初級翻訳・杜松の樹 第2話

グリム ヴィルヘルム・カール

「お前、いったいどうしてそんなことをしたの! まあいいわ、黙って、誰にも知られないようにしておいで。一度起きてしまったことは、もう取り返しがつかないんだからね。あの子はスープにしてしまおうよ!」
こう言って、お母さんは小さな男の子の体を持ち上げると、バラバラに切り離して鍋の中に放り込みました。そしてぐつぐつと煮込んでスープを作りました。
マリちゃんはそのそばで泣いて泣いて、泣き通しました。でも、マリちゃんの涙はみんなお鍋の中にポタポタと落ちて、おかげで塩を入れなくてもいいくらいでした。

やがてお父さんが仕事から帰ってきて、食卓の前に座ると、「あの子はどこへ行ったの?」と尋ねました。
すると母親は、大きなお皿にたっぷりと黒いスープを盛って運んできました。
マリちゃんはまだ悲しくて、顔も上げられないまま、おいおいと泣いていました。
お父さんはもう一度、「あの子はどこへ行ったの?」と聞きました。
「ねえ、」とお母さんは言いました。「あの子は田舎へ行きましたよ。ミュッテンの大叔父さんのところに、しばらく泊まりに行くんですって」
「いったい何しに行ったんだい?」とお父さんは言いました。「おれにひとことの断りもしないで!」
「ええ、何だかとても行きたがって、『六週間だけ泊まらせてほしい』って私に言ったんです。向こうに行けば、きっと可愛がってもらえるわよ」
「ああ、それは本当に困ったね」とお父さんは言いました。「まったく、おれに黙っていくなんてこと、普段ならありやしないんだがなあ」

そう言いながら食事を始めると、お父さんはまた言いました。
「マリちゃん、何をそんなに泣いているんだい? お兄ちゃんなら、きっとすぐに帰ってくるさ」
それから、おかみさんの方を向いて言いました。
「おい、母さん、このスープはとても美味いぞ! もっとくれよ!」
食べれば食べるほど、いくらでもお腹に入っていきます。「もっとくれ! 残すのはもったいないから、おれがひとりで全部いただいちゃおう!」と言いながら、お父さんはとうとう一人で全部平らげてしまい、食べ終わると骨を食卓の下へポイッと投げ捨てました。

するとマリちゃんは、自分のたんすのところへ行って、一番下の引き出しから一番上等の絹の手ぬぐいを取り出しました。そして食卓の下に落ちた骨を一つ残らず拾い上げ、手ぬぐいに包むと、泣きながら外へ持って行きました。
マリちゃんがその骨を杜松(ねずのき)の根元の草むらに置くと、不思議なことに、さっきまでの重苦しい気持ちがすっと軽くなり、もう涙も出なくなりました。

そのとき、杜松の樹がザワザワと激しく揺れ動き、枝と枝がまるで両手をパチパチと叩いて喜んでいるかのように、くっついたり離れたりしました。
すると、木の中から白い雲がモクモクと立ちのぼり、その雲の真ん中でパッと明るい火が燃え上がりました。そして、その火の中から一羽のとても美しい鳥が飛び出してくると、すばらしい声で歌いながら、空高く舞い上がっていきました。
鳥が遠くへ飛んでいってしまうと、杜松の木はまた元の静かな木に戻り、手ぬぐいは骨といっしょにどこかへ消えてなくなっていました。

マリちゃんは胸がすっかり軽くなり、お兄ちゃんがまだどこかで生きているような、そんな温かい気持ちになって、嬉しくてたまりませんでした。そこでご機嫌よく家の中へ戻り、夕ご飯を食べました。

さて、あの鳥はどんどん飛んでいき、金細工職人の家の屋根にとまると、こんなふうに歌い出しました。

「母さんが、わたしを殺した、
 父さんが、わたしを食べた、
 妹のマリちゃんが、
 わたしの骨をのこらず拾って、
 手巾に包んで、
 杜松の樹の根元へ置いた。
キーウィット、キーウィット、何と、綺麗な鳥でしょう!」

金細工職人は自分の仕事場に座って黄金の鎖を作っていましたが、屋根の上から聞こえてくる鳥の歌声を聞きました。「なんといい声で鳴く鳥だろう」と思った職人は、作業の手を止めて、見に来るために立ち上がりました。けれども、お部屋から飛び出すときに、玄関のドアのところで片方の靴が脱げてしまいました。だから鳥は、片足には靴を履き、もう片方の足は靴下のままで、前掛けをつけたまま、片手には黄金の鎖を、もう片方の手にはヤットコ(やっとこバサミ)を持って、外の街へとびだしていきました。
そして明るいお日さまの下に立って、鳥は歌いながらみんなにその姿を見せました。
「鳥さん、鳥さん!」と、金細工職人が言いました。
「なんていい声で歌うんだ。
もう一度、あの歌を歌っておくれよ」
「ううん、ダメだよ」と鳥は言いました。
「タダでは二度は歌わないよ。
代わりにその黄金の鎖をくれるなら、もう一度歌ってあげる!」
「よしきた!」と金細工職人は言いました。
「その黄金の鎖をあげるからさあ、もう一度歌ってみておくれ!」
それを聞くと、鳥はふわりと降りてきて、右の足の指で黄金の鎖を受け取りました。そして金細工職人のすぐ目の前にとまって、歌いました。

「母さんが、わたしを殺した、
 父さんが、わたしを食べた、
 妹のマリちゃんが、
 わたしの骨をのこらず拾って、
 手巾に包んで、
 杜松の樹の根元へ置いた。
キーウィット、キーウィット、何と、綺麗な鳥でしょう!」

歌い終わると、鳥は今度は靴屋のお店へ飛んでいき、屋根の上にとまってまた歌いました。

「母さんが、わたしを殺した、
 父さんが、わたしを食べた、
 妹のマリちゃんが、
 わたしの骨をのこらず拾って、
 手巾に包んで、
 杜松の樹の根元へ置いた。
キーウィット、キーウィット、何と、綺麗な鳥でしょう!」

靴屋はこの歌を聞くと、シャツ一枚の姿のまま外へ飛び出して、おでこに手をかざしながら屋根の上を見上げました。
「鳥さん、鳥さん!」と靴屋が言いました。
「なんていい声で歌うんだ!」
そう言って、靴屋はお家の中へ声をかけました。
「お母さん、ちょっとこっちに来いよ! 鳥がいるんだ。
ちょっとあの鳥をごらんよ! すごくいい声で歌うからさ!」
それから、自分の娘や子どもたち、職人さん、小僧さん、お手伝いさんたちもみんな呼び出したので、みんなで通りに出てきて鳥を眺めました。
鳥は赤と緑の羽をしていて、首のまわりには黄金の首飾りをつけているかのように輝き、二つの目はまるで星みたいにキラキラと光っていました。
その姿は、本当にうっとりするほど美しかったのです。
「鳥さん、鳥さん!」と靴屋が言いました。
「もう一度、あの歌を歌っておくれよ」
「ううん、ダメだよ」と鳥は言いました。
「タダでは二度は歌わないよ。
代わりに何かくれるかい?」
「お母さん!」と靴屋が言いました。
「お店に行って、一番上の棚にある赤い靴をひと組持ってきておくれ」
そこで、お母さんはお店に行って、その赤い靴を持ってきました。
「さあ、鳥さん!」と靴屋が言いました。
「もう一度、あの歌を歌ってみておくれ」
すると鳥はふわりと降りてきて、左の爪で赤い靴を受け取ると、また屋根の上へ飛んでいって、歌い出しました。

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