初級翻訳・月世界競争探検 第4話

押川 春浪

叔父さんを無事に连れ帰るためなら手段は選んでいられない。あのままにしておけば、悪知恵の働く秋山男爵のことだ、この上どんな卑劣な手を使って私たちを苦しめ、さらにハトのように純粋な月子さんを弄ぶか分からないからだ。さあ、今からすぐに出発するぞ。お前もついて来い!」
「どうかあの敵を討ってください! 私はもう死んでも、あの秋山めを懲らしめてやらずにはおきません!」
二人は急いで外へ飛び出し、飛行船に飛び乗ると、全速力で空へと上昇しました。
これは、秋山がすでに叔父を乗せて地球へ向けて出発してしまっていないかを確認するためでした。

月界の活劇

見当の秋山の姿はどこかとあたりを見回しましたが、まだ出発した形跡はありません。
「やれ、まずは一安心だ」と胸をなで下ろし、今度は双眼鏡でさっきの洞穴のあたりを注意深く見渡すと、
「ありがたい、まだいるぞ!」
洞穴から一里(約4キロメートル)ほど離れた場所に、一機の飛行船が停まっており、そのそばで二人の男がなにやら慌ただしく動き回っています。
疑いもなく、あれは秋山男爵の一行違いありません。
しかし、もう一瞬たりとも油断はできません。
彼らがあんなふうに動き回っているのは、間違いなく出発の準備をしている証拠です。
文彦はエンジンを全開にして猛スピードで近づいていきました。向こうもそれに気づいたのか、慌てて飛行船に飛び乗ると、まさに飛び立とうと巨大な両翼をゆっくりと動かし始めました。
まだ両者の間には一里ほどの距離があります。
いまの一瞬は、文彦にとっては千万年にも匹敵するほど長く感じられました。
彼は限界まで電流を送り込んで飛行船を急接近させながら、警告として空砲を一つ打ち鳴らしました。
まさに全速力で出発しようと操縦レバーを握っていた秋山男爵は、突然の銃声に思わず手を離してしまい、レバーが逆回転して飛行船はわずかに降下してしまいました。
「ハッ」と気づいて態勢を立て直した時には、すでに文彦の飛行船は手が届きそうなほどの至近距離まで迫っていました。
「秋山男爵!」
文彦は鋭い声で呼びかけ、
「お久しぶりでございます。」
と、あえて丁寧に挨拶をしました。
「ほう……。」
秋山男爵は、どこまでも傲然とした態度で答えました。
文彦はそれに怯むことなく、言葉を続けました。
「秋山男爵。改めてはっきり言いますが、僕は叔父を受け取りにきたのです。」
「叔父だと? 叔父というのは、あの篠山博士のことかね?」「そのとおりだ。」
秋山男爵は急に言葉を荒らげて、
「馬鹿なことを言うな。身勝手な言い分にもほどがあるぞ。僕がここまでわざわざ命がけでやってきたのは何のためだ。ただ篠山博士の居場所を探し出すためだけだ。それほどの苦労の末に手に入れた博士を、どうして簡単に貴様などに渡すことができようか。馬鹿め、それほど欲しいならなぜ自分で探さなかったのか!」
と、図々しくも逆に言い返して、
「僕は命をかけて博士を手に入れたのだ。それが欲しければ、貴様も命をかけて奪い取るがいい!」
「いいだろう。決闘の用意をしなさい!」
「生意気な口をきく小僧め。さあ、相手になってやろう!」
とお互いに銃を構えたその瞬間、突然一発の銃声が響き渡り、秋山男爵は、
「しまった!」
と叫んでぐっと後ろに反り返りました。
文彦が何事かと驚いていると、
秋山男爵は苦しそうな顔でこちらを睨みつけ、
「雲井、貴様は卑怯にもこんなやり方で撃ったな……!」
と言いました。
すると東助がすっくと立ち上がり、
「貴様を撃ったのは若旦那じゃねえ! 若旦那は貴様のような根性の曲がった真似はなさらない。貴様を撃ったのは俺だ! 今ここで若旦那と命のやり取りをする前に、俺はさっき洞穴の中で貴様からもらったあの借りを返してやったのさ!」
と、実に憎々しげに言い放ちました。
秋山男爵はその言葉を聞くと、
「くそっ、無念だ……!」
と一言叫んだかと思うと、急所に受けた傷がもとで、あっけなく息絶えてしまいました。
文彦は、いくら悪人とはいえ男爵の死を悼み、杉田とともに月面へ手厚く葬り、その上に記念碑を建てました。そしてその後一週間ほどその土地に留まって博士が少し元気を回復するのを待ち、博士、東助、そして主人の死をきっかけに心を改めて従うようになった平三の面々が、それぞれ二隻の飛行船に分かれて乗り込み、地球に向けて出発したのです。
(「探検世界」明治四〇年一〇月増刊号)

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