ペンペはどうなったのだろう。
「ああ、いい具合に落ちてくれた。自分の目玉を食べるなんて、なんて馬鹿な奴だ。ペンペの邪魔がいなくなれば、あとはもう俺のものだ」
ラランはいつものように、カラカラと笑いました。
標高五千メートル。
いつもならこの辺りに来るまでに疲れて落ちてしまうはずなのに、今回はなぜかひどく調子がいいのです。
けれども、鼻歌まじりに頂上を目指していたラランも、たった一人になると、ようやく疲れが出てきました。鼻歌もくしゃみに変わってしまいます。
「エベレストは思ったより遠いな」
そう独り言を言いながら辺りを見回すと、薄い日の光が美しくも妖しく満ちていて、もう夕暮れが近いようでした。下界を見下ろしても、雲や霧が海のようになっているばかりです。
悪いラランも、少しだけ寂しくなってきました。そして今度こそ、本当にお腹が空いてきました。
すると突然、エベレストの頂上から、大きな声で怒鳴るものがいました。
「ラランというのはお前か! エベレストはそんなカラスに用はないぞ。お前なんぞが来るのは山の穢れだ。帰れ、帰れ!」
山全体が動いたようでした。急に辺りが薄暗くなり、引き裂くような冷たい風の唸りが起きたので、驚いたラランは宙返りをしてしまいました。
そこへまた、雷のような怒鳴り声がしたかと思うと、小牛ほどもある硬い氷の塊がヒューッと飛んできて、正面からラランの体を跳ね飛ばしました。
「あッ」と叫ぶ間もなく、気絶したラランは、恐ろしい速さでグングンと下界へと落ちていきました。
もう夜になった頃です。深い谷間の底で、天幕を張ったイスラム教の旅人たちが二、三人、焚き火を囲んでガヤガヤと話していました。
「まさか、不思議なこともあるもんだ。両方の目玉がないカラスなんて、どういうことだろう」
「猟師に撃たれた様子でもなかったしな」
「でも、ここら辺の岩角に叩きつけられたら、どんなに生命力があっても助かるはずがない」
「そりゃそうだ。とにかく、かわいそうなやつだ」
これは多分、あのペンペの噂に違いありません。すると、元気で正直なペンペも死んでしまったのでしょうか。
そんな話をしていた最中、サーッと音を立てて、漆のように暗い空から、逆さまにもう一羽のカラスがパチパチと燃える焚き火の中に落ちてきました。
もちろんそれは、エベレストの怒りに触れて気絶したラランの姿でした。
旅人たちはすっかり面食らってラランを火の中から引き出しましたが、やっと正気づいたラランは、舌がうまく動かせないほど口の中を火傷していました。カラカラと笑うどころではありません。
そこで旅人たちからペンペの話を聞いたラランは、深く自分の行いを悔いて、ペンペを葬ってくれた旅人たちにすべてを懺悔しました。
翌朝、旅人たちは天幕を畳んで北の方へ出発しました。ラランはその醜い姿のまま残されました。
しばらくして、ラランはその弱った体で南へ向かい、暑いインドの方へふらふらと飛んでいきましたが、ガンジス川という大きな川の上流で、火傷した口の渇きを癒そうとして、誤って溺れ死んでしまいました。
今でも世界中のカラスの口の中には、その時の火傷の跡が真っ赤に残っているといいます。
人間に嫌われながらも、あのかわいそうなペンペのために泣いているのだそうです。
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