初級翻訳・火星兵団 第51話

海野 十三

それから、また、少しずつ前へ這って行った先生は、ちょうど、体をかくすのにつごうのいい岩かげを見つけ、ここへ滑りこんだ。
そして、そっと首を出して、例の西瓜のようなものが、一体何であるか見きわめようとした。
西瓜のようなものは、人の頭であることがわかった。
しげみの上から、人の頭が行列して、向こうへ歩いて行くのでであった。
それはしばしば木のかげになって、見えなくなったり、そうかと思うと、また、ひょっくり岩角から現れたりしたが、結局、不思議な人間の行列であることだけは、はっきりした。
「どうも、へんなかっこうをした人間どもだ」
 始めは、木のしげみの上から、首だけを出していたその怪しい人間どもは、だんだんと峰伝いに奥の方へ歩いて行く。
そうして、ようやく彼らの肩のへんが見え出し、やがて足のあたりまでも、見えるようになった。
彼らの頭は、いずれも西瓜のように、丸味を持っていた。
その西瓜のような頭の下には、ドラム缶のようにふくれた太い胴がついており、首は短くて、あるのかないのか、はっきりわからないくらいだ。
奇怪なのは、彼らの手足であった。
腕は、えもん竹のように張った肩の両端から、まるで竹箒をつったように、細いやつがぶらぶらしている。
足といえば、これも竹のように細く、曲っており、へんなかっこうで歩いている。
全体の色は、すこぶるあざやかなみどり色だった。
一体、何者?

29 ロボット

 峰伝いに遠ざかる怪人の群を、新田先生は岩かげから、ねっしんに見送っていた。
気がつくと先生は、全身にびっしょり冷たい汗をかいていた。
「な、何者であろうか?」
 どうも、たいへんな怪物に出会ったものである。もしかすると、あれは本物の人間ではないのかもしれない。
人造人間やロボットといった、人間の形をした機械があるけれど、そのロボットなのだろうかと思った。
それにしても不思議なのは、こんな山の中にロボットがぶらぶらと歩いていることだ。
もしかすると、軍隊がこの山の中でロボットのテストをしているのではないかと考えた。
だが、どうもロボットにしては変だと思えるところがあった。
もしロボットなら、歩き方などは機械的にきっちりと規則正しく動くはずである。
なぜなら、ロボットはたいてい電波などで動かされているものだから、ちょうど電気時計のように正確に動くはずなのだ。
しかし、今新田(にった)先生が見かけた怪しい人間たちの群れは、本当の人間と同じように、みんながそれぞれ勝手気ままに動いていた。
大股で歩いている者もいれば、ちょこちょこ歩いている者もいた。
それに、お互いに何か話をしているような者さえいた。
肩を組んで歩いている奴らまでいるのだ。
機械でできた、心を持たないロボットがそんなことをするだろうか?
いやいや、そんなことはしないはずだ。
「どうも、あいつらはロボットではなさそうだな」
ロボットでなければ、いったい奴らは何者なのだろうか?
新田先生は首をかしげた。
「……もしかすると、あいつらは火星からやって来た生き物なのではないか?」
火星の生き物だって?
そう考えた瞬間、新田先生は胸がドキドキと高鳴るのを感じた。
火星の生き物は、この前、千葉の湖のほとりにやって来たようだ。
千二(せんじ)少年の話によると、胴体が太くて手足が細く、丸い頭をしているということだから、今見た怪物たちにそっくりだ。
「ふむ、これはとてつもないものを見つけてしまったぞ」
先生は低い声でつぶやいた。
これはもう間違いなく、火星の生き物たちに違いなかった。
先生は、怪物たちの後を追いかけることに決めた。
怪物たちは、いつの間にか隣の山のほうへ姿を消してしまっていた。
山の向こう側へ下りて行ったのか、あるいはそのあたりに穴でもあるのだろうか。
先生はわざと道を遠回りして、険しい山の斜面をそろそろと登り始めた。
先生の指先が枝でやぶれて、血がにじみ出てきた。
一時間ほどかかって、先生はやっと山のてっぺんにたどり着いた。
「さあ、このあたりのどこかにいるはずだが……」
先生はまわりの様子に気を配りながら、そっと岩のかげから顔を出した。
「ほう、あった! あれだ!」
先生は思わずびっくりして声を上げた。
何があったのか? 先生の目に飛び込んできたのは、大きなドラム缶のようなものが、山の向こう側の斜面にどんっと突き立っている姿だった。
まるで小さな塔をそこに建てたかのような形をしていた。
「ああ、あれに間違いない。
千二くんが言っていた火星のボートというのは、きっとあれと同じものなのだ」
なんて奇妙な形をしたものだろうか。
その大きな円筒は、表面が変に焼け焦げたようになっていて、そのうえチカチカと薄い光を放っていた。
こんな人のめったに来ない山の中に、火星の宇宙ボートが着陸しているのだ。
新田先生の驚きは大変なものだった。
火星の生き物たちは、この山の中に宇宙ボートを置いて、いったい何をしようとしているのだろうか。
「早くこのことを知らせないと、大変なことになってしまう!」
新田先生は焦る気持ちでイライラしてきた。
では、このまま急いで山を下りようか?
(いや、このまま山を下りては物足りない。
火星の生き物たちは、まだ自分が近くにいることに気づいていないはずだ。だから、もっと奴らに近づいて、その様子をよく調べてから山を下りることにしよう)
新田先生は病み上がりの体ではあったが、この大発見をしたからには、ここで自分がもっとがんばらなければ、日本国民のため――いや、世界人類のために申し訳ないと考えた。
そこで先生は固く決心をすると、再びしげみの中をそろそろと前進していった。
何とかして、目の下に見えるあの火星のボートのところまで行ってみようというのだ。
先生はしげみの中を上手にすり抜け、ある時は岩のかげを利用しながら、だんだんと火星のボートに近づいていった。
気味の悪いボートは、近づくにつれて大きく見えてきた。
本当に、いやな気持ちがする色合いだ。
地球の人類ではない者が作っただけのことはある。
小さな窓のようなものが見えてきた。
穴のようなものもあった。
そこからは、うす赤い煙のようなものがスーッと出ていた。
しかし、火星人の姿はもう見えなくなっていた。
みんな、いったいどこに入ってしまったのだろうか。
だが、火星人の姿が見えないのを幸いにして、新田先生は誰にも見つかることなく、どんどん近づいていくことができた。
そして、ついに火星の宇宙ボートのすぐそばまでやって来たのだ。
ボートを見上げて、新田先生は、そのボートの高さが三階建ての家くらいあることに、今さらながら驚いた。
新田先生は火星の宇宙ボートのまわりを、そっと歩いてまわってみた。
先生は、今、人生で初めて自分の目で火星の宇宙ボートを見ているのだった。
それはまったくもって不思議な乗り物だった。だが、いつ火星人たちに襲われるか分からないので、先生はあまりゆっくりと見ていることができなかった。
ほんの少しの間、あたりをキョロキョロと見回しただけだったけれど、先生は、これが間違いなく火星の宇宙ボートであると確信した。
その理由は、火星のボートの外壁を見ても分かった。

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