世に「火の洪水」というものがあるならば、これこそが間違いなく火の洪水でした。
六十四 太陽が、大西洋の海岸から照らしはじめ、太平洋の海岸へと移動していくにつれて、その光線が当たった場所はことごとく火の手に包まれました。濡らした布やポンプ車の水で防げるなどと考えたのは、あまりにも愚かでした。
硬い石さえも熱で焼けただれ、バラバラに砕け散りました。
街の塔やとがった屋根などは、まるで大地震に揺さぶられているかのように、激しく燃えながら次々と崩れ落ちていきました。
コメント