しかし僕がそれをつっこむと、たいてい失敗してこっちが田舎者扱いされる。でも、こんどこそはタクマ少年をぎゃふんと言わせてやれるはずだ。
「ねえ、タクマ君。君は今、魚の群れを見物するために、この町で一番高い所へ案内しますと言ったけれど、それは言い間違いじゃないかな。だって魚は海の中に泳いでいるんだから、それを見物するためには、一番高い所ではなくて、一番低いところへ行かなきゃいけないはずだよ。ねえ、君。そういう理屈だろう?」
そう言って僕は、どうだと言わんばかりに胸を張って少年を見た。
「いいえ、お客さんのおっしゃることの方が間違っていますよ。だってこの町では、下へさがればさがるほど魚なんていませんからね」
「深海魚ならいるんだろう?」
「いえ、そこには水なんてなくて、土と岩石ばかりですよ。だから魚は住めません。でも、一番上へ行けば、海の中が見えますから、魚だって見えるわけです」
「なんだか君の言うことはちんぷんかんぷんで、さっぱりわからないね」
と、僕はとうとう、あきらめてしまった。
海中展望台
タクマ少年の言うとおりにして、僕は何度も動く道路を乗り継ぎ、どんどん運ばれていった。その途中には、トンネルがあったり、明るい商店街があったり、にぎやかなプールがあったりして、動く道路の上に座って遠くから眺めているだけでも全く退屈しなかった。この二十年後の世界の人々は、みんな幸福そうに、とても明るい顔をして元気に動き回っている。動く道路が、螺旋(らせん)のようにぐるぐると回りながら、だんだん高いところへ登っていくのがわかった。
「お客さま。目的地に近づきましたから、そろそろ降りる準備をしましょう」
タクマ少年が僕の方を振り返ってそう言うと、座っていた僕も慌てて腰を上げた。降り損ねたら大変だ。美しいすみれ色の大きな星が空に輝いている――と思ったけれど、それはどうやら明かりらしい。灯台の光だろうか。かなり高いところにある。そのすみれ色の明かりを目がけて、この動く螺旋の道路は近づいていくようだった。
「さあ、道路を飛び越えますよ」
庭の飛び石を越えるときのように、僕たちは高速道路から低速道路へと渡っていった。そして最後にぴょんと、動かない歩道の上に降り立った。例のすみれ色の大灯火は、このときちょうど頭上にあった。よく見ると、それは天井についている大きな半球形の笠の中に入った電灯で、その笠には「海中展望台」という五文字が、しゃれた字体で記されていた。
「いよいよ来ましたよ。ここが、この町中で一番高いところです。ほら、この標柱を見てください。『スミレ地区|深度基点〇メートル』と書いてあるでしょう」
そう言ってタクマ少年は、そこに立っている厳かな石碑のようなものを指した。なるほど、確かにその通りに記されている。
「スミレ地区の深度基点はここだというわけだね。スミレ地区というのは、この町のことかい?」
「お客さんはスミレ地区へ見物に来ながら、ここがスミレ地区だということさえご存じなかったんですか?」
タクマ少年は、あきれ果てたというような顔つきで僕を見上げる。僕は恥ずかしくて、顔が赤くなった。
「今日は少し頭がぼんやりしているから、とんちんかんなことを言っているんだよ」と僕は言い訳をしてから、「おやおや、深度基点〇メートルはいいとして、その脇に注釈が書いてあるじゃないか。『世界|標準海面(基本水準面)下一〇〇メートル』とあるところを見ると、ここは大体、海面下百メートルの地点だということになる。ははあ、それでやっとわけがわかった。ここは海の底なんだな」
「お客さまは、ずいぶん頭がどうかしているんですね。ここが海底にある町だということは、赤ちゃんでも知っていることですよ。一体お客さまはどこからこの町へ来たんですか。海底の町へ来るつもりではなくて、この町へ来たんですか?」
「まあまあ、そう言わないでくれ。少し気分が悪いから、しばらく君は黙っていてくれないか。ああ、ちょっと休まないと、頭がしびれてしまう」
冗談ではなかった。僕はその場にしゃがみこんで、額に手を当てた。額には、ねっとりと脂汗がにじみ出ていた。大変なところへ来てしまったものだ、ここは深い海底なのだ。してみると、あのホテルを出てからずっと空だと思っていたのは空ではなくて、海底の町の天井だったのか。ああ、息苦しい、海の底に缶詰になっている身の上だ――と、僕は無理やり息苦しがってみたけれど、実は苦しくもなんともなかった。海底に缶詰になっているとは思えないほど空気はさわやかで、どこからともなくそよ風が吹いてきて額のあたりをなでた。それにバラのようないい香りがする……おかげで僕の気分はだいぶ落ち着いてきた。
「大丈夫ですか、お客さま」
僕が立ち上がったのを見て、タクマ少年が走り寄ってきた。「ああ、もう大丈夫。……それじゃあ、見物といこうか」
「本当に無理はしていませんか?」
タクマ少年はまだ心配そうな顔で僕を前の方へ案内し、「ここから海の中が見えるんです。よく見ていてください。魚や海藻だけじゃなくて、お客さんを驚かせるようなものがきっと見えるはずですから……」と言いました。
僕を驚かせるものとは、一体何のことだろう。
僕は水族館の魚を眺めるためのガラス窓のような場所に、顔を近づけました。
大海底
僕は目を見開きました。
大きなガラス張りの窓の向こうには、眼下に広がる雄大で不思議な光景が広がっていました! まるで那須高原に立って広大な平原を見下ろしているようでしたが、それよりもずっとずっと壮大な景色でした。
鼠色の丘がいくつも重なり合って起伏しています。
それから、空を突き刺すような林があちらこちらに見えます。
すると、その林が突然ゆらゆらと大きく揺れました。
林の中から、真っ黒な嵐の雲のようなものが現れ、急行列車のようなすごいスピードで通り過ぎていきます。――よく見れば、それは何千何万という魚の群れでした。
そして後ろに見える林は、ポプラの木に似ていますが、実はそうではなく、巨大な昆布の林であることがわかりました。
雲のような魚の群れが、左から右からと交差したり、突然空から舞い降りてくるように見えたり、あるいはまた急に目の前のガラスの向こうを嵐のように通り過ぎて、まるでトンネルの中に入ったかのように、しばらく何も見えなくなることもありました。
すばらしく元気な魚の群れです。
この大海底の住人は、魚たちなのです。
その大海底が、不思議なことに月光に照らされたかのように、遠くまでくっきりと見渡せました。
あとで聞いたところ、これは海底全体に強力な照明が行き届いているからだそうです。
「お客さん、わかりましたか。向こうに見える変なものが何であるか、おわかりですか?」
僕はタクマ少年の声でハッとして、我に返りました。
「ああ、そうだったね。何か変なものが見えるだろうと、君はさっきから言っていたね。それはどこかな?」
「あそこですよ。今、鯛の大群が通り過ぎていった海藻の林のすぐ右です」
「ああ、見える、見える、あれだね。なるほど、変なものが丘の上にある。まるで傾いたお城のようだが、一体何だろう」
「わかりませんか。
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