あたりが一気にパッと明るくなった。
倒れていたのは、二人の洋装の男だった。
文彦はそのランプの光で二人の顔をのぞき込んだが、
「あっ!」
と言ったきり、ランプをその場に落としてしまった。
この様子に東助はびっくりして駆け寄りながら、
「もしや若旦那様、どうなされたのですか!
もしや若旦那様!」
と声をかけた。文彦はやっとの思いで気を取り直して正気を取り戻すと、再びその人にしがみついて、
「叔父さん!
僕です、文彦です。
しっかりしてください!
文彦です、文彦です!」
と言いながら抱き起こした。
東助もようやくそれが誰だか気づいて、
「おお、篠山の旦那様でございますか!
どうかしっかりなさってくださいまし!
若旦那様と東助がお迎えにあがりました。もしや……」
とすがりつき、耳元で声をかけた。
「薬を! 水を早く!」
「はい!」
と東助が差し出した気つけ薬を口に入れ、水筒の水を飲ませると、今まで息も絶え絶えにうめいていた博士は、やっとのことで目を開けた。
「叔父さん! 気がつきましたか?
文彦です、僕です!」
「おお、文彦か……」
「はい!」
「篠山の旦那様! 気がつかれましたか!」
「よく来てくれた……」
と言いかけたが、一時に安心したのと同時に、今まで張りつめていた気もゆるんでしまい、再びその場に倒れそうになった。
「叔父さん、どうかしっかりしてください!」
とブランデーを口に注ぐと、ようやくまた正気を取り戻し、
「よし……もう俺は大丈夫だ。杉田を、杉田を……」
と指さしたので、
「はい!」と文彦はそばで倒れ込んでいる助手の杉田を抱き起こしてみたが、すでに息を引き取っており、体は氷のように冷え切っていた。
それでも万が一にと、薬を飲ませていろいろと介抱したが、もうどうすることもできなかった。
「叔父さん、杉田はもうダメです。とても助かりません……」
「そうか……かわいそうなことをした……」
博士は思わずハラハラと涙を流した。
博士の行方
しばらくして文彦は思い出したように言った。
「叔父さん。今、私たちの道具はここから十五里(約60キロメートル)ばかりのところに置いてあります。そこまでお連れしたいのですが、このご様子ではとても動かすことができません。ですから、まずは荷物をすべてこちらへ運んで、しばらくここで看病しようと考えています。それで、私はこれからそれを取りに戻ります。その間、この東助をそばにつけておきますから、二、三日このままどうか我慢していてくださいまし。」
と耳元でささやくと、博士は静かにうなずいた。
文彦は立ち上がって東助に向かい、
「それでは僕はこれから行ってくるから、留守をしっかり頼むぞ。」
「かしこまりました。どうぞお気をつけて。」
「じゃあ、あとをよろしく頼むよ。」
と言って、ふたたびその洞穴を出て、もってきた道を引き返した。
二日目の朝、ようやく自分のテントに戻ると、まず飛行船を組み立てて、テントなどを片付けてその中にしまい込み、大急ぎで飛行船に乗って、再びあの洞穴へと戻ってきた。
飛行船を降りるやいなや、
「東助! 東助!」
と呼んだが、何の返事もない。
「どうしたんだろう……」
と独り言をつぶやきながら奥へ進むと、灯りは消えてあたりは真っ暗闇だった。
「叔父さん! ただいま帰りました、文彦です。東助! 東助はいないのか!」
と大声を張り上げたが、相変わらず返ってくるのは、自分の恐ろしい声の反響だけだった。
文彦の心に一気に不安がわき上がり、急いで懐中電灯をつけてみると――
「やっ……! やっ……!」
誰もいない!
洞穴の中はもぬけの殻だ!
ただ一人、杉田の亡骸(なきがら)だけが残されていた。「しまった!」
と叫んで、一瞬頭がまっ白になり呆然としましたが、すぐに気を取り直して、そばに投げ捨てておいた自分の銃を拾い上げました。今すぐ駆け出そうとしたその時、何かに足を引っかけてしまい、激しく転んでしまいました。
ハッとして慌ててマッチを擦ってあたりを照らしてみると、
なんと東助でした! 東助が銃を持ったまま、うつぶせの状態で倒れていたのです。
文彦はすぐに駆け寄って抱き起こし、
「東助! どうしたんだ、しっかりしろ!」
と声をかけながら、気つけ薬を飲ませました。すると、やっとのことで息を吹き返したかと思うやいなや、突然、
「畜生、逃がすものか!」
と立ち上がろうと暴れ出しました。文彦は必死に体を押さえつけて、
「おい東助。
僕だ、文彦だ。
いったいここで何があったんだ!」
と尋ねました。すると東助は、その声を聞くやいなや、文彦にしがみついて、
「若旦那様……本当に悔しいでござります……!」
「どうしたんだ。
叔父さんはどうされた?」
東助は泣きじゃくりながら、こう語り始めました。
「私がお預かりしていながら、本当に申し訳ございません。あなた様がお出かけになったあと、大旦那様の看病をしておりましたところ、二日目の夜になって、入り口のほうから何やら足音がいたしました。てっきりあなた様がお帰りになられたものと思い、すぐにでお迎えに出ましたところ、いらしたのはあなた様ではなく――」
「えっ?」
「あの憎らしい秋山男爵でございます!」
「なんだって? 秋山男爵だって?」
「はい。
下僕と二人でズカズカと入ってきたのです。」
「ううむ……。
それからどうした?」
「『ここだ、ここだ』と言いながら、暗くて見えなかったのか、私には目もくれず、二人でどんどん奥へ進んでいきました。どうするつもりかと私も後ろからついていきますと、大旦那様のお姿を見るなり、『おお、篠山博士ですか。秋山が、月子様のお言づけでお迎えに上がりました』と申しますので、私は慌てて飛び出していきました。そして、『旦那様は、私の若旦那様が二日も前にここでお会いになり、今お荷物を片付けてこちらにお越しになるはずなのだ!』と申し上げたのですが……」
「うん。
それからどうなったんだ?」
「秋山の畜生め!
思いがけない私を見て驚いた様子でしたが、連れの平三(へいぞう)に何か耳打ちをしたのです。すると乱暴にも平三が、あんなに衰弱しきっていらっしゃる旦那様をひょいと担ぎ上げて逃げようとしたのです!」
「なんだって、平三が!?」
「はい!
だから『そんなもの逃がせるか!』と私も必死にしがみついて争いました。しかし悲しいかな、二人を相手にするのは難しく、とうとう洞穴の外へ連れ出そうとされました。せめてもの手段として、この上は銃で撃ち殺してでも止めてやろうと思い、追いかけて外に出ようとしたその時、秋山男爵に胸のあたりを強烈に殴られて……! それから後のことはまったく覚えておりません。たった今、若旦那様のお声でようやく正気を取り戻した次第でございます……」
東助は涙ながらにそう話しました。
それを聞き終えた文彦は、がっくりと肩を落として、
「ああ、せっかくここまで苦心して探したのに、なんて悔しいことをしてしまったんだ……」
とうなだれながら吐き捨てました。そして、怒りに満ちた表情で天を仰ぎ、大きく深い溜息をついたものの、再び強い決意を込めて立ち上がりました。
「東助、こうなっては力ずくでも叔父さんを取り戻すしかない。
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